この度、塾員来往への執筆の機会を頂きましたことを光栄に存じます。

私は慶應義塾で6年間数学を学びました。 現在、社会人5年目になり、IT系企業で自然言語処理に関わる業務に携わっています。

理工学部の選択

最初に理系に進むことを選択したのは、高校進学の際です。文系クラスでは数学の時間が少ないことが残念で、理系クラスに進みました。数学は好きでしたが、理系の科目のみが好きだったわけではなく、もともとの読書好きが高じて、日本語の単語や漢字に興味をもち辞書を読んでいました。古典も好きで、源氏物語の作者についての小さな新聞記事を見つけて興味を惹かれて、国語の先生に質問に行ったこともあります。

大学進学にあたっては、就職のことは考えておらず、勉強をしたいと思っていました。その中で、数学を選んだことの大きな理由は、数学教員であった父の影響と、中学時代から大学数学に触れる機会をいただいていたことだと思います。

父には、数学の宿題の分からないところだけでなく、模範解答と異なる解法で正解している際に考え方が問題ないかを見てもらうなど、問題を解く楽しさを教えてもらいました。

また中学時代の数学の先生には、福岡や東京の大学で数学を学ぶ大学生が主催する高校生向けの数学セミナーを紹介していただきました。ホワイトボードに黙々と書かれる数式はよく分からずとも、ご本人の興味の熱量と「分からない世界」がとても魅力的でした。

大学・大学院時代

理工学部では2年進級時に所属学科を正式に決定します。

数理科学科に進級するまで、教科書以外で積極的に数学を学んだことはなかったので、進級後の数理科学科数学専攻のみの授業の際に、周囲の同級生たちの会話がとても高度なものに聞こえて、少し怖く、不安になったことも覚えています。もちろん、講義では教科書以上の知識が前提であることはありませんし、怖そうな会話をしていた同級生とも友人になり、講義の後は教室の前方で黒板を使いながら分からないところを教えてもらえるようになりました。

高校時代とは異なり、講義の中で得られた知識を理解・納得するために関連書籍なども読むようになりました。それでも全てを理解することは難しく、知識が増える何倍ものスピードでわからないことも増えていき大変さもありましたが、それもまた楽しかったものです。

そして、数学を学ぶうちに言語により興味を持つようになりました。数学は、表記の定義を行い、その定義に従って数式を書き定理や証明を組み立てていきます。言語も「モノ」と「単語」の対応を定義し、単語を文法に従って並べることで、意味のある文章を組み立てます。数学とことばの共通点に興味を惹かれて、普段何気なく使っている言語について学問として学びたいと一般教養はもっぱら言語学に関するものでした。

また、就職の際の選択肢の一つとして教職課程も履修しました。「伝え方」のさまざまな手段を学ぶことができ、その知識は今の業務にも役立っています。

余談ですが、理工学部生が通うキャンパスは基本的には日吉か矢上のみです。せっかく慶應義塾大学に入学したのだから、と学部4年次には1週間に一度、三田キャンパスに通う教職科目だけの日を作っていました。

研究室に所属してから週に一回のゼミの時間に先輩や後輩の同席のもと読んだ本についての発表をしていました。研究室に同級生はおらず、時折同じ分野別の研究室の先生方に声をかけていただき、ゼミ合宿や研究集会に参加する機会をいただきました。ゼミの仕方や発表の進め方なども研究室によって全く異なり、戸惑いつつも、どう伝えると伝わりやすいのか意識するようになりました。

数学の合間に友人たちと参加したグルメランにて

(左から2番目)

数学の合間に友人たちと参加したグルメランにて(右上)

就職と現在の仕事

現在の仕事についても少しだけご紹介します。主な業務は、人の話ことばや手で書かれた文章などの「自然言語」を対象としたデータ分析を行うためのソフトウェアの開発や分析のコンサルティングです。

自然言語処理は、自然言語をコンピュータで扱えるようにするための基礎技術です。例えば、文章にどのような単語があるかを把握することは、人にとっては簡単ですが、コンピュータが抽出できるようにするためには様々な技術が必要です。

近年、ディープラーニング技術の発展に伴い、自然言語を扱うための技術も日々進歩しています。数学をバックグラウンドにしたことばを扱う技術でとても興味深い分野です。

社会人になって3年目ごろまでは、自分が関わる業務に慣れることで精いっぱいでしたが、4年目になると少し余裕ができ、新しい技術や関連分野の勉強も始められるようになりました。その中で、中学生のころに読んだ新聞の小さな記事の元になる論文に出会いました。どこでご縁があるのかわからないですね。

振り返ってみると、自分が好きなことを選んで来たものだなと思います。

その折々で、同期や先生方に助けていただきました。また大学で学ぶという環境を支えてくれた両親にもとても感謝しています。

大学院を修了した際の卒業旅行にて

プロフィール

中島 ミホ(なかしま みほ)
(長崎日本大学高等学校 出身)

2014年3月
慶應義塾大学理工学部数理科学科 卒業

2016年3月
慶應義塾大学大学院理工学研究科基礎理工学専攻前期博士課程 修了

2016年4月
株式会社NTTデータ数理システム 入社

現在に至る

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