私はアメリカ出身ですが、曲がりくねった道を長くたどって、コンピューターサイエンスを勉強してから、日本で生命情報の分野に進み、博士(理学)の学位を取得しました。小さい時からコンピューターでBASICやHypercardなどで自分なりの物語やゲームを書いたりしてから、昔の2400bpsのモデムでMUDの開発するために初めてC言語を勉強しました。言語の勉強も好きだったので、まずフランス語を勉強してから、より英語と離れた言語を勉強したいと思って、高校生の時にロシア語も勉強しました。そして大学に入ってから日本語の勉強を始めました。慶應義塾大学への交換留学のコースに参加した時に、たまたま榊原先生のバイオインフォマティクスの授業をとってみて、miRNAを確率文脈自由文法からモデル化する研究を聞かせて頂きました。生物学と情報科学のかなり面白い組み合わせだと思い、修士課程のコースに応募してみました。
私は留学生向けのコースではなくて、一般の学生向けの修士課程のコースに入ったので、必修科目や自由科目のほとんどが日本語になっていたため、日本語でまだ勉強したことがない内容を追いつくのに必死な時期がありました。困っていると同じ研究室に入っている優しい友人たちが教えてくれて、何度も助かりました。「ゼミ」という概念も僕にとっては新しいことでした。アメリカで学部生として研究室に参加していた時には、皆が最近の研究の進捗状況を話し合ったりする時間がありましたが、毎週新しい論文をどんどん読んで、研究室の皆で分解することがなかったので、良い経験でした。当時私は研究者の進路ばかりを考えていましたが、そのように研究の計画や成果を細かく確認し、他の研究者が見逃したところを探り探りディスカッションしていくのが意外と企業でも重要なスキルを磨いたと振り返ってみたら分かりました。
自分の研究を一つのテーマにすると「ゲノム配列の比較」でしたが、結構ばらばらの違う分野に関連付いていたので、納豆のゲノム解読のプロジェクト、鶏のセントロメアの動き、マーモセットの免疫の制御の研究にも参加することができて、配列解析は応用範囲がかなり広い話題だと改めて感じました!
色々な違うプロジェクトに参加ができて、とても楽しい時期でした。その分博士論文に使える研究にまとめるのが大変だったと思いますが、貴重な経験でした!
当時住んでいた留学生の寮の皆さんです。私はその時に「留学生」ではなくて、その寮のRA(レジデント・アシスタント)として皆さんの手伝いをしていましたが、良い友達がたくさん出来て良い経験でした!
手塚千鶴子先生が担当していた【三田の家】の晩餐です。毎週色々な違うテーマの社会学的な発表やディスカッションなどをして、皆さんと一緒にご飯を作って、こちらにも良い友達たくさんできました。
4年目ぐらいにグーグルから声をかけられて、グーグルでインターンシップをしてみました。自分がまさかプロフェッショナル・プログラマーになるとは思っていませんでしたが、実際にインターンシップをやってみたら、仕事の内容の根本的なところは生命情報の研究とそれほど大きな違いがないかもしれないと感じました(ただし目的と資金の回し方がとてもとても違いますけど)。生命情報は生物に関する取り組みをしていますが、私の意見ではグーグルはインターネットでつないだ社会のあり得る全ての謎を研究話題にしていると思います。どちらもとてつもなくて複雑なシステムの中身を実験で調べながら、今までできなかったことをより少しでも出来るようにするために科学的方法をひたすら繰り返すことだと分かりました。今もグーグルで自然言語処理の研究のチームに入っていて、まだ配列解析を進めています。
慶應義塾での経験は良いことがたくさんありました。そのなかでも人生の方向性に影響したところの一番大きなことは人との絆を築くことでした。おかげさまで、お互いに支えながら一緒に進めば世界を変えることができると信じることが出来るようになりました。
ゲノム広場という特集イベントで、八谷剛史さんと一緒に開発したMurasakiという比較ゲノムの手法やゲノム解析の概念を(研究者ではなくて)一般人に説明しています。
Kris Popendorf(クリス ポペンドフ)
(ローガンハイスクール(アメリカ) 出身)
2005年8月
カーネギーメロン大学コンピューターサイエンス学部 卒業
2007年3月
慶應義塾大学大学院理工学研究科基礎理工学専攻前期博士課程 修了
2013年3月
慶應義塾大学大学院理工学研究科基礎理工学専攻後期博士課程 修了
2013年4月
グーグル合同会社 (Google Japan G.K.) 入社
現在に至る