現在、地球上には3000万種以上の異なる生物種が存在していると考えられています。動物は生きていくためのエネルギーを独自には産生できませんが、植物が太陽光のエネルギーと二酸化炭素を利用して産生した化学エネルギーを利用して成長します。これは動物だけでは生きられないことを示しています。人間でも同じです。人間は生きていくために、さまざまな動物・植物・微生物が共存しています。さらに、たとえある種の生物が一種一人勝ちの状態を作っても、食物連鎖が乱れ、その種も生き延びることができません。生物では、ゲノムレベルでバラエティが豊かである種が環境の変化に対応して生き延びると考えられています。そのために二個体のゲノムが混ざり合う有性生殖と2セットある染色体が交差してキメラ状になる減数分裂を生み出しました。

この有性生殖をおこなっている私たちは父親からのゲノムセットと母親からのゲノムセットを合わせて2セット持っている2倍体です。減数分裂では父母由来の染色体が並び結合する対合が起こり、父母由来の染色体が交差してキメラ状になるために、偶数倍のセットを持っていることが必要です。そのため、3倍体の生物は対合がうまくいかず減数分裂ができないというのが定説です。その定説を覆したのが、プラナリアです。プラナリアの一種リュウキュウナミウズムシには2倍体の個体と3倍体の個体が共存しています。プラナリアは有性生殖する個体と無性生殖する個体が共存しているので、2倍体個体が有性生殖していて、3倍体の個体は無性生殖(単為生殖:卵だけが受精せずに発生する生殖方法)していると考えられていました。しかし、私のグループでは3倍体個体の親子鑑定を行ったところ、子供には両親の遺伝子がキメラ状に混じっていることがわかりました。これは3倍体の個体も有性生殖をできることを示しています。私たちはプラナリアが特殊な減数分裂をおこなっていることを発見しました。より多様性を増やし生き残るために、3倍体個体も特殊な減数分裂を獲得したのだと考えられます。みなさんは、このような研究を聞いて、どう思いますか?直接、人間には役には立たたないかもしれないけれど、生命が織りなす現象は不思議の塊ですよね。

最近、私たちは社会的でも「多様性」が重視されています。私たちの理工学部でも「Diversity, Equality and Inclusion」は重要課題となっています。しかし、生き物たちは特に課題と考えることもなく、自身の生存戦略として多様性を増やしその種の存続を保証する方向に進化してきています。今、人類は地球上に一人勝ちしていると考えがちです。多量の食物を生産する人類は食物連鎖を乱し、過剰な工業生産により多量なCOを放出し、温暖化等々、地球に大きな負荷をかけてしまいました。本来、人類を含む生物は自分を変えることにより多様性を得て進化してきたにも関わらず、生物の一種である人間が自分を変えることなく環境を大きく変え38億年の生物の歴史に終止符を打ちかねない状態です。皆さんには、是非、生命情報学科で、本物の生物学から進化による生物の発展のシステムを学び、地球の未来のために役立ててもらいたいと思います。

図1 2倍体個体と3倍体個体の生殖系列細胞の減数分裂 3倍体では減数分裂後によってできる生殖細胞に含まれる染色体が細胞によって異なってしまう。

図2 3倍体プラナリアは有性生殖する
A:有性生殖系プラナリアと卵殻  B:沖縄で採集したリュウキュウナミウズムシの生殖様式と核相  C:リュウキュウナミウズムシ3倍体の親子鑑定実験法 有性化した3倍体の2系統OHとW−2を交配させ、仔虫(F1)を得る  D:マイクロサテライトマーカー 親のOHとW−2を識別できる繰り返し配列。系統により長さと数が異なる

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