わたしたちを形作るもっとも小さな要素は素粒子とよばれます。光の粒子である光子や、電流の元となる電子は素粒子ですが、原子核を構成する陽子と中性子は素粒子ではなく、クォークとよばれる2種類の素粒子が3個集まって成り立っています。これら安定な素粒子のみではなく、他にも質量が大きく不安定な種類や軽くて性質のよく分かっていない素粒子が見つかっています。
素粒子は種類によって受ける力の種類と大きさが異なり、力が弱い素粒子には気づくことができません。素粒子の1種であるニュートリノは質量が非常に小さく、周囲に力がほとんど及びません。宇宙から1秒間に数百兆個ものニュートリノがわたしたちの体を通り抜けていますが、そのほとんどが地球も通り抜けてしまうほどです。しかし、たまたま力が及んで見える瞬間を捉えられたら、その性質を研究することができます。このために、直径・高さがそれぞれ約40メートルの大きな円筒形タンクで5万トンの水を用いる検出器が「スーパーカミオカンデ」です。たまに止まるニュートリノを光で捉え、1日に約30個のニュートリノを観測することができます。
スーパーカミオカンデでは20年以上のニュートリノ観測を行ってきましたが、水にガドリニウムを入れる検出器改良を経て、2020年から新たな実験が始まりました。ニュートリノは過去から続く星の爆発(超新星爆発)から大量に生まれて宇宙を漂っており、星の終焉と宇宙の進化の情報を秘めています。検出器改良により、性質が反転した反粒子のニュートリノを区別し、観測の障害となる太陽からのニュートリノを除外できるようになったため、この遠い昔から漂うニュートリノの発見を目指して観測を続けています。
ニュートリノによる宇宙観測だけでなく、ニュートリノや陽子の崩壊を観測することで、素粒子を支配する法則の解明も目指しています。ニュートリノが反粒子として鏡の向こう側で同じように振る舞うかは分かっておらず、ニュートリノの種類が入れ替わるニュートリノ振動と呼ばれる現象を通して、反粒子との違いが現れるかどうかを調べています。このために、ニュートリノと反粒子のニュートリノを295キロメートル離れた茨城県の大強度陽子加速器からとばして観測します。もしこの違いを発見できると、宇宙創生期から物質が生まれた理由を説明する1つのヒントになると考えられています。他にも、水中の陽子が10の34乗年以上の長い年月で崩壊する「陽子崩壊」は、素粒子を統括して記述できる新たな理論で予言されており、大量の水を長期間観測することで発見が期待されています。
これらの発見に向け、スーパーカミオカンデよりさらに大きく、高さと直径が約70メートルで約10倍の感度を持つ「ハイパーカミオカンデ」の建設を進めています。水中の微弱な光をより高精度で数えられるように、直径50センチの大型光検出器を新たに開発し、従来の2倍の性能を得られるようになりました。大きな受光面で高い精度が得られるように精密な校正を進めており、大きさだけでなく検出精度も高める研究を行っています。2026年には光検出器を取り付け、2027年から観測開始を目指しており、宇宙創生の謎と万物の究極理論に迫る次世代のニュートリノ・陽子崩壊研究が始まろうとしています。
2018年メンテナンス中のスーパーカミオカンデ内部写真
ハイパーカミオカンデ検出器の完成イメージ