髪の毛の太さの数百分の一まで細く加工したシリコン半導体は、光(フォトン)を自在かつ高効率に導く光導波路として機能することが知られています。人類が半導体開発で培った高度な微細加工技術を使うと、シリコン細線を極小な空間で縦横無尽に配線した集積フォトニクス回路を作製することができます。このシリコンフォトニクスという技術は、すでに商用化されるとともに次世代AI・量子技術・光電融合の実現に欠かせない要素と目されています。
最新の集積フォトニクス研究においては、シリコンと化合物半導体等の異種材料との融合が中心的なテーマとなっています。シリコンに非従来型の材料をドッキングするので、高度かつ特殊な(かつ高価な)微細加工装置が必要となります。この異種材料融合集積フォトニクスの研究には、資金が潤沢な研究グループにしかアプローチできない側面があります。たまたま参加した米国における国際会議のナイトセッションにおいて、そういった現況に不満を持っている研究者が多いことを知りました。
私が研究している転写プリント法は、粘弾性ゴムを用いたピックアンドプレース集積技術であり、大金をかけなくても高度な異種材料集積フォトニクスの研究を可能にします。前述のナイトセッションにおいて、この低コストな転写プリント法が「集積フォトニクス研究の民主化」を可能にする、とある聴衆から指摘を受けました。これは日本ではあまり触れない面白い視点だと感銘を受けました。特定の研究分野が大きく発展する上では、参加者の数と多様性が大切です。自身の関わる研究分野そのものが広がり続けるよう、技術の民主性に着目するというのも面白いことだと思いました。
私の考える究極の集積フォトニクス構造(図1にイメージ)は、多種多様な材料からなる特別な機能を持った光素子をシリコンフォトニクス光回路上で自在に組み合わせたものです。従来にない組み合わせが、新たな機能・優れた性能を生み出すだろうという発想です。量子技術を筆頭とした極限的な性能を求められる応用には不可欠のデバイスになると想像しています。これは、それぞれの材料の専門家とチームを組み、ある意味民主的に研究を進めないと実現しえない技術とも言えそうです。ただ、進むべき研究の方向は自分勝手に決めることが大切だと思っています。
図1キャプション:転写プリント法により実現を目指す異種材料融合シリコンフォトニクス光回路のイメージ図