この度は塾員来往に寄稿する機会をいただきありがとうございます。

私は塾員となってから2か月足らずとまだ日が浅いですが、最高に充実していた慶應義塾での学生生活を思い出しながら本稿を書きました。

幼い頃から、宇宙や海底など、人類がほとんど到達したことがない場所に興味がありました。このような人類未到の地に自分自身が行きたいという思いが強かったのですが、当然ながら実際に人間が行くことには非常に高いハードルがあります。現実的なアプローチは、人が行く前にロボットが行くこと。自分が行く前に、自分で作ったロボットが先に行くこと。そう考え、自然とロボットに興味を持つようになりました。このような流れから、必然的に大学受験の際も機械工学科があるところを選ぶことになりました。そうして慶應義塾大学理工学部の学門4に入学し、2年生の学科選択の際には迷うことなく機械工学科に進みました。

石上研究室集合写真 大学院学位授与式の後
(前列中央右側 石上先生、同中央左側 執筆者)

4年生での研究室選択では、宇宙探査ロボットをはじめとするフィールドロボットの研究をされている石上玄也先生の研究室を選びました。石上研究室では、学部4年から修士2年まで一貫して月面用の自動車の運動解析に取り組みました。地球用の自動車の研究は世の中にたくさんありますが、月面用の自動車の研究はまだほとんどなく、自分が新しい発見をしていることが直接的に感じられて、とても楽しく研究を進めることができました。

サイバスロン集合写真

また、研究とは別で、「サイバスロン」という障がい者と先端技術の開発者が協力して日常生活に必要な動作に挑む国際競技大会にもチームメンバーとして参加しました。この経験を通して、チームで開発することの楽しさと難しさ、そして開発したものを世に出し、成果を残すことの達成感を知りました。

指導教員の石上先生からは、研究についてはもちろんのこと、研究以外でも技術者としての心意気、リーダーとしての在り方など、大変多くのことを学びました。研究室の同期はとても愉快で、楽しい時間を過ごすことができ、先輩だけでなく後輩にもたくさんサポートしていただきました。尊敬できる先生、そして学生メンバーとともに学生生活を過ごせたことは私の宝物です。

留学先のカリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)で
21歳の誕生日を祝ってもらう

UCLA留学中にNASAのJPLを訪問

もう少し学部時代を遡ると、学業はもちろん、企業でインターンをしたり、留学したり、バックパッカースタイルで世界中を飛び回ったりしていました。英語は得意だと思っていましたが、学術的な英語はまだまだ未熟で、留学先ではディスカッションでもレポートでもボコボコにされました(でもとても楽しかったです)。

バックパッカーとしてアジア・中東・ヨーロッパ・北南米と世界各地を縦横無尽に駆け回ったことは、私の異文化理解力とバイタリティを育ててくれました。まさに学生の特権をフル活用。これらの経験が今の私の血肉となっていることは間違いありません。

楽しかったバックパッカー時代  アメリカのホワイトサンズ国定公園にて
(この時、理工学部の友人含めた7人でキャンピングカーをレンタルしてアメリカ横断していました。)

後に私は学生起業をすることになりますが、起業に興味を持ったきっかけはインターン時代の同期が起業していたことです。それまでは学生起業という概念は知っていたものの、現実的な選択肢ではないと思い込んでいました。しかし、不思議なことに、身近な同世代が起業していると、自分にもできるのではないかと思い始めるものです。その後は、ビジネスコンテストに出たり、他大学の産学連携講座に参加したり、起業アイデアを探す日々を送りました。でも、やっぱり現実的に起業しようと思うまでには至りませんでした。

2020年に入るとコロナで世界が一変。学生生活も大きく変わりました。外に出る機会が減り、必然的に自分自身と向き合う時間が増えました。修士1年で進路を考える時期だったこともあり、自分が本当にやりたいことは何なのか、改めて考えた時に、心に引っかかっていた「起業」という選択肢が再度浮かび上がってきました。私、やっぱり本当は起業したいんじゃない?

学部時代に考えた事業案をもう一度引っ張り出しました。これが今の事業の原案となる、海洋系の事業のアイデアです。このアイデアをどうやって前に進めていくべきか、全然わかりませんでしたが、なんだか諦めてはいけない気がしました。このアイデアを基に、大学院ではアントレプレナー育成講座(※)を受けたり、国・地方自治体や他大学のプログラムに参加したりしました。このような学びや活動を通して、徐々にアイデアが具体化し、実際に起業してこの事業一本でやっていく覚悟ができるようになりました。

(※アントレプレナー育成講座:本塾では大学院生に対して「起業家マインド」を醸成し、自身の研究成果をはじめとする先端的技術をシーズとして将来的に事業創出できる人材の育成に寄与することを目的として講座を開講している。)

MizLinxでお世話になっている長崎県の養殖業者の方々と

現在は自身が修士2年の時に立ち上げた株式会社MizLinx(ミズリンクス)で、海洋観測システムを開発しています。今は主に養殖業の方々にご活用いただいており、養殖業者の皆さまの業務を効率化し、より良い魚を作るためのサポートができるように、日々開発を進めています。まだ創業してから1年も経っていない会社で、未熟な点も多々ありますが、どうすれば目の前の養殖業者さんに喜んでいただけるか、全力で考え続けている毎日です。

将来的には、この海洋観測システムの技術をもっと発展させて、海底探査まで手がけることができたら面白いなと構想しています。さらにその先には、宇宙空間で海があるのではないかと言われている星の探査にかかわることができたらと思い描いています。幼い頃に憧れた、誰も行ったことがない世界に、いつか自分で作った機械が、そして自分自身が行くことを夢見て。

起業はたしかに大変なこともありますが、自分が大学で学んだことが直接的に社会実装できて、目の前のユーザーさんに喜んでいただくことができます。そして、自分が思い描く世界を、現実に実装することができます。こんな楽しいことは他にありません。もっと良いものを作って、もっとたくさんの人に届けて、もっとたくさんの人に喜んでもらう。技術で社会を前進させる。これが私の生きる道なのだと感じています。

大学で学んでいる期間は、自分が好きなことに徹底的に打ち込めるチャンスです。そして慶應義塾は、学生の挑戦を応援し、情熱に応えてくれる大学です。このような恵まれた環境を与えてくれた慶應義塾と、支えてくださった多くの方々への感謝を胸に、今後も社会の発展へ貢献できる人間になれるように努力していきます。

MizLinx集合写真(今はもっと人数が増えました)

プロフィール

野城 菜帆(やしろ なほ)
(千葉県立千葉高等学校 出身)

2020年3月
慶應義塾大学理工学部機械工学科 卒業

2021年8月
株式会社MizLinx代表取締役 就任(学生起業)

2022年3月
慶應義塾大学大学院理工学研究科総合デザイン工学専攻前期博士課程 修了

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