私は、CAE(コンピュータを使った設計支援技術)ベンダーのDeepFlow株式会社を2018年7月に創業し、代表取締役社長を務めています。「創造性を飛躍させる」という当社のミッションは、私が大学生のときに掲げた「数学とコンピュータを使って、研究開発を促進するための基盤技術を作る」という人生の目標を反映させたものです。数学には抽象化の力があり、コンピュータには具象化の力があります。抽象的な概念(数学)をプログラムで階層的に組み合わせ、コンピュータ上に現象を具体的に再現(具象化)することで、複雑な現象を解明し、科学技術の進歩に貢献したいと思っています。

学生時代

物理シミュレーターの開発には、モノや構造を支配する原理を見いだすための数学、現象をモデル化するための物理、コンピュータで処理するための情報科学、そして、実際の製品づくりのための工学などの幅広い分野の知識が必要です。物理情報工学科は、これらがバランスよく学べる場所です。恩師の藤谷洋平先生には、学部から博士取得までの間、懇切丁寧に理論物理を教えていただきました。物理法則の中には「運動が描く経路は、ある関数の極値を与える」と表せるものがあり、これを変分原理と言います。例えば、二点間を結ぶ光の経路は、その所要時間を最小にするものであると言えます。私の研究課題は、流体の運動を変分原理で定式化することでした。流体力学以外にも、微分幾何学、圏論、量子コンピュータなどにも興味があり、セミナーや研究会などに積極的に参加していました。サークルは慶應義塾電子計算機研究会 (現KCS)に所属していました。プログラミングに長けた人が多かったです。慶應義塾大学は、今も昔も、仲間同士で楽しみながら切磋琢磨できる場所です。

2004年11月9日(火) 藤谷研究室

のびのびと学問をやらせていただきました。私は右上角

博士号を取得した後、国内のCAEベンダーで高速並列計算アルゴリズムの開発をしました。その後、アメリカのペンシルベニア州立大学数学科で相転移モデル、九州大学カーボンニュートラル・エネルギー国際研究所で超臨界二酸化炭素の研究をしました。そして、再びシミュレーターを開発する機会が訪れます。九州大学トライボロジー研究室で、2015年8月から2019年3月までの3年半の間、特任助教として国家プロジェクトの革新的燃焼技術|戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)に携わり、計算アルゴリズムの考案と大規模流体構造連成解析のシミュレーターの開発をしました。様々な分野の人と一緒に働くことで、人格やコミュニケーションの大切さを学びました。人として一番成長できた時期でした。

2016年3月25日 (金) 九州大学トライボロジー研究室

杉村丈一先生(中央左)と八木和行先生(中央右)には大変お世話になりました。私は右上4人目

起業へ

大学の研究を商業化するには、研究成果を「顧客の課題を解決する製品」に変えていく、プロダクトマーケットフィット(PMF)が必要です。これを最も適切に素早く行うには、専門知識のある研究者が自ら事業をするしかありません。先の国家プロジェクトでは事業創出が推奨されおり、私はプロジェクト期間内の2018年7月5日にCAEベンダーのDeepFlow株式会社を創業しました。CAEシミュレーションの歴史は古く、最初の商用CAEソフトウェアは1970年前後に出ています。それから50年経ち、クラウドを使って複数のコンピュータを同時に実行するなど、コンピュータの使用環境は大きく変化しました。しかし、クラウドでの並列計算には技術課題がまだまだ多いです。これらを解決し、高度なCAEを手軽にすることで、世界中の設計者の創造性を飛躍させるのが、私の夢です。

2021年6月20日(日) 全日本スーパーフォーミュラ選手権第4戦 スポーツランドSUGO インターナショナル レーシングコース 

DeepFlow社が⽀援を開始したTEAM MUGEN 16号車

躬行実践、行為の人

慶應義塾の理念に躬行実践がありますが、私は常に行為の人でありたいと思っています。行為には失敗も伴いますが、やり続けているうちに、難所の切り抜けかたが上手になり、観察・分析・推理が正確周到になります。人との関係を大切にし、愚直に為すべきことを為していけば、多くの人からの協力が得られ、目的が達成できるのではと思います。

プロフィール

深川 宏樹 (ふかがわ ひろき)
(栃木県立宇都宮高校 出身)

2005年3月
慶應義塾大学理工学部物理情報工学科 卒業

2008年3月
慶應義塾大学大学院理工学研究科基礎理工学専攻 修士課程 修了

2012年3月
慶應義塾大学大学院理工学研究科基礎理工学専攻 博士課程 所定単位取得退学

2012年4月
株式会社アライドエンジニアリング 入社

2012年11月
慶應義塾大学大学院理工学研究科基礎理工学専攻 博士(理学) 取得

2013年11月
ペンシルベニア州立大学数学科 研究員

2014年8月
九州大学カーボンニュートラル・エネルギー国際研究所(I2CNER) 研究員

2015年8月
九州大学大学院工学研究院機械工学部門トライボロジー研究室 特任助教

2018年7月
DeepFlow株式会社 代表取締役社長

現在に至る

受賞歴
2021年4月
慶應義塾大学理工学部 矢上賞(起業支援) 受賞

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