この度は、「塾員来往」の執筆の機会をいただいたこと、大変光栄に存じます。
大学ではシステムデザイン工学科、大学院理工学研究科前期博士課程(修士課程)では総合デザイン工学専攻に在籍し、滑川 徹教授のもとで制御理論の研究を行いました。修士課程修了後は株式会社三菱総合研究所へ入社し、主に官公庁に対する調査・研究業務に従事しています。また、2021年9月より、在職ドクターとして後期博士課程にも在籍しており、修士課程と同様に制御理論に関する研究を行っています。
慶應義塾を卒業した塾員でありつつ、慶應義塾に現在属する塾生でもある当方の経験について、若輩ながら紹介させていただければと存じます。
理系に目覚めたきっかけは中学時代に読んだ一つの小説だと記憶しています。当時、ミステリ小説を読むことが好きだった私は、森博嗣氏の『すべてがFになる』を読み、その面白さに感嘆するとともに、プログラミングというものに初めて触れ、コンピュータの奥深さを知りました。中学時代の私は、プログラミングをより詳しく学びたいと思い、工業高校の情報システム分野に進学を決意しました。高校ではLinuxやC言語・Java等、コンピュータやプログラミングの基礎を学ぶだけでなく、卒業研究としてAndroidのARアプリを開発する(当時としては少し先進的でした)など、中学時代の萌芽的野望を実現するとともに、現在でも役立つプログラミング能力の基礎を習得できたと考えています。
理工学部入学後、大学一年を過ごす中で、自身の情報工学に関する知見を基盤としつつ、幅広い分野を身に着けたいと思うようになり、システムデザイン工学科(SD)を選択しました。そして、大学二年・大学三年と力学・電気・情報といった複数の分野を横断的に学ぶ中で、それぞれの事象を数理モデルとして扱い、数学を以て制し御す学問である制御理論に惹かれ、制御理論に関する研究室である滑川教授の研究室を選択しました。様々な分野を学ぶことができるSDだからこそ、自分の視野を広げることができ、結果として没頭できる研究分野を見つけることができたと考えています。
研究室に配属後、学部時代はドローンのような小型無人航空機の自己位置推定に関する研究、修士課程の二年間は制御システムのサイバーセキュリティに関する理論研究に従事しました。この三年間は、研究に没頭した三年間であったうえに、制御理論の奥深さを知った三年間だったと考えています。そして、修士課程でのサイバーセキュリティに関する研究は、今の社会人のキャリアに繋がるきっかけでもあります。幸運なことに、国内会議・国際会議に複数参加する機会を与えていただくことで、研究の世界を知るとともに、自身の研究の立ち位置を知ることができました。
また、滑川先生の紹介から、オスロ大学(UiO:Universitetet i Oslo)への留学の機会も与えていただきました。UiOでの研究テーマは慶應での研究テーマとは異なるもので、また、異国の地での研究に最初は困惑しましたが、他のメンバーや教授と議論しつつ研究を進めることができました。留学期間は二ヶ月弱と短期間でしたが、普段では経験できない濃密な時間を過ごすことができたと確信しています。
大学院修士課程修了後、株式会社三菱総合研究所に入社し、主に官公庁に対する調査・研究業務に従事しています。修士課程時代の研究に起因して、主にサイバーセキュリティ政策に係る調査・研究を担当しています。調査・研究を通じて社会課題を解決することの難しさを感じつつも、顧客の期待を超えることができるよう思考することに日々面白さを感じています。当社の特徴として総合シンクタンクであることが挙げられますが、いまの自分の仕事を振り返っても、単純なサイバーセキュリティ分野に関する課題解決に留まらず、電力分野、ビル分野、宇宙分野等、様々な産業分野におけるサイバーセキュリティの課題解決に取り組んできました。大学時代、SDで複数の分野を横断的に学ぶことができたと述べましたが、ふと考えると、様々な分野に携わることの面白さを大学時代から既に感じていたのかもしれません。
そして、前述のとおり、2021年9月に理工学研究科後期博士課程に入学し、修士課程と同じく滑川先生のもとでサイバーセキュリティに関する理論研究に従事しています。恥ずかしながら、入学を決めた理由は「学術研究が好きだったから」という他愛もない理由ですが、サイバーセキュリティという社会課題に対して、仕事を通じた政策的解決だけでなく、研究を通じた理論的・技術的な解決の双方に携わることができ、仕事と研究の両方に良いシナジーを発揮していると考えています。働きながらの研究生活であるため少し多忙ではありつつも、非常に充実した日々を送っています。
振り返ると、とあるミステリ小説をきっかけに理系に目覚め、プログラミングに夢中になり、制御理論へ関心が広がり、そしてサイバーセキュリティ分野へと興味が広がり、今ではそれが生業となっています。様々な分野に触れ、徐々に興味の幅が広がったことで現在の自分が形成されていますが、これには慶應義塾での生活が大きく寄与していると確信しています。特に、慶應義塾で学び、様々な人と出会うことで、自分の視野が広がるとともに、新しい分野に挑戦することの重要性を理解することができたと考えています。今後も、学びの姿勢を継続し、また新たな興味に出会えるように日々精進していきたいと思います。
篠原 巧(しのはら たくみ)
(東京工業大学附属科学技術高等学校 出身)
2016年3月
慶應義塾大学理工学部システムデザイン工学科 卒業
2018年3月
慶應義塾大学大学院理工学研究科総合デザイン工学専攻前期博士課程 修了
2018年4月
株式会社三菱総合研究所 入社
2021年9月
慶應義塾大学大学院理工学研究科総合デザイン工学専攻後期博士課程 入学
現在に至る