数学は厳密な論理のもとに現象を捉え、数を使って表現し、それにより対象の背景にある構造を見いだすことを目的としています。数理科学はさまざまな対象を包括的に扱っている学問であり、純粋な枠組みから現実の問題への応用を含め、対象の抽象化、定式化、モデル化やさらにその先にある新しい現象を追究しています。
数学は、その基礎が確立された現在においてボーダーレスの時代に突入し、単なる手法ではなくなってきています。これを受けて全分野を包括的に学ぶ必要がありますが、基礎となる考え方は代数学、解析学、幾何学、確率論、離散数学の5つに分かれています。また応用に関連する分野として、統計学や数値解析、最適化があります。
数理科学科の教育理念は、自分で考える力を育てることです。それは計算を基礎とする思考実験を繰り返し経験することによって獲得でき、またこれによって得られた考え方の枠組みが問題解決の方向性を与える道具となります。数理科学科では学習を手助けするために対話を重視し、互いに議論し合うことによって自ら答えを導くことを目指します。
第2学年までに極限、微積分などの微小概念と、連立方程式の解法から発展した学問である線形代数を学びます。これにより問題解法や計算手法だけではなく、現象を捉える方法を習得します。それと合わせて数学を使った現実問題への応用として、データの統計的処理、シミュレーションとその方法などについても学びます。
ものの個数を数えるために生まれた整数という概念は、人類の黎明期より存在してきました。整数は数えるという最も素朴で基本的な問題に起源を持ちますが、たし算やかけ算などの「代数的構造」を通じて、非常に深い数学の世界へとつながっていきます。たとえば現在、情報通信社会の基盤を成している暗号理論などは、すでに数百年前に開発された整数論の理論に基づいています。
幾何学とは図形の特徴を数によって表し、その性質を調べる学問です。たとえば平面図形においては、長さや角度、面積などが特徴を表す数となります。本学においてはより複雑な図形が対象となり、絡んだ糸を数学的に抽象化した結び目とその絡み具合を表す「不変量」、球面など表面が曲がった図形の曲がり具合を表す「曲率」などを研究しています。
我々が目にする自然現象、社会現象、経済現象は小さな現象の積み重ねとして理解できることが多くあります。たとえば、ランダムな原子の動きがマクロな熱の流れをつくりだすと考えることで、物体の温度変化を表す熱方程式が得られます。このような方程式の解析は、鋳鉄に使われる高炉内の温度変化の推測や都市における渋滞の予測などさまざまな場面に応用されています。
動植物の地理的な分布や株価の動向など、私たちの身の回りに起こるさまざまな現象を理解するための方法論として統計学があります。統計学では、データの要約値や散布図などの基本的な統計処理により数学的なモデルを構築し、現象の深い理解と将来の予測を行います。そのため実際のデータ収集から、モデリング、計算アルゴリズム、結果の解釈までを一体的に扱います。
抽象化・普遍化された理論の研究によって、物事の本質にアプローチすることが数理科学の使命であるといえます。そのためには、なにより理論的な基礎の理解が必要となります。数理科学科ではこのような考えのもとに、数学の基礎理論の理解を教育の目標としています。また、データを統計学的に扱うための理論的基礎、コンピュータ計算の基礎原理なども、それぞれの分野における教育の目標となっています。このように理論的な基礎を十分に身につけることこそが、どのように変化する状況にあっても本質的なものを見きわめる力を養うことになると考えています。また、抽象的・普遍的に物事を見ることができ、それをもとに確実な判断を示すことのできる人材の育成が、数理科学科に求められていると考えます。
数学的な思考力、分析力は幅広い分野で求められています。企業からの求人は豊富であり、特に金融系、メーカー系(ハードウェア、ソフトウェア)、教育関係への就職が多いです。さらに高度な研究能力を養うため、多数の学生が大学院へ進学しています。