みなさんは、天然物という言葉を聞いたことがありますか?天然と辞書を引くと、「人の手の加わらないままであること」とあります。天という字があるだけに、「天の神が作ったままのもの」と感じます。「天然物」は、どう定義されるかというと、「生物が産生する物質」となります。つまり、天の神が生物に作らせたそのままの物質です。天然物は植物や微生物、海の生き物などが産生する化合物で、古くから多くの重要な薬になってきました。特に放線菌や真菌などの微生物は、古い薬としては抗生物質のストレプトマイシンから近年ノーベル賞に輝いた寄生虫病薬の基本となったエバーメクチンまで、輝かしい天然物がたくさんあります(図1)。

図1 天然物:人知の及ばない構造と生物活性

しかしながら、微生物には眠ったままの遺伝子「休眠遺伝子」があり、まだまだすごい化合物を生産できる可能性があることが明らかとなりました。それでは、そのような眠っている遺伝子はどうやって起こすことができるのでしょうか?私たちは、異種生体間相互作用に着目し、微生物と動物の細胞を一緒に培養する「共培養法」を開発しました。病原微生物が動物の生体内に侵入すると、免疫細胞から攻撃を受けるでしょう。すると微生物はストレスを感じ、眠っていた休眠遺伝子を活性化させ、生き残ろうと何か化合物を生産するかもしれない、と考えました(図2)。

図2 異種生体間相互作用に着目:休眠遺伝子活性化!

実際に、病原放線菌や病原真菌、そして麹カビや腸内細菌まで、動物細胞と共培養することで新しい化合物を生産することに成功しています。

 さて、このような化合物は薬になるような生物活性を持っているのでしょうか?私たちは、生物活性を担うヒトのタンパク質に着目し、タンパク質の釣り竿で活性な天然物を釣り上げる、「標的タンパク質指向型天然物単離法」を開発しました(図3)。

図3 タンパク質の釣り竿 : 生物活性天然物を釣り上げる!

この方法を用いて、抗がん活性や、神経幹細胞をニューロンに分化させる化合物など、多くの天然物を釣り上げてきました。これらの化合物は、がんの新薬や、神経変性疾患のシード化合物となっています(図4)。

図4 神経再生医薬の候補:ニューロンが増加!

このように、「休眠遺伝子活性化」と「タンパク質の釣り竿」を用いれば、さらに多くの人類に役に立つ「天然物」を探し当てることができます!あなたも、私たちと一緒に、そのような人類の宝を探し当てませんか?そして、そのような天然物がどうやって細胞の中で働いているのか、覗いてみたいと思いませんか?

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