“Buon giorno!” こんなシンプルな挨拶も何一つ知らない状態でイタリア行きが決まり、現在はボローニャ大学で研究員として集積回路等のハードウェアの研究をしています。光栄なことに塾員往来の執筆依頼を頂きましたので、後輩の学生たちにとって自分の経験が何かしら面白いものであればいいなと思いつつ、少しつらつらと書いてみたいと思います。

Hello Information science and Keio Univ.

もともとは他大学の学部(情報工学科)に入学したのですが、そこを選んだ理由は「ま、これからの時代ITっしょ」みたいな感じでした。始まりは超適当だったと自分でも思うのですが、そんな中、とあるハードウェア関連(コンピュータアーキテクチャ)の授業が転機になりました。「パソコン(当時の語彙力)ってこんな仕組みで動くのか!」と感動したのを思い出します。例えば皆さんの電子機器に入っている難しそうなプロセッサだって、もっともシンプルなアイディアを抽出すれば学部生にだって理解が出来るし興味深い。するとその分野をどんどん勉強したいと考えるようになり、日本で屈指の研究室で勉強したいと欲が出て、色んな研究室を調べて最終的に修士課程で情報工学科の天野研究室への出願に至りました。ハードウェア研究で世界と戦えて、実際に自分たちでチップ設計/測定を行いかつ実家から近いというのが決め手でした。

いざ念願の天野研究室に配属されてみると色々な衝撃を受けました。とりわけ、学部ではハードウェアの中でも少し集積回路っぽい所をやっていたのもあり、いわゆるピュアなコンピュータアーキテクチャをしっかりやってきた学生達の知識量に焦ったことを覚えています。一方で、自分が培ってきた知識と天野研で得られる知識の両方を使える研究が出来たり、修士1年生の頃から国際学会で発表させていただいたり、自分のアイディアを実際の半導体チップに落とし込んで実装させてもらえたり素晴らしい経験をすることができました。加えて、留学生のラボメンバーも多く、いろんな国の人と友人になることができたのも良い思い出です。もともと英語は超が付くほど苦手で嫌いだったのですが、多少マシになったのも彼らとの雑談が大きく貢献しています。そんな恵まれた環境に居られたこともあり、最終的には博士課程にも進学して5年間慶應義塾にお世話になりました。

国内研究会での発表

Ciao Italia!

博士修了後には縁あってボローニャ大学のとあるハードウェア研究グループに雇っていただくことになりイタリアでの生活がスタートしました。こちらではPULPと呼ばれるハードウェアのプロジェクトに参加して日々設計やら論文書いたりやらをしています。これはハードウェアシステムの設計をオープンソース化したプロジェクトで、設計されたものは実際の製品にも応用されたりしています。

さて、イタリアに来る前は某タレントさんの「女性をみかけたらナンパをしないと失礼」なんて発言などを思い浮かべて身構えていたのですが、実際のところ勿論そんなこともなく平和に過ごせています。事前のイメージと異なる点は結構多くて、少なくともボローニャでは公共交通機関の時間は日本ほどじゃないにせよ正確だし、明るい人もいればシャイな人もいる。カルボナーラにクリームを入れる事を許容する人も稀にいる(大半の反応が”Nooooo!!!!”ですが)。それに、あんまり働かない?イメージのあるイタリア人達ですが、少なくとも私の周りは猛烈に働き、休むときはしっかり休むといった感じ。百聞は一見に如かずとはよく言ったもので、やはり自分で実際に見てみなければわからないものだなぁと感じます。一方で、いくつかのネットに転がっている悪評も一致することもあって、滞在許可証の発行に半年かかるとか、警察の目と鼻の先で堂々と怪しげ(違法?)な露天が開かれてたり、スーパーのおつりが高い確率で間違えてるなどわりと適当な(大らかな?)面も顔をのぞかせます。

ボローニャの街並み

ボローニャ大学での設計モジュールが載ったチップ

現在イタリアではCOVID-19の第2波に見舞われ、年末年始にもかかわらず軽いロックダウン政策がなされていて、みんな大人しく過ごしています。ただ、年始の花火は盛大でベランダから見ることができて、この悲劇的な状況の中でもささやかながらに人生を楽しむことを忘れないメンタリティが根付いている気がします。こういう点からも、海外生活では自分と異なる文化に触れられる点が非常に面白く、日本で28年過ごしてきた自分には刺激的に感じられます。

ロックダウン中の大晦日にシェアアパート内の友人とディナー (ボローニャにて)

おわりに

若造(と自分では思っている)なりに色々と振り返ってみて、後輩の学生および受験を控えた学生たちに何か伝えたいことがあるとすれば、「その時その時でやりたいことを追求し続けているとなんとなくその通りに人生動いていくような気がする」でしょうか。私も始まりはハードウェアの授業にすぎませんでしたが、分厚い教科書をなんとなく読み始めて、慶應義塾に移って博士までとって、今の仕事をしています。自分自身が興味のある分野を追求するのに早い遅いもないですから、今そういったものがあれば、是非追求してみてほしいと思います。

プロフィール

奥原 颯(おくはら はやて)
(都立豊多摩高等学校 出身)

2014年3月
中央大学理工学部情報工学科 卒業

2016年3月
慶應義塾大学大学院理工学研究科開放環境科学専攻前期博士課程 修了

2018年9月
慶應義塾大学大学院理工学研究科開放環境科学専攻後期博士課程 修了

2019年4月
Research Fellow with the Department of Electrical, Electronic and Information Engineering “Guglielmo Marconi,” University of Bologna

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