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化学科(基礎理工学専攻 修士課程2年【※】)

東京都・都立国際高等学校出身

幼少期をドイツ・イギリスで過ごした帰国子女とあって、英語は得意中の得意。高校までは文系だったものの、ひとつの実験を通してサイエンスの魅力に気づき、その後の進路を理系へと大胆にシフトさせたといいます。「英語は通訳のような仕事だけでなく、論文の読み書きにも使える」と、現在は自身の英語力を別の形で発揮させています。かつて文系だった彼女はどのように理系の受験を乗り切り、大学生活をどのように楽しんでいるのか?慶應義塾大学理工学部化学科の特色ある授業やサークル活動など、現在の研究生活を支える事柄について伺いました。

【※】インタビュー時点(2019年7月)の在籍学年です。

たったひとつの経験が、進路の決め手に。
得意分野に磨きをかけつつ、
苦手分野から逃げない姿勢を貫いた。

高校時代はどのように過ごしていましたか?

帰国子女という強みを活かして将来は通訳などの職業に就こうと考えていたため、英語教育に力を入れている高校に通っていました。多い時では週7コマ英語の授業があるほか、英語によるディスカッションや英会話のみで過ごすキャンプなど、まさに高校時代は英語漬けでした。なかでも半年に一度開催される英語のディベート大会は、準備に数週間かけるほど気合いを入れて臨んでいました。

ただ英語が得意とはいえ、それまで文法をしっかりと学んできた訳ではありません。定型文や文法を高校で初めて丁寧に習い、その英語をディベートで実際に使うことが英語力の向上に繋がりました。また、ひとつのテーマについて多角的な視点に立って物事を考えるディベートの経験は、今の研究活動にも活きています。

高校まで文系ですが、なぜ理工学部に進もうと思ったのですか?

高校の化学で繊維を合成する「6,6-ナイロン合成実験」という授業があり、そこでサイエンスの魅力に気づきました。試験管を使ったごく簡単な実験だったのですが、目の前の反応がどういった理由で起こったのかという部分に興味が湧いて…。高校の教科書では「この合成は『A+B→C』で成り立っている」という化学式しか習いませんが、私はなぜこの実験が『A+B→D』ではないのかというメカニズムの部分について深く知りたいと思うようになったのです。この疑問は高校の授業の範疇を超えているため、それならば大学で理科を学びたいなと。得意の英語は論文の読み書きにも使えるため、理系の道に進もうと決めました。

受験勉強はどのようにしていましたか?

本格的に受験勉強を始めたのは、高校2年生の秋ぐらいです。部活には入っていなかったため、予備校に通いつつ集中して受験勉強に励みました。中でも気をつけていたのは、苦手分野の対策です。大学受験は総合点で合否が決まってしまいますよね。私の場合、英語は合格圏だったものの苦手な数学が偏差値の足を引っ張っていたため、あえて数学に取り組む時間をつくっていました。得意な教科の偏差値を70から75にするのではなく、苦手な教科を50から58に引き上げる方が得策ですからね。

あと、今高校生に伝えたいのは、「疑問に思ったことはどんどん先生にぶつけた方が良い」ということです。高校生活は3年間と短いため、自分で調べるよりも先生に聞いた方が効率的。それこそ勉強だけでなく、日頃の生活を通して感じることや疑問を先生にぶつけてみたら良いと思います。

道をひとつに絞らず、
様々な可能性を残しておきたい。
広い視野で自分を見つめた大学生活。

海外も含め理工系の大学が数ある中、なぜ慶應義塾大学を選んだのですか?

日本での暮らしに慣れてしまったため、日本語で理科を学びたいとの理由からです。あとは、理系学部しかない大学ではないところに進みたかったというのも決め手のひとつでした。理科のみを究めようとすれば理系専門の大学がベストでしょうが、私は文系の学部もある大学で視野を広げたいと思っていました。理系に進もうという意思は固かったものの、専門分野のみを学ぶのではなく、自分の中に様々な可能性を残しておきたいな…と。これらの希望に合致していた大学のひとつが慶應義塾大学でした。数ある大学のなかでも「慶應義塾大学は全国から優秀な学生が集まる」と聞いていたため、レベルの高い学生と切磋琢磨しながら新しい価値観を得ることができればと思い入学を決めました。

入学前と入学後で慶應義塾大学のイメージは変わりましたか?

「華やかな学生が多く在籍する」といったイメージが強かったため、大学に上手く馴染めるかどうか入学前は不安が募るばかりでした。しかし実際入学してみると、自分の意見を論理的に相手に説明することができる、外見以上に中身が輝いている人が多いと感じました。レベルの高い講義に挫折しそうになっても励まし合える友人がいたため、学ぶ喜びや知る楽しさを実感することができましたね。

あと、高校と大きく違うと感じたのは、休憩時間に友人同士で物理学における方程式の成り立ちについて議論している学生を見かけたことです。文系が多い高校だったこともあり、理系の事柄について議論できる仲間はこれまで身近にはいませんでした。基本的にどの研究室も、取り組んでいる研究内容は世界トップレベルです。多種多様な経験を貪欲に積みたい人にとってはもってこいの大学かと思います。

勉強・研究以外で打ち込んでいたことはありますか?

「慶應義塾大学リーベンスキークラブ」に所属していました。このクラブでは、「全国学生岩岳スキー大会」の上位入賞を目指して練習し、他にも慶應義塾幼稚舎の児童のためにスキー合宿を行ったりしていました。ファミリースキーの経験はあったのですが、それは楽しむだけのスキーでしたので、「グループで団結力を持ち、ひとつのことに取り組めるスポーツとしてのスキーをやってみたい」と思い、3年生のときにはトレーニング責任者(副将のような立ち位置)として、メンバーの指導やクラブの運営に携わっていました。
今の研究にも通じることですが、私は効率的に物事を進めるのが好きなため、気になることがあれば上級生に対しても物怖じすることなく問題提起を行っていました。結果、大会ではチーム総合4連覇を達成しました。「チーム力を高めることが効率的な運営に繋がる」ということを学びました。
そしてもうひとつ研究に通じていることといえば、様々な人と交流を持つことです。学問のみだと理系の学生としか交流がなくなってしまうため、自分で環境を変えるためにも異なる学部生と交流ができるスキークラブに入部しました。視野を広く持つことは、研究でも大切なことですね。

学んで考える講義で、
苦手なアウトプットを克服。
論理的に説明するスキルが身に付いた。

特に印象深かった授業は何ですか?

学部1年生の時に履修した「グローバルリーダーシップセミナー【※】」という授業です。倍率3倍と人気が高く、論文による選考があるのも特徴ではないでしょうか。授業は週に2回あるのですが、1回目は外部講師による講演を日本語で聴講します。地震保険や哲学などあまり身近ではないテーマが多かったのですが、それをもって2回目の授業では、講演を聞いて疑問に思ったことや自分の考えなどを英語でグループディスカッションします。論理的に説明する学生や想像もしなかった観点からものを考える学生など、自分にはない能力をもつ人々との交流は「この大学に来て良かった!」と思える貴重な時間でした。
現在、数ヶ月に一度自分の研究成果を教員に発表する場があるのですが、この日本語でインプットして英語でアウトプットするという授業は今に活きています。もともとアウトプットは苦手でしたが、克服する良い機会にもなりましたね。

【※】グローバルリーダーシップセミナー…30名以下の少人数制クラスで構成された履修者が、学期中に4つの異なるテーマに関する講演を聴き、各テーマに3週間かけてじっくりと日・英両言語で討論する理工学部独自のセミナー形式の授業です。主に月曜は日本語の講演を聞いて質疑応答を行い、木曜に同テーマについて英語で討論します。

今取り組んでいる研究について教えてください。

現在行っているのは、原子が数十個ほど集まった集合体である「金属ナノ粒子」の研究です。ナノ粒子は原子数が1つでも異なると活性が大きく変わってしまうため、原子数を制御して合成する技術が必要となります。そこで私の研究室では、新薬の研究開発などにも使われている「マイクロリアクター」という特殊な装置を独自に開発しました。金とパラジウムから「合金ナノ粒子」を合成することを目指しています。
金属ナノ粒子は触媒としての特性があるため、環境問題を解決する手段のひとつでもあります。まだ実生活には役立ってはいませんが、今後は電気自動車の電極の性能を高めるために使われるのではないかと言われています。
この研究は設備的な観点から一人では実験が困難だとされてきましたが、二人で実験を進めるとなると、お互いの予定を合わせなくてはなりません。私は自分のペースで研究が進められないことは時間のロスにも繋がると思い、慶應義塾大学の工作室の方に独自の実験器具を作ってもらうなどして、一人で実験ができる環境づくりを実現させました。スキークラブ運営の際もそうでしたが、とにかく効率的に物事を進めるのが好きなんです。

今後の進路や目標について教えてください。

大学に残るべきか企業に行くべきか迷いましたが、最終的には「自分の研究を世の中に活かしたい」と思い、就職を選択しました。自動車技術やシステム、製品を世界中のメーカーに提供する企業に内定をいただきましたが、こちらを選んだ理由は「化学の知識が活かせること」「海外で活躍できること」「互いに異なる専門分野を極めた人が集まること」という私が希望する条件全てに当てはまったためです。
大学では化学を基礎から学ぶことができますが、講義で学んだことを現在の研究に活かせるのはごく一部。研究は枠からはみ出る部分しかないため、論文を読むなどして自分で徹底的に下調べを行います。まだ知られていない現象に遭遇した場合は、自分で試行錯誤しながら解明していくしかありません。今後は慶應義塾大学で学んだ化学の基礎やロジカルな考え方を仕事に活かして、世の中に還元していければと思います。

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