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生命情報学科(基礎理工学専攻 修士課程1年【※】)

神奈川県・私立慶應義塾湘南藤沢高等部出身

子どもの頃から植物や生き物に触れて育ち、高校時代は学業と趣味に熱中。高校の授業をきっかけに、生物を本格的に学ぼうと慶應義塾大学理工学部を選択しました。研究に邁進する傍ら、教職課程も両立。農園で野菜を育てたり、塾でアルバイトをしたりするなど、多様な環境で多くの人と関わって幅広い視野を培ってきました。自分の興味を原動力にアクティブに過ごすコツとは?“好き”を追求する信念について話を聞きました。

【※】インタビュー時点(2022年8月)の在籍学年です。

好きを突き詰めた高校生活。
遺伝子の仕組みに衝撃を受けて
生物を学ぶ道へ。

高校生活をどのように過ごしていましたか?

一貫教育校に通っていたため、受験勉強というよりは好きな内容を好きなだけ勉強していました。興味のある生物の教科書をスポーツジムに持っていきフィットネスバイクに乗りながら読んだり、好きなガーデニングの本を読んだり(笑)。子どもの頃から生き物が好きだったのですが、高校の生物の授業で遺伝子について学びさらに興味が湧きました。体の設計図であるDNAを読み解いて部品となるタンパク質を作る流れや、遺伝子を子孫に伝える仕組みは非常に興味深く、まるで機械のようにシステマチックな仕組みが生物には備わっているのだと感動。この経験から、大学でも生物について勉強したいという気持ちが高まりました。 学校の校風として文武両道というか、勉強だけをやっているのはつまらないという空気があったため、吹奏楽部の部活動や趣味にも邁進していました。学校帰りや休日にはよく友達と遊び、スポーツ観戦やお芝居を見に行ったり、家では手芸やガーデニングをしたり。自分の趣味が確立された高校時代でした。

慶應義塾大学理工学部に進学を決めた理由を教えてください。

高校時代、慶應義塾大学理工学部へ見学に行く機会があったのですが、生命情報学科の研究内容の広さに驚きました。菌などの小さなものを対象にしている研究室もあれば、脳の働きを研究している研究室もある。生物を学びたいという気持ちはあったものの、どの分野の研究をしたいのかは決められていなかったので、選択肢は広い方がいいと思いました。化学にも興味があり、学部2年で学科を決められる学門制【※】も魅力でした。1年の時に数学、物理、化学といろんな授業を受けてみて、本当に自分が生物に向いているのかを見極められたので良かったと思います。それに加えて、教職課程があることも決め手になりました。母親が高校の英語教師で、私自身も教育に興味があり教職を取りたかったんです。

【※】学門制…入試の時点で5つの「学門」のいずれかを選択し、入学後に自分の興味や関心に応じて徐々に学びたい分野を絞っていき、2年進級時に所属する学科を決定する慶應義塾大学理工学部独自の制度のこと。なお、2020年度の理工学部入学者から学門制が変更となり、各学門から進学できる学科が一部変わりました。学門制の詳細は以下のリンクを参照してください。

生命情報学科について特徴を教えてください。

生命情報学科の特徴は授業で扱う内容が非常に幅広いことです。生物はまだまだ解明されていないことが多く、ありとあらゆる学問を駆使してアプローチする必要があります。そのため学部2年で各学科に分かれてからも物理、化学、数学、情報の授業がありました。苦労した授業もありましたが、今研究をしていると思わぬところで役に立つことも。生物をさまざまな切り口から考えるための視点も養えるので、いろいろな分野を学べてよかったです。研究室についても、動物や細胞を育てて実験を行う研究室もあれば、プログラミングを用いて遺伝子解析やシミュレーションをしている研究室もあり多様性に富んでいます。 また、学科の人数が少なく、高校のクラスと同じくらいの規模なので顔見知りばかり。理工学部の中では女性の割合も多く、私の学年では3分の1が女性です。人数が少ない分、授業中も発言や質問しやすく、充実した学びができるのも特徴かも知れません。

研究と教職課程を両立。
多様な学びと人との出会いで
自分の可能性を広げる。

理工学部と教職課程の両立は大変でしたか?

もちろん受講する授業数は増えましたが、生命情報学科の授業と十分両立はできました。教育実習のために研究室を3週間ほど休みましたが、中学と高校の理科の教員免許を取得できました。教育観や社会観が変わり、教職をとってよかったと思っています。教職課程の授業で特に印象的だったのは生活指導論やカウンセリング論です。生命情報学科だと生物が主軸なので、人間の感情や社会の仕組みについて学ぶ機会はなかなかありません。そんな中で子どもたちが抱える課題やそれに対してどう接していけばいいのかを知れたことは、キャリアを考えていく上で大きなきっかけになりました。また教職課程の中で、違う学科や学部の友達ができ、教員を目指している人もいれば、学校を作りたい人もいて、同じ教育といってもいろんな志を持っている人と出会えたので、多様な考えを知る良い経験になりました。

学部生時代に印象に残っている授業はありますか?

理工学部の総合教育科目の中にある生物学実験集中の授業で、三浦の海で生物の採取をする授業は思い出に残っています。夏休みの間に4泊ほど滞在し、夜の海に光を当てて生き物をおびき寄せて網ですくったり、船でプランクトン採取に行ったり。今まで気に留めなかった生物にも名前があり、いろんな特徴を持っていることを知り刺激を受けました。
その他には、プログラミングの授業も思い出深いですね。最初プログラミングが全くできず、授業が終わっても課題が終わらず、いつも残って解いていました。でもTA【※】さんが一緒に残って教えてくださり、家で何度も復習していたら少しずつできるようになり、最後の授業で伸び代が1番だったと言っていただいた時はとても嬉しかったです。プログラミングをやったことがない方も、しっかり授業で習得できるので安心してください。

【※】TA…Teaching Assistant。担当教員を補佐する大学院生のこと。

勉強や研究以外で夢中になっていたことはありますか?

個人的に市民農園の一画を借りて、季節ごとにさまざまな野菜を育てています。もともと家でガーデニングをやっていたのですが、コロナ禍で大学に通えない時期に、気分転換を兼ねて始めました。野菜を育てること自体も楽しいのですが、畑に行くと会社を退職された方や地域の方などもたくさんいらっしゃって、野菜をいただいたり育て方を教えてもらったり。大学では交流できないような年齢層の人と農業を通してお話できることも楽しいです。 他には、小学生に対して環境教育や食農教育をする塾のアルバイトを5年間続けています。環境問題について議論したり、畑で農作業をしたり。子どもと一緒に体験学習や議論するのは刺激的で楽しい時間です。私自身も通っていた塾なのですが、ここで環境問題を知り、生き物を守りたいという気持ちになったので、そんな経験を子ども達に還元できれば嬉しいです。

生き物の進化に迫りたい。
学びたい気持ちこそが
研究の原動力になる。

現在取り組んでいる研究について教えてください。

研究テーマは大腸菌の進化です。食べ物に鉄や亜鉛などさまざまな金属が含まれ、人間がそれらを摂取しないと生きていけないように、大腸菌を含めたすべての生き物は金属なしに生きられません。必要な金属は生き物によって異なりますが、大腸菌が通常は利用しない金属をたくさん与えて育てることで、どんな進化が起こるのかを研究しています。大腸菌は分裂するスピードがとても速く、大体500日で2500回分裂するのですが、人間が100年間で4世代くらいと考えるとものすごい数の世代交代です。私はルテニウムという金属を与えて育てた大腸菌を研究しているのですが、元の大腸菌と比べてサイズが小さくなっていることがわかりました。さらに進化後の大腸菌は、祖先の大腸菌と比べて金属元素の利用方法が変わってきている可能性が示されています。これはルテニウムの影響と考えられ、加えた金属ごとに特徴的な性質を持つ大腸菌が生まれる可能性が見えてきています。 私の現在の研究は、わかりやすい形で社会に還元できるものではないかもしれません。けれど研究は自分の興味や学びたい気持ちが原点にある。「生き物の進化に迫りたい。進化って面白い!」という気持ちから突き詰めて研究することで、結果として社会に役立つことにつながっていけばいいなと思っています。

現在所属している研究室を選んだ理由はなんですか?

所属している生物機能化学研究室は、プラスチックを分解する菌や天然にはないタンパク質分子の設計、大腸菌の進化を研究しています。学部の授業で進化について学ぶ機会があり、生き物の進化に興味はあったのですが、私の一生程度の長さの時間では進化の過程はお目にかかれないと思っていました。でも大腸菌ならば数年の間でも十分進化を目撃できるとわかり、それってすごいことなのでは?と思い研究室を選びました。私の指導教員である川上了史専任講師の「研究は、役に立つかの前にまず”interesting”が大事だ」という姿勢にもとても惹かれました。

今後の進路や目標について教えてください。

今は業界や業種を絞らずに視野を広げている段階ですが、公務員や大学職員、教育関係の仕事に関心があります。 これまでの研究や、教職課程、アルバイトの経験から、学ぶことで将来の可能性を広げることができると身をもって感じてきました。一方で、色々な事情で学びたくても十分に学べない環境の子どもたちがいることも知りました。将来は、誰もが学びたいことを学べる社会や環境づくりに携わることができればいいなと思っています。

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