小さい頃から算数が得意で、好きでした。中学、高校でも得意科目は数学で、逆に、数学以外の科目はさっぱりでした(物理は得意でしたが)。高校2年までは、数学は得意科目として好き、という程度でしたが、高校3年の時にブルーバックス(講談社)を読むのにハマって、特に、『代数を図形で解く』(中村義作、阿邊恵一著)と『数学オリンピック問題にみる現代数学』(小島寛之著)を読んで数学の面白さを知りました。他にも藤原正彦の『天才の栄光と挫折』や、有名なサイモン・シンの『フェルマーの最終定理』などを読んで、だんだん、将来は数学者になりたいと思うようになりました。こういった本は、たまたまブックオフで105円とかで売っていたのを見て、面白そうだな、と思って買って読んだだけなのですが、人生何がきっかけになるかわからないです。

大学に入ってからは、高校までとは違ったスタイルの数学の授業に驚かされました。特に印象に残っている授業を挙げると、2年の時の井口先生の解析、坂内先生の位相、下村先生の複素解析、3年の時の坂川先生の確率論、栗原先生の環論、といったところです。井口先生の授業はきっちりとした完成度の高いもので、毎回出るレポート問題も適度な難易度で工夫がされているように感じました。坂内先生の授業では特に、ε-δ論法による連続性の定義が位相の言葉で鮮やかに言いかえられたことに感動しました。下村先生の授業は土曜の1限でしたが、毎回手ぶらでふらっと現れて、何も見ずにすらすらと板書していくスタイルが衝撃的でした。坂川先生の授業は議論が簡潔で鮮やかで、いつも爽快な気分になったことを覚えています。栗原先生はぼくの後の師匠ですが、「4で割って1余る素数は2つの平方数の和で表される」というフェルマーの定理を環論で証明したり、ヒルベルトの基底定理の証明は最初「これは数学ではない、神学だ」と言われたというエピソードを紹介したり、数学に対する好みが感じられる授業でした。

学位論文公聴会の後、同期の大川君と

2年秋学期から、同期の大川君と意気投合して、一緒に自主ゼミをやることになりました。できれば先生に見てもらおう、という話になって、群論の演習を担当していた田中先生にお願いしにいきました。それで、田中先生のすすめでシルヴァーマン・テイト『楕円曲線論入門』を一緒に読むことになりました。この自主ゼミは週に1回やって、3年の終わりまでの約1年半続きました。4年になって栗原先生のゼミに入りましたが、自主ゼミですでに鍛えられていたので、初めてゼミ発表をしたとき栗原先生から「もう慣れていますね」と言われました。

こうして、大好きな数学ばかりやれて、良い仲間や先生に恵まれて、楽しい学部時代が送れました。最後の暗い思い出と言えば、東日本大震災で卒業式が中止になったことです。

その後大学院に進み、笑いあり涙ありの修行時代を経て、晴れて数学者になりました。

数学者になって何もかも順風満帆というわけではありませんが、これからも自分の好きな数学をやりたいという思いはますます強まってきています。

ラマヌジャン定数(第163回にちなんで)

プロフィール

佐野 昂迪(さの たかみち)
(神奈川県立湘南高等学校 出身)

2011年3月
慶應義塾大学理工学部数理科学科 卒業

2013年3月
慶應義塾大学大学院理工学研究科基礎理工学専攻前期博士課程 修了

2015年3月
慶應義塾大学大学院理工学研究科基礎理工学専攻後期博士課程 修了

2015年4月
日本学術振興会 特別研究員PD(慶應義塾大学大学院理工学研究科)

2016年4月
日本学術振興会 特別研究員PD(大阪大学大学院理学研究科)

2016年10月
大阪市立大学大学院理学研究科 講師

2018年4月
大阪市立大学大学院理学研究科 准教授

現在に至る

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