膨大な選択肢から、制約条件を満足し、ベストな選択肢を探索する問題を組合せ最適化問題と呼びます。組合せ最適化問題は私たちの身の回りにあふれています。例えば、宅配便。届ける経路のパターン(選択肢)は膨大にあります。時間指定(制約条件)を守りつつ、効率よく全ての荷物を届けるための経路を見つける必要があります。荷物を届ける場所が増えると、経路のパターンは爆発的に増加するので、経路の全パターンを書き出した上でベストな経路を見つけることは困難です。

組合せ最適化問題に対し、ベターな選択肢を得る計算技術として期待されているのが量子アニーリングです。量子アニーリングは、イジングモデルと呼ばれる、物理学の一分野である統計力学における数理モデルを用いて組合せ最適化問題を表現し、量子効果によって、イジングモデルのエネルギーが最も低い状態を探索させようと動作するアルゴリズムです。量子アニーリングはまさに、物理と情報の出会いによって生まれた計算技術です。1998年に理論物理学の文脈で量子アニーリングが提案され、2011年に世界初の商用量子アニーリングマシンが登場しました。それから10年経過した今、量子アニーリング分野は、学術研究のみならず、社会実装に向けた第一歩を踏み出しつつあります。

量子アニーリング分野の研究開発の詳細は別の機会に譲ることとし、今回は、私が現在携わっている量子アニーリング分野の研究における「出会い」について紹介することにしましょう。

私が量子アニーリング分野のアプリケーション探索を開始したのは大学院生の頃でした。当時、機械学習を研究している同期の友人と互いに自身の研究分野について話す機会があり、量子アニーリングを機械学習に適用するという研究を一緒に行おうという話になりました。研究自体はスムーズに進んだのですが、当時、量子アニーリングについてほとんど知られておらず、また機械学習も今ほど盛んな分野でもなかったこともあり、どこで発表するのが良いのか非常に悩みました。幸い、2009年に人工知能系の国際会議UAIに採択され、この研究は一段落し、異分野との出会いの困難さや楽しさを経験することができました。この経験を活かし、最近では、多岐にわたる業種の企業の方々をはじめとした多くの研究者やエンジニアとの出会いに恵まれ、量子アニーリング分野のハードウェア開発やソフトウェア開発の基礎づけに位置付けられる研究、アプリケーション探索の研究といった幅広い研究に取り組んでいます。

2020年4月に慶應義塾大学理工学部物理情報工学科に着任し、2021年度から当研究室に特任講師、大学院生(社会人ドクター)、学部4年生が所属しました。当研究室のメンバーとの出会いをもとに、また、これから巡り合う新たな出会いを大切にし、量子アニーリング分野における新しい潮流を、様々な方々とともに築きたいと考えています。

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