私は2010年から今に至るまで熱電変換と呼ばれる導体を用いた発電技術 (エネルギーハーベスティングと呼ばれることがあります。) に着目して、試料と測定装置を自作し、研究を行っています。本稿では、この研究の過程で得た「悩みとその解決」を紹介します。

熱起電力測定編
導体の両端に温度差があると、その温度差に比例した電圧が生じることが知られています。これを熱起電力と呼びます。熱起電力の大きさは、温度差1℃あたりの起電力を「ゼーベック係数 (S) 」と定義して試料ごとで比べます。このSを求めるには、試料の温度と温度差が落ち着いた定常状態が必要です。ここで手を抜くと不自然な値になるので、温度が定常となるまで測定は続きます。温度の1プロットに2時間近く要する気長な測定です。

熱伝導率測定編
熱伝導率は、フーリエ (Fourier) の法則における熱流束密度と温度勾配の比例定数として定義されます。これは前述の熱起電力測定と似た「定常法」と呼ばれる方法で測定されます。熱伝導率測定には「定常法」と異なるレーザフラッシュ法も良く使われます。レーザフラッシュ法は、平板状に加工した試料の片面をレーザパルスで照射加熱した後、照射面から裏面への熱拡散を解析すると求まる「熱拡散時間」から「熱拡散率」を得る方法です。理想的には「熱拡散率」×「比熱容量」×「密度」で熱伝導率が求まります。

悩み編
私は2020年2月頃まで「定常法で求めた熱伝導率」と「レーザフラッシュ法で求めた熱伝導率」が常に異なることに悩んでいました。複数試料を測定しましたが、得られる熱伝導率は常に「定常法」が高く、「レーザフラッシュ法」が低いのです。その数値の差は20%以上に上ります。「定常法」の装置は自作ですし、数値の差は電極の付け方では説明出来ない値です。


「なぜ高い値が出てしまうのか・・・・・発表済みだしなぁ。訂正記事かなぁ」


と自己嫌悪に陥っていました。ところが2月に会合で同席した研究者の方に相談すると「レーザフラッシュ法は定常法と異なる数値が測定されるから、自然な結果ですよ。」とのありがたい言葉をいただきました。測定結果の差は、解決を他者に頼る問題ではありませんが、いただいた言葉は悩みを解決する言葉でした。この悩みと解決は、原理と装置の詳細を理解し、確認しながら得た実験値は、他者の報告と異なっても信頼出来るものであると「当たり前のこと」を再度学ぶ機会でもありました。


自然は正直なので、原理に注意しながら安心して実験と測定を行いましょう!

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