ダンスに剣道、絵画。体育会系・文化系両方の活動に汗を流した中高時代を過ごし、大学は中学から得意で好きだった化学の道へ。ジャンルにとらわれないアクティブさは慶應義塾大学理工学部でも変わらず、理工学部体育会少林寺拳法部に所属。学業、スポーツそれぞれの分野で活躍を収めた学生に贈られる賞を受賞するなど“文武両道”を地でいきます。研究にも課外活動にも全力投球、エネルギッシュに過ごす日々について伺いました。
【※】インタビュー時点(2020年11月)の在籍学年です。
課外活動を重視していました。平日はダンス部の部活動にいそしみ、休日は部活とは別にダンススクールに通ったり、絵画教室に通って好きな絵を描いたり、中学時代から通っていた近所の剣道クラブで汗を流したりしていました。部活と趣味に、興味も時間も注いでいましたので、勉強時間が限られます。そのため授業をしっかり聞いて、通学時間に復習を集中的にしていましたね。
母校の中高一貫校では高校進学時に理数系・文系を選ぶ必要があり、もともと中学生時代から化学が好きだったので理数系を選択しました。絵画教室に通うほど絵が好きでしたので美術大学への進学も頭にあったのですが、結果的には化学を専門分野として何か社会の役に立ちたいという想いが理系の道を後押ししました。慶應義塾大学理工学部を選んだ理由はやはり「学門制」【※1】が大きいですね。進む方向性として化学という大枠は決めていたものの、有機化学に生物化学、物理化学など化学の世界は多様です。具体的な専門性は高校生時点では決めかねたので、最初の1年間で理系の多分野を学び、興味や関心を見つめ直してから学科を選べる制度は魅力的でした。
また、能力の高い人が多くいる学部だと思いましたので、切磋琢磨する環境に身を置くことで成長につながると考えたのも大きな動機ですね。
【※1】学門制…入試の時点で5つの「学門」のいずれかを選択し、入学後に自分の興味や関心に応じて徐々に学びたい分野を絞っていき、2年進級時に所属する学科を決定する慶應義塾大学理工学部独自の制度のこと。なお、2020年度の理工学部入学者から学門制が変更となり、各学門から進学できる学科が一部変わりました。学門制の詳細は以下のリンクを参照してください。
入学前はいわゆる「慶應ボーイ・慶應ガール」の華やかな印象、全国から優秀な人が集まるイメージでしたね。おおよそそのとおりでしたが、入学後に気づいた学生の大きな特徴は多様性があるということ。たとえば帰国子女で物事を常に世界ベースで考えている人がいたり、数学が大好きで数学者となるために人生設計をしている人がいたりと色んな考えの人がいました。異なる経歴や志向をもつ学生が多く、自分とはまったく異なる視点やそれぞれで異なる学問への姿勢をそばで見られて目が開かれたというか……。入学後に自分の世界が急速に広がっていくのを感じました。同級生から受けた刺激は私自身の学業への意欲、成長への駆動力に。よく考えれば枠にはまらないこの多様性も「学門制」のメリットのひとつだと思います。
「少人数教育」「カリキュラム」そして「学科懇親会」を始めとした学科独自の行事があげられます。学生約40人に対して教員が約20人、2:1ですので学業に集中でき、近距離で密度高く学べるのは少人数だからこそ。たとえばある授業で課題を提出した際はただ正誤がつけられるのではなく、なぜこう考えるのかまたはこう考えてはいけないのか、といった理由を学生個人の理解度に合わせて担当教員から添削いただけました。授業・実験でのインプット→課題提出・ディスカッションでのアウトプット→教員からのフィードバックというサイクルが日常的にできる環境で学びが深められます。カリキュラム的にも2年生までに化学分野のおおよその基本を学んで、そこから専門性を深掘りできるようになっているのも魅力でしたね。
化学科懇親会というのは、学部2年生から修士課程・後期博士課程の大学院生と教員が研究室の枠を超えて一堂に会する集まりです。他にも学科独自のフットサル大会やソフトボール大会などがあり、こういった場で横のつながり(同期)と縦のつながり(所属研究室)に加えて、専門を超えた斜めのつながりが生まれるんです。自分の分野だけにとらわれない研究力や創造力を伸ばす素養が身につくのでとても有意義だと思います。
理工学部体育会少林寺拳法部の活動です。未経験の競技でしたが、もともと武道に興味がありましたし、理工学部の体育会とあって練習開始は5限後だったため、授業や研究と両立できると考え入部しました。
学部2、3年生のときに大学から小泉体育努力賞【※2】、4年生のときには理工学部から藤原賞【※3】をいただきました。といってもこれは私一人でいただいた賞ではありません。研究は指導教員の先生方のご指導、先輩方や同期とのディスカッションからヒントを得て進んでいくものですので、周囲の人たちのバックアップあってこそ。小泉体育努力賞も監督や顧問の先生、部活の仲間や家族の支えの賜物で、みんなと一緒にいただいた賞だと思っています。
【※2】小泉体育努力賞…人物が優秀で、かつ健康であり、スポーツを通じて慶應義塾の名声を高らしめた慶應義塾大学體育會(理工学部体育会を含む)に所属する塾生(在学生)に授与される賞です。
【※3】藤原賞…慶應義塾大学理工学部における学業に真摯に取り組みながら、社会活動・文化活動・体育活動・学術・芸術等の分野において理工学部学生の範となる活躍をした者、またはそれらの活動団体において対象となる活動の中心的役割を担った者に授与される賞です。
選択科目の「人文社会学演習(表象文化)」「芸術と科学」などでしょうか。特に「人文社会学演習(表象文化)」は西洋美術史研究の世界で活躍する講師が担当していて、複数の画家が共同で描いたヴァチカンにある礼拝堂の装飾壁画を題材にし、図像学・図像解釈学や制作のテクニック、画家の制作意識など、絵画に対する諸相を学んでいくという専門的な内容でした。今でも美術を好きな気持ちは変わらないため、理系の道を選択しても、興味のある分野を学べる環境があるのは非常に嬉しかったですね。
所属する反応有機化学研究室は、有機化学の知見や手法を用いて新たな有機合成反応を開発する研究室です。具体的な研究内容としては、遷移金属と二酸化炭素を活用した反応の開発を行っています。これまで研究室では、二酸化炭素を有機化合物に導入する、いわゆる「二酸化炭素の固定化」の研究を以前より行ってきました。そのような背景を受けて私の研究では、二酸化炭素の固定化によって得られた生成物に対して遷移金属を作用させることで、さらに有用な化合物へと変換する触媒反応を開発しています。
従来の二酸化炭素の固定化では、二酸化炭素の削減を一つの背景として、有機化合物に二酸化炭素を取り込むことを主とした反応が開発されてきました。
しかしこの研究では、二酸化炭素を有機化合物の活性化剤として利用していることから、二酸化炭素の新たな活用法に着眼した研究と言えます。さらに、私が合成のターゲットとしている分子構造は医薬品や天然物合成にも広く活用できることから、研究が進めば製薬分野への応用が期待できるかもしれない、そんな可能性を秘めた研究です。
私が扱う分子構造は研究室でも未経験のものだったため、研究はまさに紆余曲折でした。芳しくない結果ばかりが続き、壁に当たってばかりいるような日々でしたが、反応条件を根気よく精査したところこれまでほとんど有機合成には用いられなかった遷移金属元素が有用なことを発見したんです。今はその成果を発表するために、国際論文誌への掲載をめざして、最後の詰めを行っている最中です。
研究で苦しいときには、環境は自分で整える、環境に文句は言わない、という部活の仲間の言葉を思い出します。環境をどう作るかは自分次第、自分の手で変えられるものは変え、それ以外は受け入れてその場で全力を尽くすということを常に意識しています。
化学メーカーから内定をいただき、研究職として就職予定です。就職活動をする際に、専門とは全く異なる業界に進み、学生時代に学んだ理系分野をはじめ幅広い興味を活かすことも考えました。ですが、研究を進めるなかでやはり学んだことをより直接社会に還元できる道=研究者の道に進もうと考えるようになりました。
入社後は、多くの方々の生活を支える日用品や化粧品の開発を行う予定です。実際に使ってくれる人の顔が見えることをモチベーションに、自分の学んだ知識や経験を活かして精一杯貢献していきたいと思います。