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応用化学科(基礎理工学専攻 修士課程2年【※】)

大阪府・私立大阪桐蔭高等学校出身

「難関大学で何らかの研究に携わりたい」という一心で、高校3年間は受験勉強に明け暮れる日々。当時出会った塾の先生から学ぶことの本質を教わったことが、現在の研究にも活きているそうです。様々な分野の実験に触れたうえで学科を選択することができる慶應義塾大学理工学部だからこそ、高校時代より興味のあった有機化学の魅力を再認識。修士課程2年の現在は、有機化合物を用いた磁石についての研究を行っています。卒業後はメーカーの研究職に就くという彼に、高校から現在までのお話を伺いました。

【※】インタビュー時点(2022年8月)の在籍学年です。

勉強一筋の高校時代。
最高の研究環境を求め、
東京の難関大学を目指す日々。

高校時代はどのように過ごしていましたか?

高校は入学した直後から受験を見据えた勉強をするような学校だったので、朝7時から夜8時まで毎日13時間は勉強漬けでした。部活にも入らず日曜日も登校して自習をしていたので、母親には高校生らしくないと心配されましたね(笑)。でも私としては、大学でより良い環境に身を置いて何らかの研究に携わるためにも、できる限りレベルの高い大学に入学したいという強い思いがありました。周囲に負けたくない気持ちも強かったので、結果的に受験勉強にも必死に取り組めたのだと思います。なかなか成績が上がらず苦労したこともありましたが、量をこなすだけではなく「問題を解くうえで自分は何を身につけたいのか?」と、勉強の質を上げることは常に意識していました。

慶應義塾大学理工学部に進学を決めた理由を教えてください。

関西圏出身のため、周りにも良い大学はありましたが、私立となると慶應・早稲田に敵う大学はないのかなと。そこで関東圏の大学に目が行くようになり、国立・私立ともに東京の大学を受験すると決めていました。姉も上京して東京の大学に通っていたので、地元から出ることに抵抗はなく、何かあれば助けてくれるかなとも思っていましたね。
結果的に第一志望合格は叶わなかったのですが、ではどこの私立に入学しようかとなったときに、迷うことなく慶應義塾大学理工学部に決めました。入学時に学科まで決めなくても良いという学門制【※】は他の大学にはなく、差別化されたその制度に惹かれました。

【※】学門制…入試の時点で5つの「学門」のいずれかを選択し、入学後に自分の興味や関心に応じて徐々に学びたい分野を絞っていき、2年進級時に所属する学科を決定する慶應義塾大学理工学部独自の制度のこと。なお、2020年度の理工学部入学者から学門制が変更となり、各学門から進学できる学科が一部変わりました。学門制の詳細は以下のリンクを参照してください。

実際に入学して感じた、慶應義塾大学理工学部の印象は?

理工学部の学生は勉強や研究に関して意見を交わすと、これまで自分の中にはなかった新しい考え方を与えてくれます。受験勉強はさほどせず、部活やコンクールに打ち込んできた人たちも一定数いたため、自分とは違う道を歩んできたことにも衝撃を受けました。受験勉強の出来や偏差値などの数値で測れる頭の良さではなく、思考力が高い学生が多いと感じました。 また、学生数が理工学部だけで約1,000人と非常に多く、授業ごとに異なるメンバーで集まるので、色々な人と仲良くなれる環境だと思います。同じく一人暮らしをしている同郷の友人にも出会えたので、割とすんなり大学生活に馴染むことができました。

有機化学への飽くなき好奇心。
データを残すことで、
いずれ研究は日の目を見る。

応用化学科を選んだ理由を教えてください。

高校時代は個人塾に通っていたのですが、そこで出会った先生が「原理から考えよう」という方で、指導を通じて、大学受験のための勉強だけでなく、現在の研究につながる“学ぶことの本質”から教えていただきました。私はその先生の考え方が好きだったこともあり、その”学び方”をなんらかの形で活かした研究をやりたいと思っていたんです。 高校時代は有機化学に一番興味がありましたが、それは座学のうえでのこと。物理・化学・生物などの実験に触れたうえで学科を選択したいと思い、最終的には実験の中で一番楽しかった化学が決め手で、応用化学科を選択しました。物理はミクロな世界のため現実世界では理解しにくく、反対にマクロである生物にはあまり興味が惹かれなかったのですが、化学はどちらにも通じる部分があります。ミクロなことが集まってマクロになってゆくところが、自分の中では面白いなと思っています。

応用化学科の特徴について教えてください。

学部4年生から研究室に所属することになりますが、3年生までは無機化学・有機化学・物理化学などの基礎を学んでいきます。研究室に入ると、とたんに専門的になってくるのですが、自分が扱わない分野でも基礎を学ぶことが専門性を深めていくことに繋がるので、3年間で広く学べたことは良かったと思っています。 さらにもうひとつの特徴として、応用化学科の卒業生のうち約9割が大学院に進学することも挙げられます。私の学部時代の友人もほとんどが修士課程に進学しているのですが、だからこそ「その装置で今は何をやっているの?」といった気軽な雑談が、失敗した化合物の物性測定の発見に役立つなど、意外と自分の研究にも重なるというパターンも。勉強に対する意欲が高い学生が多く、院進学率は他の理系大学と比べても高いんじゃないでしょうか。

現在取り組んでいる研究について教えてください。

「水素結合を活用したラジカル分子の集合化による強磁性有機材料の開発」という研究を行っています。すごく簡単に説明すると、金属以外の有機化合物で磁石を作ろうという研究です。原子の一番外側に電子が回っていますが、磁石を創るには、電子スピンと呼ばれる電子の自転に由来する磁気モーメントを使います。個々の電子スピンの磁気モーメントは微弱なので、電子スピンをもつラジカルと呼ばれる分子を規則的に集合化させます。水素結合を使ってラジカル分子を集合化させ、さらに電気陰性度の大きなフッ素原子を含むトリフルオロメチル基を分子に結合させた新しい分子を合成し、分子集合の形態をナノスケールレベルでコントロールしています。自分の研究テーマでは、単に試薬を混ぜ合わせるだけでなく、その電子スピンの向きが揃いそうだという根拠を集めるところからスタートするところが「有機機能材料化学研究室」の特徴ですね。
うまくいかないことも往々にあり、最終的に諦めてしまったこともあるのですが、失敗した結果もデータに残して、後世に引き継ぐことも大事なのかなと思います。有機化合物のみの磁石は現状マイナス270度でしか機能しないので、実用化までの道のりは遠いのですが、結晶工学や計算科学などを使って代々受け継がれている夢のある研究です。

社会に出るために、
研究職に就くために。
身につけた知見が武器になる。

印象に残っている授業を教えてください。

学部4年生のときに一般教養で選択した「金融リテラシー」の授業です。一年浪人しているので、私が4年生のときに地元の友人たちは社会人1年目だったのですが、大学を出るとみんなが「NISA、NISA」と言い始めて、それってなんだろうってよくわからなかったんですよね(笑)。そのタイミングで金融の授業があり、これだけ周囲が言っているのであれば、自分も社会人になったときに必要になるだろうと、どういう仕組みや利点があるのかを学びたいと選択しました。
専門性の高い大学の授業は学問上での意義は大きいですが、日常生活に直結する授業は自ら取りに行く必要があります。社会に出るうえで必須の知識である金融の授業を受けたことで、自身のリテラシーを高めることができました。現在の生活にも活きていると感じています。

コロナ禍では学生生活をどのように過ごしていましたか?

私が行っている実験では磁性を測る特殊な装置を使ったり、薬品を使用したりすることもあり、2020年の6月中旬まではずっと自宅待機の状態でした。4年生になり研究室に入った直後の出来事だったため、歯痒い思いをしましたね。またコロナ禍では海外での学会発表も流れてしまったので、私が参加できるタイミングは残念ながら在学中には1回もありませんでした。 けれどもその後はオンライン授業に移行したことで、かえって研究がやりやすくなりました。これまでは授業に出席するために、研究の手を途中で止める必要がありましたが、オンライン授業では期限までに動画を観て、出された課題を提出すれば良いという授業もありました。研究の手が空いたときに動画を観ることができ、研究中心でフレキシブルに動けるところはありがたかったです。

今後の進路や目標について教えてください。

化学に携わり続けていきたいと思っているため、内定をいただいたメーカーの研究職に進む予定です。現在行っている研究はチャレンジングで面白さもありますが、成果が出ない可能性もあります。その点メーカーであれば、実現可能性が高いものを優先的に研究させてもらえるので、みんなに使ってもらえるようなものを生み出し、世の中が良くなることを実感したいです。 最近はメーカーでも DX【※】を推進していますが、そこで必要な計算科学をしっかりと研究に用いているのは私が所属している研究室だけです。その経験や、自分自身で考えるといった研究室での取り組みが、社会人になってから活きてくるのではと思っています。 【※】DX…Digital Transformation(デジタル・トランスフォーメーション)の略。データやデジタル技術を活用してビジネスの現場で変革をもたらすことを指します。

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