私は理工学部学門3から応用化学科を専攻し、修士課程を経て、寝具メーカーの西川株式会社へ、いわゆる文系就職をしました。今回、塾員来往への執筆機会をいただけたので、自分の経験を紹介したいと思います。
大学進路を検討している学生の皆様への参考となれば嬉しいです。

慶應義塾大学理工学部の志望理由

~好きな教科を活かしつつ、将来の選択肢の幅を持たせることを重視しました~

私は4人兄弟の2番目で父は医師、母は助産師、姉は医学部に進学という状況であったため、なんとなく「自分も医学部を目指すもの」と最初は考えていました。そんな中、友人からなにげなく「土屋はどうせ医学部でしょ」と言われたことをきっかけに、自分らしい個性的な別の道を歩んでみたいという気持ちが芽生え、もともと好きだった理数系の科目を深く学んでいく理工学部への進学を決めました。中でも、慶應義塾大学を志望した理由は、理工学部から先の学科が入学時に絞られず将来の選択肢の幅が一番広いと考えたためです。

卒業して振り返ってみると

慶應では、ほぼ全学部が1~2年の間は日吉のキャンパスに集まり基礎教育を受けます。そのため、学部共通の授業や、サークル活動などを通して文系を含む理工学部以外の人とも知り合える機会が多いことも慶應の更なる魅力だと思います。社会に出ると利害関係なく、異業界の友人を新たに作ることはなかなか難しいです。しかし、大学時代に多種多様な友人と出会い、卒業後も交流を続けることが、自分の世界を広げ、背筋を伸ばす良い刺激となっています。各界で活躍する友人たちと将来的に異業種間で協業し、社会的化学反応が起こせたら面白いと最近は夢を広げています。

学生生活前半

~思い切り遊び、沢山の人と出会い、感性を育みました~

私は修士課程を含めた6年を振り返ると、前半3年間で思い切り遊び、研究室に所属してからの後半3年間で研究に没頭しました。最初の学部3年間は、今しかできない思い出を沢山作りたい!という思いから、サークル活動に参加したり、自分から率先して遊びを企画したり、笑いの絶えない日々を過ごしました。また、大学特有の長期休みには国内外を沢山旅行しました。旅行を通して、海外の景色や文化に魅了されましたが、逆に日本の良さにも気付かされ、日本がより好きになって帰国することが多かったです。この経験が今の会社を選んだ理由のひとつにもなっています。

サークルの同期との沖縄旅行。
パスポートを持ってきた友人には驚きました。

中高からの友人とのフィンランド旅行。
本場のサウナと、画像ではない自分の目で見る本物のオーロラに感動しました。

余談ですが、自身が学んだり、遊んだり活動する主なコミュニティは、サークルと中高からの友人、そして「応用化学科の友人」でした。学科を専攻してからは、学科専門の授業や、ペアやグループを組んで取り組む実験が多くなるため、学科内全体で仲が良くなります。これは理工学部ならではの素敵な特長のようです。

応用化学科での学生実験の思い出。

応用化学科の友人とのスペイン旅行。
美しい建築物に魅了されました。

卒業して振り返ってみると…

学生の本業である学業で得た知識も社会に出てから大きな財産になっています。大学で学んだあらゆる基礎知識が、社会に出てからふとしたときに役立つことが多いのです。今では考え込まれた教育カリキュラムに感謝する一方で、理系に偏った最小限の授業しか選択しなかった事に対して、もっと文系科目を含めて幅広く授業を受ければよかったと反省しています。たとえ浅い知識だったとしても、引き出しを多く持っている分だけ社会に出たときに考察力、発想力、会話力などに差が出ると痛感する今日この頃です。

学生生活後半

~研究に夢中になり、学ぶ・考える・発信する、この3つを徹底的に訓練しました~

ドイツのハイデルベルグで開催された国際学会では、
英語でのポスター発表を経験しました。

4年生からは、これまで勉強してきた中で一番面白いと感じた「生物化学」の研究室に所属し、培養細胞を用いた実験を中心とした研究に取り組みました。これまでの勉強は、「先生から教わったものを学習するもの」でしたが、研究が始まってからは「自分で情報を回収し、考え、議論するもの」に変わりました。自主性の問われる新しい勉強に夢中になり、遊び中心だった日々から一転して研究に没頭するようになりました。

日本癌学会総会に参加した時の記念写真。
研究成果を初めて壇上で発表しました。
(中央 清水先生、右側 執筆者)

また、研究室では各自がみつけてきた論文を研究室メンバーに対してプレゼンテーションする輪講も頻繁にあり、プレゼンテーションや質疑応答、また逆に発表された内容を即時に理解し質問をする訓練を受けます。この輪講や研究発表の経験を積むことで、人前で発言すること、何かを発表することに関しては精神的にタフになるだけでなく、相手を惹きつけるプレゼン力や、人の考察に疑問がないか疑う力、更には他人の意見を受けて持論を改良する柔軟性なども鍛えるのですが、これらも自分にとっては楽しい時間でした。なにより、指導教員の清水史郎先生に常日頃から「ディスカッションの場は皆フェアですので遠慮はいりません。活発に意見を出し合うことが何よりも重要です。」と、議論しやすい場を多く設けていただいたことが、自分を大きく成長させる貴重な経験になりました。たとえ相手が誰であろうと、人数が多かろうと「挙手をする勇気」も身につけることができ、「議論の場では皆対等であり、意見を出し合うことが大事」という精神を今でも自分の中で大切にしています。

大学院学位授与式後、清水先生、同期らと記念撮影。
(後列左から2人目 清水先生、前列右側 執筆者)

卒業後の進路について

~「睡眠」という新しいテーマを選び、新事業開発に挑戦中です~

身内に医療従事者が多く誇らしかったため、自分も将来は人の役に立ちたいという思いが小さい頃から強くありました。そのため、社会に出てからの進路を検討する際は「社会貢献性」を重視しました。

とはいえ、あえて医療の道に進まなかったわけですから、社会貢献の仕方も自分らしい「楽しさ」を含んだものにしたいと考え、「人々の暮らしをより良くし、幸福度を上げる」、そんな道を探そうと思いました。そこでたどり着いたのが「眠り」をテーマにする西川株式会社です。「眠り」を自分の中の新しいテーマにし、そのまま研究を続けるのではなく、研究成果を実際に商品やサービスという形にして生活者へ提供する、そんな新しい分野のなかで、大学で培った強みを活かしてみたい、という挑戦心から文系就職の道をあえて選びました。「より多くの方の睡眠の質を高めることで、より多くの方の暮らしを良くしたい」、そんな思いを抱いて入社しました。

ラスベガスで開催される家電・IT見本市「CES 2020」に出展した時の写真。睡眠解析データを生活者の暮らしに活かす、西川の新しいビジョンを発信しました。
(右側 西川㈱社長 西川八一行氏、左から2番目 執筆者)

実際に入社してから勤務した6年のうち、最初の4年は営業戦略部に所属し、市場調査やマーケティング、商品のブランディングから、広告制作やキャンペーンの企画まで、商品の販売促進に関連した業務を行っていました。直近の2年では「IoT開発部」という新設部門に所属し、就寝中の呼吸、心拍、睡眠深度などのパーソナルデータを測定するデバイスを開発するとともに、得られた情報から睡眠の質を高め、更には生活の質や健康寿命を延ばすサポートを行う新サービスの開発を目指しています。「寝具を売る会社」から「良い暮らしを提供する会社」への変革を目指す、老舗企業の新たな挑戦事業でもあるため、ときに西川社長と直接打ち合わせをする機会もあるのですが、清水先生仕込みの根性で臆することなく頑張っております。

息子と一緒に

理工学部で身につけ鍛えたあらゆる力は、理系の枠を超えた文系就職の先にも応用できているとしみじみ感じていますが、正直これと言った社外的功績はまだ残せていません。睡眠を通して、世の中をより良くする偉業を成し遂げることを目標に、これからも学びの姿勢で日々精進したいと思います。

プロフィール

土屋 みゆ (つちや みゆ、新姓、森下)
(晃華学園高等学校 出身)

2014年3月
慶應義塾大学理工学部応用化学科 卒業

2016年3月
慶應義塾大学大学院理工学研究科基礎理工学専攻修士課程 修了

2016年4月
西川産業株式会社 入社

2019年2月
西川株式会社へ3社経営統合により社名変更

現在に至る

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