現在、私は奈良先端科学技術大学院大学という、ながーーーい名前のところで教員をしています(長いので以下NAISTとします)。慶應義塾を外から見るようになってからその存在感をますます感じるようになりましたが、大学入学から20年目の節目に、こうして塾員来往にて自身を振り返る機会をいただき関係する諸先生方に感謝申し上げます。理工学部を志望される将来の塾生の皆さんの参考になれば幸いです。

と言っておきながら受験される方には参考にならず申し訳ないのですが、私は慶應義塾高校(大学日吉キャンパスの隣)からの内部進学で大学に来ており、正直隣の敷地に移ったくらいであまり大学生活をスタートした実感はなかったです。最初のころはシステムデザイン工学科など学門4, 5を中心に考えていたのですが、高校の化学の授業で学んだナノスケールの分子の造形、ならびに創薬や高分子材料分子の設計・合成が面白く思い(+どうも物理は自分にはダメっぽいことを悟った)、化学で行こうと決めて学門3(現在の学門E)に進学しました。今考えると高校当時の化学の先生も慶應義塾大学理工学部ご出身であったことも影響しているような気がして、内部進学とはいえ慶大理工つながりでここまできたのだなあと、今になって感じます。最終的にかなり幅広い分野をカバーしていた応用化学科に決めました。

理工学部は大学院まで進学する人が多いですが、学部の段階で企業見学ができる機会も多く用意されています。当時も学部2年と3年の間の春休みに応用化学科主催で関西の化学系企業の研究部を見て回る2泊3日の企画があり、それに参加したあたりから研究を意識するようになったような気がします。

3年次の研究室選びの際も有機化学関係に進もうと考え、研究室見学を繰り返して悩んだ末、ザ・有機合成化学ともいえる分野である天然物合成の千田憲孝先生の研究室を選択しました。私が配属された年に教授に昇任され並々ならぬ熱意を感じたことに加え、研究室独自の合成手法を柱とした研究戦略に惹かれたのが決定打でした。菌や植物から見つかった生物活性天然物の化学的合成に向けた研究生活はなかなかきつかったですが、手だけでなく頭もフルに使った当時の実験の数々や論文輪読、特に自分で決めたテーマについて総説的に調査し発表する会などは、今でも自分の知識や研究を支えています。

修士課程からの新しいテーマを中途のまま出たくないと思い博士課程まで進学したのですが、博士課程でも学内での奨学金に加え、当時は文科省COEプログラムが残っていたことから、経済的な負担はさほどなく過ごすことができました。また博士課程3年目にいただいた理工学部の藤原奨学基金は毎年受給者同窓会が開催され、博士課程修了後も社会で活躍する同期や先輩後輩と再会する機会があるなど、慶應義塾塾員塾生の結束の強さがよく表れています(なにぶん現在関西にいるのでほとんど参加できていませんが)。

たぶん修士1年?同期と

学位記、千田先生とともに

学位取得後、アメリカ・テネシー州にあるVanderbilt大学Sulikowski教授の下での1年間の博士研究員を経て、現在のNAISTに勤めることとなりました。ここは一般的な大学と異なり学部がなく大学院のみなので、研究に集中できる環境といえます。慶應義塾、Vanderbilt大学でやってきた天然物合成からはかなり離れてきてしまいましたが、学位修得から10年目の節目となる昨年度にNAIST学術奨励賞を受賞することができ、NAISTで始めた合成方法論の開発に基づく複素環化学、ならびに高周期典型元素化学に関する仕事を評価していただけたことは大変うれしく思います。今後も独自の研究を発展させ、新しい化学の展開を通じて科学界、社会への貢献をはたしていきたいと思います。

Vanderbilt大にて、Sulikowski研でお世話になったKim Kwangho博士と

ところで、本学は中国やインドネシアをはじめとした国外からの大学院学生も多く、小3~中3をインドネシアで過ごしていた私としては、当時お世話になった国への恩返しを教育という形で行えるのは感慨深いものがあります。NAISTに来てからはそうした関係からか、協定を結んでいるインドネシアの大学や関連シンポジウムに参加する機会をたくさん与えていただきました。一方、関西に来ても慶應義塾との縁は深く、学内や近隣大学をはじめ、新学術領域研究といった融合領域の集まりでも、第一線でご活躍されている塾員の方々とご一緒させていただく機会が多数ありました。このように社会に出た後も、多くの塾員とつながることができる強みが慶應義塾にはあると、ますます感じます。

慶應義塾大学は皆さんが自らの意思で強くやりたい面白いと思った目標を支え、推し進めてくれる環境を用意してくれています。入学された際にはこうした機会を積極的に利用し、自分の生涯を決める「これだ!」というものに出会ってもらえると嬉しいです。

学会にてインドネシア再訪

NAIST学術賞奨励賞講演

プロフィール

谷本 裕樹 (たにもと ひろき)
(慶應義塾高等学校出身、中学はジャカルタ日本人学校中学部出身)

2004年3月
慶應義塾大学 理工学部 応用化学科 卒業

2006年3月
慶應義塾大学大学院 理工学研究科 基礎理工学専攻 修士課程 修了

2009年3月
慶應義塾大学大学院 理工学研究科 基礎理工学専攻 後期博士課程 修了, 博士(理学)

2009年4月
Vanderbilt University (米国テネシー州) 博士研究員

2010年4月
奈良先端科学技術大学院大学物質創成科学研究科 助教

2018年4月
奈良先端科学技術大学院大学先端科学技術研究科物質創成科学領域 助教 (改組)

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