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生命情報学科(基礎理工学専攻 修士課程1年【※】)

東京都・都立調布北高等学校出身

小さい頃から植物が好きで、趣味は園芸。「いろいろなことが気になってしまう」と、生物、化学、気象、社会、政治へと幅広く興味のアンテナを広げていた高校時代。その根本にあったのは、「広く身近な不思議を解き明かしたい」という想いでした。慶應義塾大学理工学部に入学後は、学門制を通じて生物学の本当の面白さに目覚め、生命情報学の道へ。大学でのさまざまな人や学びとの出会いは、果たして彼にどんな影響を与えたのでしょうか。

【※】インタビュー時点(2018年9月)の在籍学年です。

葉っぱに抱いた小さな不思議。
幼い頃の好奇心が、
今の学びにつながっている。

高校時代はどんな生活をしていましたか?

勉強と部活と趣味と忙しく、でも楽しく過ごしていました。勉強は普段の授業をしっかりと受け、部活では中学校から続けていた卓球部に所属して、週に4回、放課後3時間ほど練習に取り組んでいましたね。あと、趣味では園芸をやったりと充実した日々でした。

園芸が趣味なんですね?

そうなんです。小学生の頃から植物を見るのが好きでした。特に葉っぱが好きで。葉っぱの模様が何でこんな形になるんだろう?と不思議に思って、育っていく過程が気になったのがきっかけですね。観葉植物のアロカシアとか、多肉植物系のサボテンとか、カネノナルキとかを育てていました。何となく、今の学びの領域につながっているんですよね。

慶應義塾大学を選んだ理由は?

きっかけは指定校推薦があったからです。部活を引退し、受験勉強に集中し始めた頃から、受験のための勉強ではなく、広くさまざまなことを学びたいと考えるようになったんです。もちろん受験のための勉強も大事だと思っていたんですが、一方で受験の科目だけをやっていると学びが偏ってしまうなと思って。そこで高校の先生方と相談し指定校推薦を使うことにして、余裕のできた時間に生物学や気象学、政治学などの高校では機会がなかった分野の勉強をしていました。いくつかあった指定校の中で慶應を選んだ理由は、「学門制【※】」に魅力を感じたからです。大学で一年間学んだ後に学科に分かれるということは、学びたいことをじっくりと見極めることができるため、いろいろなことに興味をもってしまう自分にはちょうど合っていると思いました。

【※】学門制…入試の時点で5つの「学門」のいずれかを選択し、入学後に自分の興味や関心に応じて徐々に学びたい分野を絞っていき、2年進級時に所属する学科を決定する制度のこと

いろいろなことに興味のアンテナが広がっているんですね?

一つのことだけを勉強すると視野が狭くなる感じがあって。広く身の回りのことを理解できたらいいなって、いつも思っているんです。例えば天気がどのように変化していくのかなんて、身近なことなのにちゃんとは知らないじゃないですか。そういうことが気になってしまうんです。それで新しいことを知ると嬉しくなって、またどんどん調べたくなって、という繰り返しですね。

さまざまな人や学びとの出会いが、
今まで知らなかった
「面白さ」に気づかせてくれた。

実際、理工学部に入学して興味のアンテナは変化しましたか?

入学時は物質に興味があって、別の学科を希望していました。主に大気汚染やエネルギーなどに興味を持っていたんですが、大学に入ってみたら生物への興味が湧き上がってきたんです。1年生の時の「生物学序論」の授業で、生命の仕組みなどを知った時に「生物ってすごいな」って思ったのが理由の一つです。ものすごく小さな世界の中でタンパク質などの物質を作ったり、エネルギーを作ったり、それが寄り集まって大きな個体になっているということに改めて衝撃を受けました。高校生の時は、生物はあまり科学的ではなく、暗記科目としか思ってなかったので。もっと理論的なものが学びたいと当時は思っていたんですが、「生物も理論的に説明できる!」と気づけたのは大きな発見でしたね。

勉強以外で新しい変化はありましたか?

立体パズルの競技に打ち込んできました。大学に入学してサークルの勧誘を受けている時、立体パズルサークルがあることを知りました。大学に入ったら新しいことを始めようと思っていたため、このサークルに入ってみたんです。立体パズルとしてはルービックキューブが代表的なものだと思いますが、僕はスキューブというパズルに出会い、熱中して毎日何時間も練習を繰り返していました。先輩方から解き方などを教えていただいたり、自分で解法を編み出したり、大会に参加したり。大学3年生の時には、ついに公式記録で日本3位となったんです。スキューブはマニアックなパズルなので競技人口は100人くらいなんですけどね。でも、嬉しかったです(笑)。

大学に入学して、さまざまな変化があったんですね。

大学では、勉強や研究に熱心な人、ボランティアなどの社会的な活動を積極的に行う人、スポーツや音楽などに打ち込む人など、いろいろな人がいることに驚きました。そういった人たちと出会うことが僕にとっては刺激的でした。そしてこういった人たちとさまざまなことを話しているうちに、自分自身の価値観を見直すことにもなり、いろいろな発見につながりました。変化した価値観としては、生物に対する考え方がまさにそうでしたね。それまでは「全て科学的に説明できるものの理論が重要だ」と思っていましたが、そうではなく「理論を探す方が面白い」と思うようになったんです。数式で表せないような「分かっていない状態のものを探す」というところに面白さを感じられるようになりました。立体パズルも同じで、分かっていない解き方を探すのが面白くて。すでに分かっているものを理解するのではなく、自ら未知の世界を探しに行く感覚と言えばいいんでしょうか。気がついたら、自然とそう思うようになっていました。

これまでの学びを活かして、
暮らしの身近で役に立つ
仕事をしていきたい。

生命情報学科での学びには、どんな特徴がありましたか?

生命情報学科の特徴の一つは、とにかく分野が広いことだと思います。分厚い教科書で細胞の仕組みについて学ぶ一方、有機化学や物理化学、さらには情報学やプログラミングといったさまざまな授業を学科に入った時から受けました。これはかなりつらく感じる時もありましたが、ここで基礎を固めておいたおかげで最先端の生命の研究についていける知識と思考力が身についたと思います。

また他の特徴としては、学習と実践を同時に学べるという点です。生命情報学科では多くの学科とは異なり、2年生から専門的な実験を行うカリキュラムになっています。このため授業で学んだ原理をすぐに実践することができ、「本当にこれで動くのか」「データはこんな風に出てくるのか」など実感を得ながら実験でき、深い理解へとつなげることができました。

現在はどのような研究をしているのですか?

生命以外(非生命)の物質から生命と同じように働くものをつくり、生命と非生命の境界を理解しようという「生命の再構成」という研究分野があります。そのなかで僕は、生きている細胞からタンパク質などの成分を取り出した細胞抽出液に着目して研究をしています。この細胞抽出液は、生細胞の外で生細胞内のような高濃度で扱うとタンパク質を作る仕組みがほとんど機能しなくなるんです。これが不思議だなと思って。この高濃度の細胞抽出液がうまく機能するには何が必要なのかを、実験とシミュレーションを用いることで解き明かそうとしています。研究室の教員からはいろいろ試してみなさいと言われているので、自分で考えて仮説を立てながら、さまざまな条件を変えて、ああでもないこうでもないと実験を繰り返しています。抽出液がうまく働いた時には、GFP(緑色蛍光タンパク質)が発現するようにしているのですが、その緑色の光が確認できた時には本当に嬉しいですね。

今後はどのような進路に進もうと考えていますか?

食品の品質管理に携わっていきたいと思っています。生命情報学科出身者は創薬メーカーなどに行く人も多いのですが、僕は食品ですね。もともと身近なものに対する不思議を解き明かしたいという気持ちがあるので、創薬より食品の方が身近かなと思って。普段当たり前のように身の回りにある食品ですけど、もしその中に危険な物質が入ってしまったら大変です。食品の安全性は絶対に守らなければなりません。でも、現在でも時々異物混入や集団食中毒などが発生していて、その対策はまだ不十分な面があります。そこで最先端の科学を用いて、より高精度で異常の有無を確認でき、より低コストで利用できる食品検査手法を開発していけたらと思っています。

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