Profile

数理科学科(基礎理工学専攻 修士課程1年【※】)

東京都・都立小石川中等教育学校出身

理数系に力を注ぐ中高一貫校から、慶應義塾大学へ。幼少期よりカレンダーの配列を西暦ごとに記憶していたというほど数字への興味を持っていた彼ですが、将来の就職を見据え大学は慶應義塾大学の経済学部へ進みました。しかしながら深く学ぶにつれ、数学に再び興味を持ち、難易度が高いと言われる編入試験に挑戦。現在は数理科学科にて「力学系」という物理から生まれた数学の一分野の研究を行っています。数学は机上で数式と向き合う一人の世界と思いきや、実際に触れるとそのイメージはがらりと変わったとのこと。必修の第二外国語をきっかけに興味をもち、独自にマスターした中国語や、それを活かした活動など、自由に学びを楽しむ姿について伺いました。

【※】インタビュー時点(2020年11月)の在籍学年です。

好奇心に応えてくれる。
そんな学校で築いた
自由な学びのスタイル。

高校時代はどのように過ごしていましたか?

自由な校風だったこともあり、水泳やマラソンに打ち込む傍ら、学校帰りに友人たちと街歩きやお茶をするなど、楽しく過ごしていました。また鉄道をはじめとした乗り物が好きだったこともあり、北海道から九州まで、地図帳を片手に一人旅を楽しんだりもしました。勉強はしていた方かも知れませんが、基本的には好きなことに熱中する毎日でしたね。
大学入学後に教員免許を取得するべく、母校へ教育実習に行ったときに改めて感じたのは、カリキュラムに則った授業というよりも、先生の味が存分に出る独自の授業を行っていたということです。在校しているときも授業の内容から発展したことを先生に聞くと、休み時間に一緒に考えてくれたり、追加で実験をさせてくれたりするなど、生徒の好奇心に応えてくれた学校だからこそ、自然と自主的に勉強することが好きになっていたのだと思います。
そのほか、各高校の生徒がチームで理科・数学・情報の問題に取り組む「科学の甲子園」に出場したり、先生の指導のもとで、組合せ論や地層に関する研究を、英語で発表したりする機会もありました。このような活動で身につけた議論や発表のスキルは、大学・大学院に入ってからもだいぶ役に立っていると思います。

受験勉強で工夫したところはありますか?

高校2年生になると周囲が受験を意識し始めたこともあり、塾に通うなどしたのですが、あまり真面目に受験勉強には取り組まず……。授業を先取りして自分で学習したり、数学が好きな友人同士で自作問題を出し合ったりすることはありましたが、それは勉強というより単に興味があったからです。自由に学ぶことは好きですが、強制されるとやる気がなくなる性分のため、いざ、受験!と打ち込むような感じではありませんでした。
ただ国立大学の受験対策として、5教科7科目は満遍なく勉強していました。なかでも数学や理科は勉強という感じではなく、好きだから・知りたいからといった好奇心の延長でした。その他の教科は、特に世界史が好きだったのですが、頭の休息と思いながら教科書を読むなど、時間を上手に配分しながら勉強していたと思います。賑やかな環境のほうが不思議と集中できるので、ファミレスや公園のベンチでよく勉強していました(笑)。

最初から慶應義塾大学の経済学部を志望していたのですか?

実のところ、国立大学一本で挑もうと考えていました。元々私立の大学に通うつもりはなかったため、情報収集はほとんど行っていなかったのですが、慶應義塾大学出身の親族がいることや、経済学部は就職に強いという両親の後押しもあり、受験することとなりました。
結局2年生のときに経済学部から理工学部へと編入したため当初の思惑とは異なりますが、2つの学部の異なった環境で勉強でき、人脈を広げることもできたので、結果的にはとても良かったと思っています。どちらの学部も、自由に勉強や課外活動ができる雰囲気があり、自分の性格に合っていたのだと思います。

興味のある方へと舵切りを。
数字に向き合いたいと、
理工学部への編入を決意。

経済学部から理工学部へ編入した理由は何ですか?

経済学部には2年間在籍していたのですが、「ミクロ経済学」という分野を学んだことが編入のきっかけの一つです。これまで学んできた微積分や線型代数といった数学の理論が、実社会にはこんな風に応用されているのだということを知り、逆説的ですが、数学への興味が大きくなっていきました。
また、数学をみっちりと学ぶ「解析学入門」という選択科目を履修していたのですが、その時間がとても楽しかったです。受講している人数が少ない授業だったこともあり、授業の最中や前後を問わずすぐに先生に質問できたところは、数理科学科の環境に通ずるところかもしれません。数理科学科の数学系の研究室に行きたいという意志は編入前から固まっていたため、早い段階で希望と現在の研究のスタイルは一致していたかと思います。

難易度の高い編入試験ですが、どのように対策しましたか?

理工学部の友人に教科書を見せてもらっていたことや、理工学部の授業を聴講していたこともあり、勉強内容にはそこそこ触れていました。数学が得意だったので、理工学部の友人から逆に質問されることも多かったです。編入前より1年生で習う物理・化学はある程度勉強していたため、試験勉強に手をつけたのは前日で、図書館で本を開きながら、これまでの知識のおさらいをするといった感じでした。 その後、希望通り経済学部2年生より理工学部の2年生へと編入し【※1】、現在の「力学系」という物理より生まれた数学の一分野研究に至ります。紙とペンさえあれば、好きな時間に好きな場所で研究を進められるというところは、自身のライフスタイルに合っているのだと思います。

【※1】第2学年編入試験…理工学部を除く慶應義塾大学在籍の第1学年修了者または第1学年修了見込みの者で、かつ入学後1年以上在籍見込みの方に受験資格が認められている編入試験です。例年12月頭に募集要項が公開され、翌年の2月に試験が行われます。詳細は塾生サイト「第2学年編入」をご覧ください。

編入後に感じたギャップはありましたか?

理工学部全体とは言えないかもしれませんが、数学への印象は大きく変わりました。これまで数学といえば、机にかじりついて、黙々と勉強するといったイメージが強かったのですが、実際に学んでいる人たちの間では、コミュニケーションが活発です。なかでも「コモンルーム」と呼ばれる数理科学科の共通スペースでは、ホワイトボードに書いた数式や命題、その証明を皆で見ながら、ここはどうしてなの? あ、そういうことか!などといった議論が活発に交わされています。コモンルームには、一口に数学と言っても様々な分野(代数、幾何、解析など…)を専門とする学生が集まっているため、研究やレポートで専門の範囲外の知識が必要になったときは、お互いに補い合うこともあります。心強いと思うと同時に、数学は一人でやるものとは限らないと気づかされましたね。

大学の学習環境を存分に活用。
好きが高じて習得した
ハイレベルな中国語。

勉強や研究以外で打ち込んでいることはありますか?

学部1年生のときに必修の第二外国語で学んだことをきっかけに、興味をもった中国語の勉強です。もともと中華料理やC-POPと呼ばれる中国の楽曲が好きだったのですが、大学生になり初めて中国を一人旅したときに、自分の覚えた中国語が通じる!と感動して(笑)。旅先で食べた本場の火鍋の味に感激したこともあり、帰国後は中国語の勉強を兼ねて、中国語が飛び交う火鍋店や観光客で賑わう築地市場でのアルバイトを開始しました。楽しみながら語学を身につけるには、もってこいの環境でしたね。気づけば、独り言も中国語で発するようになっていました(笑)。
第二外国語は1年間だけで終わってしまうのですが、もっと学びたいという人のための授業が、日吉キャンパスの外国語教育研究センター【※2】にあります。そのため、矢上キャンパスに移ってからも日吉に頻繁に通い、現在は普通話(標準中国語)に加えて、広東語や台湾語も学習中です。その他、中国語サークル「慶應義塾大学公認団体 漢語社団(HST)」の発足や、 大学生訪中団への参加、全日本中国語カラオケ大会の決勝進出など、学内外での活動に力を注ぎながら、今もなお中国語を学び続けています。

【※2】外国語教育研究センター…2003年10月に設立された慶應義塾全体の外国語教育を支援し、充実させることを目的とした組織です。所属学部・研究科を問わず履修することができる「特設科目」や、日吉キャンパスで開講されている他学部設置の外国語科目を履修できる「オープン科目」を設置し、もっと外国語を勉強したい学生の皆さんの要望にお応えしています。詳細は外国語教育研究センターウェブサイトの「特設科目・オープン科目」のページをご覧ください。

現在の研究室の特色を教えてください。

「力学系」という分野を研究しています。一定の規則に従って状態が変化するシステム「力学系」において、数や点が、時間が経つとともにどう動いていくかを調べています。高校2年の数学で習う「漸化式」なんかも、最初に与えられた数が、漸化式という規則によって増えたり減ったりしていくので、力学系の一つです。なかでも特に、数や点が、まるでサイコロ投げのように、でたらめな動きをして見せる「カオス」と呼ばれる現象に注目して、研究を行っています。
基本的には全て自発的に行う研究室です。これについて調べてきた、この論文を読んできたなど、毎回のテーマを持ち寄るのも自分自身です。2020年の9月までの1年半、研究室の学生は私一人だったため、指導教員でもある高橋准教授からマンツーマンで指導を受けていました。
力学系は同期の間では、他の数学の分野に比べあまりなじみがない、具体的な研究内容がよくわからないといった印象があるようで、専門に選ぶ人はごくわずかでした。研究の基本は紙とペンを用いた机上での作業で、週1回程度のペースでセミナーを開き、学習した内容を発表して議論を深めるといった方式を採用しています。
最近学生が1人増えたため、研究室のメンバーは高橋准教授と助教を含めて4人となりましたが、各々が研究してきたことを黒板に書き、共有したうえでディスカッションするといったスタイルは相変わらずです。大学院の他の専攻の研究室と異なり実験設備や機器を必要としないため、コロナ禍ではあらためて、数学のどこでも研究ができるというメリットは感じましたね。

今後はどのような進路を希望していますか?

中学・高校の教師になるか、一般企業に就職するか決めかねているところで、進路は今も模索中です(汗)。ただ、研究で交わされる議論・発表のスキルや、仮説を立ててそれを検証していくという論理的な思考は、どの仕事であっても役に立つのではと考えています。長年学んできた数学を直接仕事に活かすのであれば教師ですが、保険やIT業界のほか、鉄道関係の仕事にも興味があり、今後の進路については熟考しているところです。

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