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化学科(基礎理工学専攻 修士課程2年【※】)

東京都・都立町田高等学校出身

幼少期にハマったのは、平面的なイメージを立体的なものに作り上げていく面白さを見出した分子模型づくり。高校時代は理数系が得意だったことから、興味は自ずと理工学の方面へ。修士課程2年となった現在は、理論化学研究室で未知数のポテンシャルを秘めた量子コンピュータで化学の計算を行うという研究に取り組んでいます。学業のかたわら、矢上祭実行委員を務めるなど精力的に活動してきた学部生時代から研究に向き合う今、そしてこれからについて語ってもらいました。

【※】インタビュー時点(2022年8月)の在籍学年です。

進学の決め手は、
学問領域の幅広さと
選べる進路の自由度。

高校時代はどのように過ごしていましたか?

高校時代は、吹奏楽部に所属していました。高校から始めた金管楽器、ユーフォニアムの練習に励むかたわら、副部長として部の運営にも携わって忙しく過ごしていましたね。ただ、部活一色の生活というわけでもなく、勉強にも興味を持って文武バランスよく取り組んでいたと思います。学校生活以外では、小学生時代から趣味の分子模型づくりを楽しむ生活でした。手先を使っていろんなものを作ったりするのが好きでしたし、平面的な設計図のようなものから自分の頭の中で考え、立体にする面白さは後々化学科に進むきっかけにもなりました。地道に作り続けた今では、家に大小さまざまな模型が数百個あります(笑)。

慶應義塾大学理工学部に進学を決めた理由を教えてください。

一番の理由は、学門制【※1】だったことです。比較的理数系の科目が得意でしたし、化学系に進みたいという思いはありましたが、高校生のうちはまだ視野が狭いですし、有機系、無機系、はたまたそれ以外にある研究分野をやりたいのか、明確なイメージを持っていませんでした。その点で、慶應義塾大学の学門3(現:学門E)【※2】は化学系ながらも、進める学科が生命寄りから物理寄りまで幅が広く、また、理学系にも工学系にも行ける自由度がある点に魅力を感じました。
また、慶應義塾が総合大学であることも理由の一つです。いろんな人と交流が持てたらいいなという想いもありましたし、自分の興味の向くことが理系一辺倒というわけでもなかったので、文系の講義も覗けるような環境にいたいと思い進学を決めました。


【※】学門制…入試の時点で5つの「学門」のいずれかを選択し、入学後に自分の興味や関心に応じて徐々に学びたい分野を絞っていき、2年進級時に所属する学科を決定する、慶應義塾大学理工学部独自の制度のこと。なお、2020年度の理工学部入学者から学門制が変更となり、各学門から進学できる学科が一部変わりました。学門制の詳細は以下のリンクを参照してください。

【※】学門3…応用化学科・物理情報工学科・化学科・生命情報学科の4つの学科に進学可能であった「学門」。2020年度入学者からは、各学門の名称と構成が変更されています。

入学前と入学後の印象の違いを教えてください。

いわゆる華やかな大学生といったイメージでしたが、いざ入ってみると実にいろんなタイプの人がいることがわかりました。社交的な人や真面目な人、活動的な人など。学業の間に、バイトやサークル、飲み会に積極的に参加するようなアクティブな人を見て、すごいなと感じていました。1年生の時は文系の人が多いテニスサークルに所属していたので、そこで出会った人たちの考え方や楽しみ方を知り、刺激になりましたね。

少人数で深く学ぶ
数式や計算で
化学の面白さに触れる。

化学科の特徴を教えてください。

少人数というのが一番の特徴だと思います。1学年40人程度なので、全員が集まる必修の講義は中学や高校のクラスのような雰囲気があり、学生は勉強や実験レポートの助け合いを通して自然と仲が深まる環境でした。各研究室の学生数もだいたい1学年3〜4人とやはり少ないので、学生に対して指導教員が多く、手厚い指導の下で学べるというのもこの学科ならではといえるかもしれません。学生の特徴としては、ソロプレイといいますか割と黙々とやるタイプが多いように感じます。 それから、理学系の学科であることも化学科の大きな特徴です。有機化学を扱う研究室は応用化学科にもありますが、私が行っているような理論化学や計算化学を主に扱う研究室はありません。化学科はより理学的であること、つまり学問として理解・探求することに重きを置いていると感じます。

現在所属している研究室を選んだ理由を教えてください。

2年、3年で学んだ量子化学に楽しさを覚えたのがきっかけです。化学科でありながら、ほぼパソコン作業で研究を進めるような、唯一「実験をしない研究室」だということもポイントだったかもしれません。
また、理論化学研究室はちょうど前任の教授が定年退職され、私が配属になる年から新しい指導教員の下で再スタートを切るというタイミングでした。フラットな人間関係の中で、より研究に集中して取り組めると思ったことも決め手でした。新しい環境だからといって教育体制が未熟というわけでもなく、指導教員も親身になって教えてくださったので、新しい環境における不安というのは特に感じませんでしたね。

計算化学を学ぶ魅力は何ですか?

実験では分からない所を解明できることですね。最近は実験も進歩して、一つの分子の動きや反応を追うことも徐々にできるようになってはきましたが、まだまだ限界があるのが現況です。そんな実験では解明できない所をコンピュータ上でシミュレーションをして予測結果を出すことで、実験にも役立つような新たな知見を得ることができます。実験だけでは見えない化学の世界に数式や計算でアプローチできるのは、計算化学の一つの強みだと思います。

勉強や研究以外に、大学時代に夢中になっていたことはありますか?

2年生の時に知り合いに誘われて、理工学部矢上キャンパスで毎年開催される矢上祭の実行委員会になったんです。私は総務局に属し、模擬店を出すために区役所への申請を行ったり、衛生講習会を催す際の手配をしたりといった、取りまとめ役を担っていました。ただ、3年時は台風で中止、それ以降はコロナ禍になってしまったので、残念ながらちゃんと取り組めたのは2年時のみでした。授業の合間を縫って準備をしたり、本番直前は矢上キャンパスに泊まり込んだりと大変でしたが、いろいろな経験ができて楽しかったですね。
矢上祭は慶應理工で一番盛り上がるイベントですし、実行委員会は理工としては一番大きなコミュニティです。そこで知り合った人達とはその後もずっと親交がありますし、実行委員会に入ったことで理工学部内での人脈が広がる良い機会が得られたと思います。

最先端の研究ができる
環境で得た学びを活かし
未来の技術と向き合い続ける。

現在取り組んでいる研究について教えてください。

「変分的量子最適化による電子状態計算 (量子コンピュータによる化学計算)」というテーマで、量子コンピュータを利用して化学の計算を行うという研究に取り組んでいます。量子を使って計算を行う量子コンピュータは、一般的なコンピュータではとても扱えないような計算を実行できるポテンシャルを秘めている一方で、どう動かしたらいいかという扱い方自体に未知な部分が多く、まさに発展途上の段階にあるものなんです。そんな量子コンピュータを化学の計算、例えば分子の構造探索などに役立てるにはどのような工夫が必要かを考えることが私の研究になります。研究の実作業として主に行っているのは、量子コンピュータを動かすための指令を書くプログラミングです。量子コンピュータの良い性能を引き出すためには、どんな手順でどんな計算の指令をしたらよいのかを日々プログラミングをしながら検討しています。

研究環境の特色や魅力を教えてください。

慶應義塾にはIBM社との提携によりIBM Q Network Hubが設置され、量子コンピュータを利用するさまざまな立場の研究者たちが集まっている上、研究生にはIBM社の持つ量子コンピュータへのアクセス権限が付与されています。このIBM社や参加企業の研究者の方と共同で研究を行える環境は、とても魅力だと思います。現在はコロナ禍でミーティングもオンラインですが、自分の研究発表に対して経験豊富な方からフィードバックをいただけますし、研究の進め方についても学ぶ所が大きいです。
現状、量子コンピュータ自体の動かし方を模索している段階なので、化学分野における量子コンピュータの実用化への道のりはまだまだ遠い。だからこそ、将来の実用化を見据えた、量子コンピュータに秘められたポテンシャルを紐解く未来の技術の研究に面白さを感じます。そんな未知な所に先行投資ができる大学もなかなかないと思いますし、それこそ慶應理工の特色の一つかもしれませんね。

今後はどのような進路に進む予定でしょうか?

研究室で機械学習等の新しい情報技術にふれるにつれ、興味を惹かれるとともにそれをどうやって実社会で応用していくかに関心を抱くようになりました。そのため企業への就職を考え、卒業後はメーカー企業への就職が決まりました。今後はその会社で、情報系の研究を行う予定です。 幅広い理工系の素養、そして課題を発見して研究を推進したり、自分の考えをプレゼンや話し合いの場で伝える経験など。こうした学部、大学院時代に得たものはすべて、大学での研究に限らず、技術に関わって働く上で欠かせないことだと思います。研究を通して得られた学びをフルに活かして、これからは民間の立場から社会に貢献していきたいです。

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