Profile

応用化学科(基礎理工学専攻 修士課程2年【※】)

奈良県・県立奈良高等学校出身

両親、兄、姉ともに理系という環境で育った彼が母の影響で、幼い頃から興味を持っていたのはキノコ採集でした。自然現象への好奇心が強く、目の前で起きていることを、なぜ? と掘り下げていく作業が好きだったと自身を分析。その好奇心を胸に、大学では応用化学科に進み、高校時代から興味のあった有機化学を学ぶことに。そこで「虫えい」に出会い、新たな興味を突き進めています。人一倍楽しみながら好きな研究に没頭する大学生活について伺いました。

【※】インタビュー時点(2020年11月)の在籍学年です。

得意と苦手は両極端。
自然に触れて、有機化学の
魅力に気づいた高校時代。

どのような高校生活を送られたのですか?

部活は高校1年の夏で辞めて、いわゆる帰宅部でした。元々バスケットボール部に所属していましたが、朝早くから夜遅くまで練習があって、他のことをする時間と天秤にかけたときにバスケは趣味でいいかなと思い、退部しました。以降は家にできる限り早く帰って、音楽を聴いたり、漫画を読んだり、趣味を満喫する生活を送っていましたね。勉強については、好きな科目ばかりやって、嫌いなものには手を付けない分かりやすいタイプでした(笑)。得意だった数学、化学、物理はよく勉強していたので問題集を解くのも苦ではなかったのですが、苦手な英語、国語、社会系はあまり勉強しなかったです。そんな性格が如実に成績にもあらわれていた、そんな高校生活でした。

理系の科目が好きになった理由はなんですか?

化学や物理を好きになったのは、母の趣味だったキノコ採りに影響を受けたからです。幼い頃から一緒に山へ採集に行き、自然とキノコに興味を持つようになりました。奈良に住んでいたのですが、近くの大きな公園には何種類ものキノコが生えていたんです。子どもの頃は形状や色の違い、どこから生えているか不思議でしたが、今はキノコ上部の子実体(しじつたい)がどうやってできているのかいまだに解明されていないというミステリアスな部分に惹かれます。ただし、キノコはあくまで観察対象。昔から母が採取したキノコを部屋で干していて、そのにおいのせいで、食べるのはめっきりダメになってしまいました(笑)。化学の中でも有機化学に興味を持つようになったのは、高校時代の化学の先生のおかげです。高校の化学には有機化学、物理化学、無機化学の3分野がありましたが、一番点数がとれないのは有機化学でした。それでも、有機化学が一番好きだったのは、個性的で授業が面白い、そんな先生に出会えたからです。

慶應義塾大学の理工学部を選んだ理由は何ですか?

関東の大学に憧れていたというのが一つです。もう一つは理系の単科大学ではなく、総合大学に進みたかったというのが大きな理由です。高校時代は限られたコミュニティで生きていたので、大学ではいろんな考えを吸収できる環境に身をおきたいと思っていました。同級生は関西の大学へ進学を希望している人が多かったので、仲のよい友人と同じ大学へ行くことも最初は考えたのですが、最終的には関東の大学へ進学を決めました。実際、地元の友人と距離は離れましたが、時々連絡をとって縁は続いているので後悔はありません。実は、慶應義塾大学は複数の学部を受験していて、薬学部と理工学部に合格しました。将来のことや資格のことを考えると薬学部の方がいいのかな?と迷ったりもしたのですが、自分が学びたいことができるのはどちらかと考え、理工学部に決めました。

目に見える現象を
自分の手を動かして解き明かしたい。
そう思って、進んだ道。

理工学部の中で、応用化学科を選んだ理由を教えてください。

学門3(現:学門E)【※】で入学しましたが、化学、物理のほか生物にも興味があり学科選びは本当に迷いました。自然現象にまつわる勉強がしたかったので、いずれ有機化学を学びたいとは考えていたのですが、知識として無機化学や物理化学も勉強したほうがいいかもしれないと思い……。最終的に応用化学科を選んだ一番の理由は、学部3年生までに様々な化学分野の座学・実験にひと通り触れることができるという点です。そして、その後は研究室生活を通して、自分が選んだ分野をより深く学べるというのも魅力的でした。学科選びをする2年生の頃から研究室も意識していたので、いろいろな研究室のサイトを見比べていたのですが、当時、応用化学科の研究室のサイトにキノコの写真が載っていたんです。そのキノコの写真に一目惚れして(笑)、この研究室がある応用化学科に行きたいと考えるようになりました。

【※】学門3…2014年度入学当時に、応用化学科・物理情報工学科・化学科・生命情報学科の4つの学科に進学可能であった「学門」。2020年度入学者からは、各学門の名称と構成が変更されています。

なお、2020年度の理工学部入学者から学門制が変更となり、各学門から進学できる学科が一部変わりました。学門制の詳細は以下のリンクを参照してください。

応用化学科の雰囲気はどうですか?

応用化学科には120人弱の学生が在籍しているので、学内でも比較的人数が多いのが特徴です。たとえば化学科は40人程度なので、そちらと比べると全員が顔見知りという規模ではありません。だから飽きない楽しさがあると思います。同じ学科でも2年生と3年生で一緒に実験をする人も変わるので、いろんな人と交流できるのが魅力だと感じました。在籍している研究室では、それぞれが個人のテーマで研究しているのも刺激になります。自分とは異なる研究テーマの学生が同じ研究室内にいるので、その人の中間発表を聞いて、自分のテーマにも応用できるのでは、とひらめくことも多々あります。入ってすぐの1年目は先輩がついて真摯に教えてくれるので、研究に関して放り出されて困ったということもなく安心でした。

現在、どのような研究に取り組んでいるのですか?

天然物有機化学研究室に所属して、「虫えい」をテーマに研究しています。虫えいとは、植物の葉っぱに虫が寄生し、その刺激で隆起した組織のことです。虫の種類によって形状や材質も異なり、中にはハエやアブラムシなどの虫が住んでいます。虫えいの中には真菌も存在していることが知られているのですが、この真菌が虫えいにどういう影響を与えているかを研究しています。実は、研究室を選んだ当初はキノコの研究がしたかったのですが、指導教員と話してみるともうキノコはやっていないと言われてしまって(笑)。そこで、自然界で実際に起きている現象が目で見てわかるサンプルを扱い、それを化合物として解き明かしていく研究がしたいという僕の意図を伝え、指導教員に虫えいの研究を提案していただきました。それまで虫えいのことはまったく知らなかったのですが、実際に研究してみると植物の採取、菌などキノコに近く、自分には合っていた研究テーマだと振り返って思います。

生活が一変したコロナ禍。
限られた条件のなかでも
あきらめずに研究を進めていく。

授業や研究で、とくに思い出に残っているエピソードを教えてください。

研究活動の一環で、虫えいの採取に行ったことです。山に登って採取を行うのですが、インドア派の僕にとっては登山がとても大変でした。山頂についた頃には倒れる寸前でしたが(笑)、頂上から見た美しい景色は忘れられません。所属している研究室では、希望すればフィールドワークとして実験サンプルを取りに自然環境に行くことができ、テーマによっては山だけでなく海にも足を運ぶため実際の環境に足を運べるのは面白いです。2019年には天然物有機化学を学ぶ学生の交流会「天然物化学談話会」に参加したのも楽しい思い出です。この年は北海道で開催され2泊3日で参加したのですが、様々な学生たちと交流できたのがよかったですね。他大学にも友達ができ、今でも時々連絡を取り合うなど良い出会いに。コロナ禍以降はオンライン学会に参加したりもしていますが、やはり直接会って交流が持てる機会は貴重だと感じています。

コロナ禍において、研究や勉強はどのように進めていますか?

研究室からは化合物の試薬などの持ち出しができないので、自分の研究分野は大学に入構できないと実験がなかなか思うように進みません。週3回しか大学に入れない時期もあり、事前にきちんと計画を立てて、フローチャートに沿って実験するように工夫しました。そんな経験から限られた時間で、やるべきことをやるという行動は意識するようになり、また、研究室のメンバーとは感染防止のために対面ではなくSNSで交流したり、情報を共有したりしています。自宅学習の日は論文を読むことが多かったので、思い切って特別定額給付金を活用してタブレットを購入したところ、本のような感覚で論文を読むことができるようになり、自宅でもスムーズに読めるようになりました。

今後はどのような進路を考えていますか?

修士課程修了後は現在の所属研究室で、後期博士課程に進学する予定です。以前から博士課程に進むことは決めていましたが、内部進学するか外部の大学院へ行くかを迷っていました。コロナ禍に突入し、半年ほど大学に入れない期間もあり、その中で今後どうするのか改めてじっくり考えました。自分で虫えいから取った菌を一人で育成・管理をしてきたので、菌に愛着が湧いているというのもあり、このまま同じ研究室に残る道を選びました。今は指導教員や研究室の仲間に助けてもらいながら、ここまで育てた菌の研究を最後まで終わらせたいという気持ちです。

ナビゲーションの始まり