この度は、塾員来往に寄稿する機会を頂き、誠にありがとうございます。

私は2002年に物理情報工学科を卒業した後、約10年間の会社員生活を経て、2012年に企業向けの研修やコーチングを事業とするCheer Coach代表として独立しました。 理工学部で学んだ学問とは全く異なる道を選択しておりますが、今に通ずる大切な信念・教訓は学生時代の経験から得ました。

私が理工学部への進学を志した最初のきっかけは、小学生の時に出会った「アインシュタインロマン」というテレビ番組です。光の速度を超えることはできるのか、超えるとどうなるのか? そんな物理の世界、宇宙・光・素粒子という目に見えないものに漠然とした憧れを抱いた小学生時代でした。中学・高校時代を慶應義塾湘南藤沢中・高等部で過ごす中、高校3年生の時に、日本の学生10名、海外からの学生10名が集まって、高エネルギ―加速器研究機構で学ぶというプログラムに参加し、英語を使って交流・プレゼンする楽しさに目覚めました。そんな経験から、いつか英語を使いこなし、物理の世界を魅力的にプレゼンテーションする自分を夢見て理工学部への進学を決意しました。

しかし大学1年生の時、その選択が甘かったことに気付くのです。私にとって人生初めての挫折経験。物理の単位を4つ落とし、留年ギリギリ。高校までの私はまじめな努力家タイプで、熱心に勉強(今振り返ると「勉強」ではなく「暗記」)をすることで「そこそこの成績」をキープする優等生タイプでした(自分で言うのは憚られますが…)。単位を4つ落とした私はパニック状態。この先 暗記だけではやっていけない、本質を理解し、自らの頭で考えなければ、この道には進めないという事実にやっと気付いたのです。同時に、内部進学のため受験をせずに進学した私は、当時の学友の頭の回転の速さ、本質を理解し、それを別事象に応用するセンスを目の当たりにし、「この人たちに頼って、大学生活を乗り切ろう!」と誓ったのです。あっさり夢見た世界を諦めた瞬間です(笑)。この時にとてもお世話になったのが、本寄稿のお話をくださった慶應義塾大学 理工学部 物理情報工学科 清水智子准教授です。彼女のおかげで2年生以降は単位を落とすことなく、学生生活を全うできました。

大学4年生の研究室は小池康博教授のもとで、プラスティック光ファイバーの研究をさせていただきました。3年生の時に受けた小池先生の授業がとても印象的で、この領域がいかに面白く、将来に向けてどう世の中に役立つのか、熱のこもった分かりやすいお話が心に刺さったことが志望した背景です。研究室時代もやさしい先輩方・同期に支えられ、無事に卒業の日を迎えることができました。

大学時代(小池先生と研究室の仲間と)

振り返ると挫折経験に始まった私の大学生活は周囲の皆さんのお力あっての4年間。一人で頑張ることだけが是ではない、他人に頼るのも大切、という価値観の変化につながり、ここで身に付けた「上手に力を借りるスキル」はビジネスの世界で生きる上で一生物の宝です。

さて、学部選択時の考えが甘かったという反省もあり、就職活動ではとことん自分に向き合い、「私の強みは何で、それをどう活かし、何がしたいのか」を考えました。その中で得た発見は「一見複雑なこと・難しいことを、分かりやすく魅力的に伝えることで、相手の心を動かしたい」ということです。アインシュタインロマンに魅了されたのも、小池康博教授の授業に心動かされたのも「難しい世界のことを魅力的にわかりやすく伝えてくれた」からだと。

今でもこの発見は私が仕事をする上での軸になっています。

卒業後に入社したのは外資系ソフトウェア企業である日本オラクル。業務システムの提案・コンサルティング・業務変革プロジェクトの立ち上げを担当後、経営企画室にて社長補佐、全社プロジェクト(働き方変革、従業員満足度向上)のリーダーを経験。システムや仕組みの導入を成功させる秘訣は「人の考えと行動が変わること」と痛感し、人材育成業界への転身を決意しました。その後、人材育成コンサルティング会社であるアルー株式会社での勤務を経て、2012年7月に独立し、Cheer Coachを立ち上げました。私の名前である「稚亜子」と「働く人がもっと生き生き成果が出せるように応援したい」という思いを込めた会社名です。

現在の仕事は、企業で働く社会人向けに、論理的思考・問題解決のスキル・タイムマネジメントなどのコツを分かりやすく伝え、仕事でもっと成果を出せるようにお手伝いすること。と同時に、人生も仕事も山あり谷あり。挫折経験はそこから何を学び、自分をどう変えるかの絶好の機会である、そんな信念を伝える場としてキャリア研修も数多く担当しています。私の生きがいです。

実は現在、自分の事業とは別に、とある中小企業で役員としてマネジメントを経験する機会に恵まれています。が、苦労と失敗続きの毎日です。うまくいかない時こそ「自分はここから何を学び、自分の成長にどうつなげるのか」という大学時代に得た教訓に立ち戻っています。

仕事風景

プロフィール

齋藤 稚亜子(さいとう ちあこ)
(慶應義塾湘南藤沢高等部 出身)

2002年3月
慶應義塾大学理工学部物理情報工学科 卒業

2002年4月
日本オラクル株式会社 入社

2011年7月
アルー株式会社 入社

2012年7月
株式会社Cheer Coach 代表

2009年11月~2016年4月(兼業)
ベリーダンサー・インストラクター

2016年11月~
中小企業にて役員

現在に至る

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