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数理科学科(基礎理工学専攻 修士課程2年【※】)

東京都・鷗友学園女子高等学校出身

未知の領域を学ぶことが好きで、文系・理系を問わず幅広く知識と経験を蓄積してきた中学・高校時代。自身の得手不得手ではなく、学びの楽しさを軸に進路を考えたところ、選んだ道は数理の世界でした。慶應義塾大学理工学部入学後も学びへの意欲は変わらず、理系だけの環境にとらわれないよう、ディベートサークルに短期留学と、学科の枠を超えた交流を楽しむ日々。進路に影響を及ぼしたという、社会問題への関心など大学生活の中での出会いや発見について語ってもらいました。

【※】インタビュー時点(2022年8月)の在籍学年です。

文理の垣根を越えて。
飽くなき探究心を満たす、
広く深く学べる総合大学。

大学入学前はどのように過ごしていましたか?

中高一貫の自由闊達な校風だったため、器械体操の部活に加え、学年や部活の垣根を超えた「有志団体」と呼ばれるグループでダンスを踊るなど、学生のうちにしか経験できないことを積極的に楽しんでいました。高校一年生から受験勉強にもシフトしていき、休日には1日15時間ほど勉強していましたが、昔から「知る・気付く」ことが好きだったので苦ではなかったですね。 家庭科や園芸といった受験に用いない教科もまんべんなく勉強し、実際に体験できる場合は博物館にも足を運びました。自分の知識と経験を結びつけて蓄積していくことが楽しく、それらの経験から文系・理系を問わず、学ぼうという気持ちを広げていました。

慶應義塾大学理工学部に進学を決めた理由を教えてください。

偏差値だけで見ると、国語や英語といった文系が得意でした。けれども「大学では学ぶ楽しさを教えてくれる教科を勉強したい」と考えていて、自分自身がこれまで楽しかった教科を振り返ったときに、一番記憶に残っている教科が数学や物理だったんです。周囲から「数理は分野がはっきりと分かれているので、やりたいことを学ぶには専門の先生がいるところに行った方がいい」と聞いていたのですが、数学自体を勉強したいのか、数学を使って技術を勉強したいのか、それとも数学を使って社会に還元したいのかという具体的な進路までは決めかねていたので、様々な分野の教員が多く、学門制【※】のある慶應義塾大学理工学部はありがたいなと。また、俯瞰的に物事を考えられる力をつけるためにも、国語や社会といった理系以外の学びが得られる総合大学で勉強したいからこそ、慶應義塾大学を受験しました。

【※】学門制…入試の時点で5つの「学門」のいずれかを選択し、入学後に自分の興味や関心に応じて徐々に学びたい分野を絞っていき、2年進級時に所属する学科を決定する慶應義塾大学理工学部独自の制度のこと。なお、2020年度の理工学部入学者から学門制が変更となり、各学門から進学できる学科が一部変わりました。学門制の詳細は以下のリンクを参照してください。

数理科学科に決めたポイントと、学科の特徴について教えてください。

大学の授業は高校とは一線を画していたため、学門制で1年間かけて吟味できたことは重要だったと感じています。私は「学門2(現:学門C【※】)」を選択したのですが、解析の授業は楽しくて仕方がないという状態でした。このまま突き詰めていきたいなと思い、入学から2〜3ヶ月でもうすでに数理科学に心は決まっていましたね。 数学を学びたいという意志のある人たちで構成されているため、これまでとは異なる環境だとは感じましたが、中学・高校時代も熱量の高い人が多かったからか、本質は変わらない気がしています。他の学科と比べると同級生が50人程度と小規模なのも特徴です。ひとつに満足するのではなく、その先にある何かを常に知ろう、探ろうと考え続けている向上心の塊のような人が多い気がします。 【※】学門2・・・2016年度入学当時に、数理科学科、管理工学科、情報工学科の3つの学科に進学可能であった「学門」。2020年度入学者からは、各学門の名称と構成が変更されています。

学びのチャンスを逃さない。
多角的な視点が、
将来への道を切り開く。

勉強や研究以外で夢中になっていたことはありますか?

「Keio Debate Squad」という英語の競技ディベートサークルに所属していました。中学・高校の授業がオールイングリッシュだったため、英語で話すことは生活の一部になっていたのですが、教科としての英語とコミュニケーションツールとしての英語にひらきを感じ、英会話を磨ける場を求めていたんです。また、理系は必修教科が多く文系の人たちと関わることが少ないため、文系の多い環境を自ら選ぶようにすれば、物事を見るときに他者の視点をより理解することにつながるだろうなと思っていました。 中でも印象的だったのは、社会問題をディスカッションするときに、世界史を具体例に挙げながら、現代を俯瞰的に見ている人がいたことです。世界史が全く分からず、夜は一人で調べ物をするなど初歩的なところから学んでいきましたが、これらの刺激がさらに社会問題について知りたいという意欲にも繋がりました。

海外留学プログラムを利用したそうですが、どのような学びがありましたか?

学部2年生のときにケンブリッジ大学のサマースクールに4週間参加したのですが、きっかけは競技ディベートサークルで社会問題に触れたことです。ディスカッションをするうちに自分には社会問題への背景理解が足りないと思い、より実用的なことが学べる留学はチャンスだと応募しました。
留学先では「国際関係論」を専攻したのですが、自分が学んできた定義を確実に言語化して前提条件の共有を行う、論理に飛躍がないように段階的に検証を行うといった数学的思想やアプローチは、社会問題を考えるうえで、ある種の道具になるのだなと。数学だけでなく社会や人間にも興味を持っていたので、数学と社会を結びつけることに自分は関心があるのだと、留学先の出来事が現在の進路を決めるきっかけにもなりましたね。また、自分の意見は口にしなければ伝わらないということを留学先で出会った友人たちから改めて学ぶなど、良い影響を受ける機会でもありました。

数理科学科の授業で、印象に残っているものはありますか?

学部2年生のときの「数理科学基礎第一同演習」という授業です。微積や代数などの数学の演習問題がランダムに配られるのですが、それをグループで相談して解き、全員の前で発表していきます。私にとってそれまでの数学は、自分で演習問題を解いてテストで答えを見てもらうという受動的な形だったのですが、発表するとなると、聞いた人が理解できるように説明する力が必要になります。実際に自分が理解することと人に伝えることは別物だということを、この授業で改めて学んだのですが、それは現在の研究にも役立っています。発表の最後には、投げかけられる質問にも答える必要があるので、臨機応変な対応力を養ういい機会にもなりました。

社会問題に数学的思想を。
豊かな未来のために、
数字ができることを提示したい。

現在取り組んでいる研究について教えてください。

「特定の方程式族の内、有理数解を持つものの割合の計算」という数論幾何学の問題について研究しています。1つ例にとると、a,bを整数全体の範囲で考えて得られる方程式族ax^2+by^2=1の内、x^2+y^2=1のように有理数解を持つものの割合を計算する問題が挙げられます。一般的に、方程式族の中で有理数解を持つものの割合は直接計算することが困難です。しかし、特定の方程式族では局所解を持つものの割合に帰着させることができるため、今回の研究では扱っている方程式族の「周期構造」などに着目して局所解を持つものの割合を決定することに取り組んでいます。 研究の過程では試行錯誤しながら自ら手を動かすだけでなく、本や論文から根拠を集め、指導教員や研究室のメンバーとディスカッションする中で得た意見を踏まえて研究を進めていきます。ディスカッションでは一人だと見えなくなっている部分を「こういう考え方もあるよね」とちゃんと拾い上げてくれるので、新しい気づきが得られます。私にとって研究を行うことは色々な人の意見や思考を取り入れながら自分をアップデートしていく感じに近いのかもしれません。

現在所属している研究室を選んだ理由はなんですか?

研究室に入る前から坂内教授の授業は受けていたのですが、決め手となったのは研究室訪問の際に話してくださった「単位円」の話題です。単位円の方程式には、直線と曲線の交点を図で書いて求める幾何的アプローチと、方程式を連立させる代数的アプローチがあることは高校時代から知っていましたが、それが高度な世界であっても同じ視点を持ち合わせているということを伺ったことは大きな発見でした。高校時代から幾何的アプローチからも方程式を解くことができる点がとても好きだったことと、数論幾何学は坂内研究室に入らなければ学べないことがたくさんあったため選びました。いくつか研究室は訪問したのですが、どの教員の方も自身の研究を語る姿がとても楽しそうで、そういう雰囲気を持っている人の下で学べることは、慶應義塾大学理工学部の魅力だと改めて思いましたね。坂内教授は理化学研究所でもお仕事をされているのですが、今、私も代数的アプローチによる作用素についての研究に携わらせていただいています。研究室に入ったのちに、こういった経験ができるのも貴重な学びになっています。

今後の進路や目標について教えてください。

留学中に数理科学の知識が社会に還元されている例を知ったことや、“変化を媒介する人”に強い関心を持っていることから、シンクタンク業界への就職を選択しました。シンクタンクなどで数理出身者が活躍しているお話を耳にすることがありますが、私も数学的思想を使いて新たなアプローチや有機的な反応が生み出せれば、と期待しています。 文系・理系、両者の違いは人間がどう関わるかだと考えています。理論が定まった上にあるのが、人間が関与している曖昧な社会であり、両方に良さがあります。「人が過ごしやすいところには、こういう数学が使われているよ」ということを提示できるようになれば、もっと社会が豊かになるのかなと思っています。

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