量子情報技術という分野の研究をしています。現在の情報技術も半導体やレーザーなど、量子力学に基づくデバイスで成り立っていますが、量子情報技術では、さらに情報そのものまで量子力学的に扱う点が異なります。ビット情報を量子系で表現すると、0, 1の値の他にそれらを同時に持ちうる重ね合わせ状態でも表現することができます。この情報単位を量子ビットと言い、量子ビット(英語では quantum bit、略して ”qubit”)からなる計算機では重ね合わせにより現在のコンピュータでは膨大な計算時間がかかる問題を瞬時に解いたり、量子情報の持つ不確定性や特別な相関(量子もつれ)などにより、従来にはない性能・機能を持つ通信やセンシングが実現可能とされ、世界的にも近年急速に研究が進み、一部は実用化も始まっています。

 ところで、デジタル情報の単位である「ビット」という名前は、データ圧縮や誤り訂正など、デジタル情報処理の基本原理である情報理論を打ち立てたシャノンの1948年の有名な論文で初めて使われたそうです。実は「量子ビット(qubit)」という名前も、シューマッハーの量子情報の圧縮に関する1995年の論文で初めて使われました。これはシャノンの情報理論に量子力学を融合し量子情報理論へと発展させる重要な論文の1つでした。量子情報理論は、現代情報技術を支える情報理論の自然な拡張となるだけでなく、情報理論的な考え方による量子論自体の新たな理解にもつながっており、何よりまだ発展途上の非常にエキサイティングな分野です。

 さて、我々は2022年に発足した新しい研究室です。量子情報の理論を探求する一方、その理論を具現化し、量子情報をネットワーク化するための量子通信・量子光学の実験研究も進めています。量子情報は技術としてはまだまだ道半ばで、計算・通信・センシングのどれも様々な技術課題があります(その分やりがいもあるということですが)。また現代の研究では1つの研究室でできることは限られており、我々も情報科学やフォトニクス、原子物理など国内外の様々な研究グループとの連携で量子情報の新しい可能性を切り拓いていきたいと考えています。

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