近年は、テキスト、画像や音楽などに関連した生成AIが私たちの身近になりつつあります。なぜそれらの生成AIが発展できたのかを考えてみると、AIが学習するためのデジタルデータが大量に存在したことが要因の一つにあります。デジタルデータはカメラやマイクといった優れた視覚、聴覚センサを用いることで収集することができます。
では、嗅覚センサはどうでしょうか?確かに酸素濃度計やガス漏れ検知器は家庭や職場で見かけることも多いです。しかし、私たちの身の回りに存在する多数の分子それぞれの濃度を特定できて、気軽に使えるような万能匂いセンサは存在しません。もし、多様なガス濃度を一括でデジタル化することができれば、AIとの組み合わせで今までになかった有用なアプリケーションを創造することができます。例えば、犬の優れた嗅覚を代替することが一つの候補です。危険物・違法薬物の検知や生体のがん検知など非常に多くの分野で犬の嗅覚が活用されています。しかし、生体を用いている関係でトレーニングにかかる費用や時間が必要であり、複数の機能(例えば危険物検知とヘルスケア機能等)を集積化させることはできません。一方で電子デバイスに立脚した嗅覚センサは、電子デバイス特徴である集積化や量産化が可能であり、専門的な施設でしか実施できなかった検査を家庭にまで広げることができると期待されます。
2023年に発足した田中研究室では、微細加工技術を活かして集積化可能なガスセンサの研究を行っています。従来の電子デバイスの観点からすると外気に触れることは不要な化学反応を引き起こし、特性の劣化を引き起こしてしまいます。そのため、様々な集積回路の根幹を成すトランジスタは現在まで外気に触れないように封止されて用いられてきました。一方私たちは、電子デバイスを積極的に外気に触れさせ、その際に起こる電気特性の変化からガスのセンシングができないかと挑戦しています。そのため、表面での化学反応に依存した電子デバイスの特性という化学と電子工学の学際領域で未知の現象を解明することを楽しみながら研究を行っています。