この度は、塾員来往に寄稿する機会をいただき、どうもありがとうございます。

私はこれまで2回転職していますが、一貫して企業におけるデータ解析やその教育に関する業務に携わっています。大学入学時点では、このような仕事をするとは全くイメージしていませんでしたが、振り返ってみると大学・大学院での学びや経験が、いかに今の自分の糧になっているかを再認識しました。

理工学部を志望したきっかけは、両親の影響が大きかったと思います。内部進学のため志望学部を選ぶ必要があったのですが、両親が理系だったこともあり「理系でよかった」という話が会話の端々にあったので、「理工学部へ行こうかな」という思いが漠然とありました。ただ、具体的に何をやりたいかは思いついていなかったので、理工学部出身の先生方にいろいろと話を伺っていたところ、管理工学科に興味を持ちました。管理工学科は、興味のある数学的な要素もありつつ、身の回りの課題に直結したテーマを扱っていると知り、学門2(現在の学門C)に進んで管理工学科を目指すことにしました。

しかし、その考えは学部1年時の学科分け説明会で大きく変わりました。それは、数理科学科の先生から「エンジニアリングは結果が実務に有用かどうか、サイエンスはなぜを考える」という話を伺い、自分にはサイエンスのほうが合っているのではないかと感じたためです。そして、学部1年生の必修の数学でさえついていけない自分がやっていけるのか、数学をやっても社会に出て役に立たないのではないか、就職は大丈夫かといった様々な不安はありつつも、先生方の話を伺っているうちにそれらの不安を解消でき、数理科学科へ進むことを決めました。

学部2年から数理科学科の専門教育科目が始まると、予想以上の数学の幅広さ、奥深さを実感しました。当初は科目名を見ても何のことかさっぱり分からず、授業もなかなか頭に入ってこない状況でしたが、学生が少ないわりに先生が多いこともあってか、先生もTAの方も同期も、私のレベルに合わせて丁寧に教えてくださったので、何とか単位を取得して追いついていくことができました。また、庭球部に所属していたため、実験がなく他の学科に比べて時間の融通がききやすいことも有難かったです。

矢上キャンパスで開催されたワークショップでの発表

学部4年から博士課程まではデータサイエンスを専門とする柴田研究室に所属し、学会発表、論文執筆、インターンシップなど研究を通して様々な経験をすることができました。

柴田研究室ではあらゆる分野のデータ解析がされていましたが、私はちょうど研究室に入る時期にCSIROというオーストラリアの研究所との共同研究で行われていた海洋生物のデータ解析に取り組ませてもらいました。

インターンシップで滞在したCSIROの研究所

具体的には、オーストラリアで行われたトロール漁による生態系への影響調査で得られたデータに対し、海底生物の重量に着目して、ガンマ分布を用いることでトロール漁による影響を検出しました。データ解析においては、調査データに個体ごとの重量データはなく、個体数と合計重量のデータしかなかったため、モデル化やあてはめの評価に工夫が必要でした。また結果を論文としてまとめるために、「なぜガンマ分布か」「従来の手法・結果とどう違うか」といった点を整理したり、想定される意見に対して説明材料を用意したりと、様々な難しさに直面しましたが、多くの方からのサポートによって論文をジャーナルに掲載することができました。最終的には博士課程まで進み、データやその背景を理解し、解析のために必要な統計モデルを検討するという、データ主導のアプローチでデータ解析を進めるとともに、関連する数理統計の理論の研究にも取り組みました。

博士課程単位取得退学後は、柴田先生の立ち上げたベンチャー企業にてデータ解析のコンサルティング業務に携わりつつ研究を続け、学位取得後に監査法人トーマツへ転職、現在は日産自動車でR&Dにおけるデータサイエンス活用に関する業務に従事しています。思い返すと、大学での学び・経験は、色々な形で糧となっていると感じています。たとえば数学に関しては、普段の業務で数式が出てくることはあまりありませんが、少し込み入った解析が必要になると、きちんと理解するために数学が必要となってくることがあります。そのようなとき、大学で学んだ知識が直接使えることもありますが、それ以上に「あれだけ数学を学んだから理解できるはず」と諦めずに取り組めることが、数理科学科で学んだ強みではないかと感じています。また大学の先生・先輩・同期・後輩は、仕事・プライベート共に今でも支えてもらっている大切なつながりです。振り返ってみて、このような大学生活を送れたことを有難いと思うとともに、これからも大学の時と同じように、日産自動車で携わることのできる幅広い業務において、学び、チャレンジしていこうと強く思いました。

今でもよく集まる庭球部の同期との楽しい時間

プロフィール

仲 真弓(なか まゆみ)
(慶應義塾湘南藤沢高等部 出身)

2009年3月
慶應義塾大学理工学部数理科学科 卒業

2010年9月
慶應義塾大学大学院理工学研究科基礎理工学専攻前期博士課程 修了

2013年9月
慶應義塾大学大学院理工学研究科基礎理工学専攻後期博士課程 所定単位取得退学

2013年10月
株式会社データサイエンスコンソーシアム 入社

2016年7月
慶應義塾大学大学院理工学研究科基礎理工学専攻 博士(理学)学位取得

2017年2月
有限責任監査法人トーマツ 入社

2020年5月
日産自動車株式会社 入社

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