人の役に立つことを目指す人工知能や知能ロボティクスの研究が進んでいますが、わたしたちの研究室では、その方向性とは少し異なる「認知ロボティクス」という分野の研究に取り組んでいます。認知ロボティクスにおいては、認知神経科学・ロボティクス・機械学習等、様々な研究分野の知見を総動員することで、知覚・行動・学習といった人の認知機能を実現する計算メカニズムの理解を目指しています。

例えば、赤ちゃんが養育者等の他者の動きの真似をする模倣という認知機能がありますが、その理解をするためにはどのような方法があるでしょうか?最も単純な方法として、実際に模倣の様子を観察したり脳の神経活動を計測したりするということが思い浮かぶと思います。しかし、このような「分析的手法」のみでは、その背後に潜むメカニズムまでを知ることはできません。そこで、そのメカニズムに関する仮説を立て、実際にシステムを作って動かしてみるという「構成論的手法」が効果的だと考えられます。赤ちゃんの発達においては、単に独立した脳が学習するのではなく、脳・身体・環境の相互作用が必須です。このような相互作用を考慮するため、認知ロボティクスにおいては脳の計算モデルを構築するのみならず身体を有するロボットにモデルを搭載し、実環境で検証するということを重要視します。

人の認知機能の仕組みはものすごく複雑であるように思われます。わたしたちは、複雑にみえる対象を可能な限りシンプルに説明することを目指しています。そのための計算原理として、予測誤差最小化という考え方に着目しています。これによって、様々な認知機能を統一的に説明することができると期待されています。例えば、知覚は予測の変更、行動は感覚の変更、学習は脳のシナプス結合の変更というように、それぞれの認知機能は予測誤差最小化という共通の目標を実現するための異なる情報処理プロセスとして捉え直すことができます。

日常生活環境において人と共存し活躍する知能ロボットの実現が期待されていますが、工場等での単純な繰り返し作業とは異なり、文脈に依存した適応的で柔軟な行動生成が必要となります。そのためにも、実際に人がどのようなメカニズムでそれらを実現しているかということを理解することは重要となります。また、精神医学の分野においては、神経レベル・認知レベル・行動レベルをいかにしてシームレスにつなぎ、精神障害を理解するかということが近年重要視されています。ロボットから人の知能の謎を解き明かすことを目指す認知ロボティクスは、これらの研究を行うロボット学習や計算論的精神医学といった他分野の発展にも貢献する重要な役割を担っています。

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