2025年は国際量子科学技術年(International Year of Quantum Science and Technology)。ちょうど100年前に量子力学が誕生して以来、人類は量子の世界の解明に挑み続けてきました。波でありながら粒子でもある「波と粒子の二重性」、0と1の状態を同時にとり得る「重ね合わせ」、離れた粒子同士が特殊な相関を示す「量子もつれ」― 直感に反する不思議な現象が、量子の世界では現実に起こり得ます。近年の実験技術の急速な発展により、こうした量子の性質を自在に操ることが可能となり、センシング・通信・情報処理に革命をもたらす量子技術の実現が現実味を帯びてきました。

私の主宰する量子光エレクトロニクス研究室では、次世代の量子技術を切り拓くとともに、その基盤となる量子物理の本質的理解を目指しています。鍵となるのは「光技術」と「半導体ナノ構造」。最先端の実験技術を駆使し、光と電子の相互作用を量子力学的に明らかにしながら、“量子革命2.0”の実現に挑戦しています。研究領域は幅広く、学生の興味や関心に応じて多様なテーマに取り組むことができます。以下に代表的な研究内容を紹介します。

量子センサ
ダイヤモンド中の欠陥(NVセンター)を用いて、ナノスケールで磁場や温度を高感度に計測する量子センサを開発しています。「量子の力で見えないものを可視化」する技術は、デバイス評価や物性研究、生体計測など幅広い応用が期待されます。

量子通信
光の最小単位である光子を超高速で検出する単一光子検出器や、半導体量子ドットに保存する光量子メモリの開発を進めています。さらに、量子もつれ光子を使った遠隔操作による安全な量子コンピュータ制御にも挑戦しています。量子通信と量子計算を融合し、将来の量子インターネットの実現を目指します。

量子情報処理
2024年度からは、JST CRESTプロジェクトとして「二次元物質を用いた固体量子シミュレータ」の研究を推進しています。遷移金属ダイカルコゲナイドやモアレ超格子といった二次元物質を活用し、人工的に量子系を構築することで複雑な物理現象をシミュレートします。物質科学や基礎科学に新たな知見をもたらす先駆的な研究です。

超高速量子光学
1秒を10兆分の1に刻むフェムト秒レーザーや、時間・周波数が精密に制御された光周波数コムを用いた超高速非線形分光技術により、半導体ナノ構造中の電子の量子状態を“究極のスローモーション”で観測・制御する最先端光技術を開発しています。これにより、従来誰も見たことのなかった量子現象を明らかにし、新しい量子計測・量子制御技術の開拓につなげています。

量子の世界は、いまだ多くの謎に包まれています。しかし、その未知を探究する過程で新しい科学的知見と技術が生まれ、社会を変える力となります。是非私たちと一緒に、量子の不思議と可能性を探究してみませんか?

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