神奈川県出身。中高一貫校出身で、中学・高校と茶道部に所属し、現在も、茶道を続けている。高校時代に自発的に微分方程式を勉強していた際に「目の前の現象を数式で説明できる」ことのおもしろさを感じ、数学への興味を強める。高校時代の恩師2名が慶應義塾大学理工学部の数理科学科出身だったことから、同学科への進学を志す。現在は「南研究室」に所属し「統計的因果推論」をテーマに研究を行う。また、次世代の高度な博士人材を育成する教育プログラム「博士課程教育リーディングプログラム オールラウンド型『超成熟社会発展のサイエンス』」に参加している。
【※】インタビュー時点(2017年10月)の在籍学年です。
神奈川県内の中高一貫校に通っていたのですが、実は茶道部には中学生の頃に入部しました。最初の動機は「学校でお菓子が食べられる」から(笑)。ただ、実際に茶道のことを知れば知るほど、その魅力に気付かされます。たとえば茶道は一般的にすごく静かなものだと思われがちですが、空間も道具も、すべてがコミュニケーションを広げるために整えられています。そうした奥深さに魅了され、高校時代は茶道部の部長になりました。中高時代は“男子茶道部員”という存在がおもしろかったのか、学校の広報活動の場に度々呼ばれたりしました。保護者の前で茶道の魅力を話したり、実際にお茶を点てたり……。中学時代に始めた茶道は、今も継続する私の大切な趣味のひとつになっています。
もともと数学や物理が好きだったので、どちらかを学びたいと漠然と思っていました。ただ、具体的に数学の道に進もうと思ったのは、受験勉強の延長で勉強した微分方程式がきっかけでした。微分方程式を使えば、目の前にある運動を数式として説明できる……。そのことに気づいて、数学のおもしろさをあらためて認識しました。数学は、さまざまな分野の基礎となる学問ですから「まずは、そこからやってみよう」と考えたのです。また、数ある大学のなかで慶應義塾大学の理工学部を目指したのは、高校時代に仲の良かった恩師2人が慶應義塾大学理工学部の数理科学科出身で、「良い環境で学べるぞ」とアドバイスしてくれたことがきっかけでした。
「いろんな人がいるなぁ」が、第一印象です(笑)。内部進学、AO入試、一般入試……。いろいろなパターンで入学する塾生がいるので、本当に個性もさまざま。特に内部進学の人たちは、受験という制約がない分、おもしろいですよ。なかには、とにかく勉強が好きで特定の分野における知識が突出している人もいて、カルチャーショックを受けました。授業中に「隣で何か難しそう数式の話しているなぁ」と思っていたら、1年後にやっと彼らの会話内容が理解できた、なんてこともありましたね。
数理科学科に進学後、最初に受けた必修授業「数理科学基礎第1」です。この授業では、講義のプロセスに学生同士の議論や意見交換が組み込まれていて、学生同士にコミュニケーションが生まれるきっかけとなりました。また、学部3年次に受けた演習付きの講義「統計科学同演習」も印象的でした。この授業ではTA(ティーチングアシスタントの大学院生)のみなさんとの会話を通じて、研究室選びや今後の進路について考えることができました。私は学部4年次から「南美穂子研究室」に所属し、現在大学院修士課程1年目ですが、統計を研究しようと思った大きな理由がこの授業でした。
真面目な塾生が多く、非常に授業態度が良いのが数理科学科ならではの特徴だと思います。学科の人数が他の学科に比べ少ないため、塾生同士の仲が良いことも魅力ですね。塾生間で勉強を教えあったり、勉強会を開いたり……。みんなで切磋琢磨しています。数学は工学などと違って成果が目に見えにくいですし、トライ・アンド・エラーを繰り返したからといって、うまくいくというものでもない。きちんとした道筋で考えないと、決して正解には辿り着けないんですよね。でも、だからこそ数学は面白いし、この学科には、芯が強く、地道に物事に取り組める人が多いのだと思います。
統計的因果推論という統計の分野について研究しています。たとえば、喫煙が健康に与える影響を知りたいときに、単純に喫煙の有無と健康状態の関係を分析するだけでは不十分です。なぜなら、喫煙している人は健康に対する意識が低いと考えられ、健康に影響を与える他の要因、たとえば飲酒量や食生活も悪いかもしれないと考えられるからです。つまり、単純に喫煙の有無と健康状態の関係を比較し、「喫煙者の健康状態が悪い」という結果が得られても、それは喫煙によるものではなく、喫煙者の健康意識の低さが招く暴飲暴食によるものかもしれません。このとき、喫煙が健康に及ぼす純粋な影響を、数理的な妥当性に基づき検討するのが統計的因果推論の一例です。研究では、現在はテキストを読み込むことで、この分野の理論について基礎固めを行っています。将来的には、実際のデータを用いて解析を行いたいと考えています。
やっぱり、わからなかったことがわかるようになった瞬間が一番うれしいですね。たとえば今、「統計的因果推論」に関する英語の文献を読んでいるのですが、1章、2章と読み進めていっても、なかなかピンとこない。そこに書いてある一つひとつの知識や理論は理解できるのですが、何のためにそれらを説明しているのかがわからないんです。それが3章の終わりごろになって、ようやく理論と理論がつながって、明確な像を結んでくる。そんなときに「あぁ、なるほど!」って思います。数学では理論や知識の積み重ねが大切ですが、それらの集積がひとつの答えにつながる瞬間にやりがいを感じますね。
慶應義塾大学大学院13研究科の中から選ばれた塾生を対象として、次代のリーダーを育成することを目的としたプログラムです。このプログラムでは、主専攻、副専攻として2つの大学院研究科の修士課程を修了し、その後に後期博士課程に進学することが求められています。また、毎週土曜日に企業の方をメンターとして招き、社会問題について考え政策提言をまとめることを行っています。私はこのプログラムに参加することを通じて、数理・統計科学と人文・社会科学的な知見を結び付けたいと考えています。現在の研究テーマである「統計的因果推論」には、データを用いた定量的な分析とともに、社会問題の背景についての定性的な分析も欠かせません。そのため、定性的な分析に関する知識や理論も身につけたいと考えています。
リーディングプログラムに参加しているため、理工学研究科修士課程修了後は、慶應義塾内の他研究科の修士課程に1年間在籍して修士号を取得した後、理工学研究科の後期博士課程に進学する予定です。プログラムの修了後は、定量的な分析に基づき政策などの効果の測定などを行う行政機関やシンクタンクに就職したいと考えています。アメリカなどでは定量的な分析手法を用いて政策の効果などを検証するのが一般的ですが、日本ではまだこのような政策レビューは多くありません。現在の研究テーマである「統計的因果推論」という枠組みが、そのひとつの切り口になるのではないかと考えています。大学で学んだ知識を活かし、統計と政策をつなぐような仕事ができればと考えています。