「新しい医療技術は、多くの未来の命を救うことができる」——これは、私が医工連携研究に取り組むきっかけとなった言葉です。現代の医療現場では、さまざまな医療機器が導入されており、もはや医療機器はなくてはならない存在となっています。私たちの研究室は、光学や電気計測の技術を活用し、新たな治療や診断の創出や、治療の精度と安全性を高めるための医療機器の研究開発を行っています。
たとえば、パーキンソン病などの神経変性疾患に対しては、「光渦」と呼ばれる特殊な光の性質を用いた新たな治療アプローチの構築を進めています。光渦とは、波面がらせん状になっている光であり、従来の光とは異なり、対象に回転の力(トルク)を与えることができます。この性質を活かして、脳内に異常蓄積するレビー小体に作用させることで、治療や診断への応用を構想しています。さらに、がん治療に用いられる光線力学療法(Photodynamic Therapy, PDT)に関して、光照射による治療効果を、実験と数理モデルの両面から分析しています。がん組織中の光伝播や細胞の状態を実験的に評価し、得られたデータをもとに、治療効果を予測する数学モデルを構築することで、より安全かつ効果的な治療設計が可能になると考えています。
また、映像から得られる脈波(映像脈波)を活用し、非接触で血圧を推定する研究も進めています。顔の微細な色の変化には、心拍に伴う血流の影響が現れており、そこから脈波を抽出することができます。この手法は、得られた脈波の波形から血圧を推定するもので、新生児集中治療室(NICU)など、接触を最小限に抑えたい医療現場での活用が期待されています。また、得られた波形を使って異常の兆候を早期に検出するアルゴリズムの構築にも取り組んでいます。さらに、救急医療の現場では、止血用バルーンカテーテルの安全な操作を支援するため、光の透過・反射特性を用いて血管の状態や血流量をリアルタイムに計測する技術を開発中です。これにより、過拡張による血管損傷のリスクを低減し、安全な止血処置を支援することができます。
このように、私たちは「光」と「電気」という工学の力で、治療や診断を支える新しい医療技術の実現を目指しています。今後も多様な専門領域と連携しながら、研究成果を臨床現場へと橋渡しし、未来の医療を支える技術の創出に挑み続けていきたいと考えています。