受験生の皆さん、はじめまして。私は現在、東京理科大学理学部第一部応用化学科にて研究と教育を行っています。こう書きますと、非常に真面目な学生だったと思うかも知れませんが、実際は、入学当時はそうではありませんでした。ただ、そうした私でも、慶應義塾大学で学び、そしていろいろな経験をさせて頂けたおかげで、今では私自身も大学にて研究と教育に携わっています。
中学・高校時代は陸上競技に明け暮れていました。そうしたこともあり、高3の夏に部活が終わった時には、急に熱くなれるものがなくなってしまいました。そこで、ひとまず東京に出てみたいと思ったのが慶應義塾大学を受験した最大の理由です(適当ですみません)。大学時代、学部3年までは、自分探しの毎日を送っていて、いつも次に熱くなれるものを探していました。
学部3年の時、当時化学科教授であった茅幸二先生の話が面白くて、その先生の書かれた本を読んでみました。その本は原子の集合体(今でいうナノ物質)である「クラスター」について記載されていて、クラスターはナノ工学のキーテクノロジーになり得ると書かれていました。時は1990年代前半でしたので、当時はナノテクという言葉も今のように一般的ではありませんでしたし、ナノ物質についても今ほどは盛んに研究は行われてはいませんでした。ただ、その本を読んだ時、原子の集合体について研究を行うことがこの後の時代にもの凄く重要に感じました。そこで、学部4年からは、茅幸二先生の研究室に所属しました(写真)。研究室に所属してみて、実際の研究の場は、本で読むよりも、遙かにエキサイティングだと感じました。実験室では、研究室にて独自に設計した真空装置(写真)と何本ものレーザーを同時に使って、まだ誰も知らない新たな事実を明らかにしてゆく。学会では、その発見内容を、本で見たことしかない偉い先生方の前で発表する。私はそうした研究生活に大きな興奮を覚え、直ぐに研究の虜となりました。こうして私は、慶應義塾大学にて自分自身が本当に熱くなれることに出会い、そしてそれ以降はずっと、学問分野にて人生を送っています。
化学科の茅・中嶋研究室のメンバーと
学生時代に使用していた真空装置
慶應義塾大学には、博士課程(中退)と助手(現在の助教)を退職するまでお世話になり、その後は、分子科学研究所にて助手/助教として研究を行いました。2008年からは、東京理科大学にて、自分の研究室を運営しながら研究を行っています(写真)。慶應義塾大学時代と分子科学研究所時代には、自分自身で毎日実験を行っていて、その時には、世界で誰も見たことない結果を最初に目にして、手が震えるような感動と興奮を何度も経験しました。ただ、当時は、自分自身で実験する機会が減ってしまったら、研究から同じような感動と興奮を得られないのではないかとも心配していました。実際は、研究はもっと奥深いです。何が重要かを考えつつ研究課題を決める時、そしてその実現に向けて自分自身で実験計画を立てる時、新たな事実に気づかされた時、自分の予測が正しかった時、自分では予測し得ない偶然に出会った時など、研究は本当にいろいろな場面で私達に多くの感動と興奮を与えてくれます。私は、恐らく一生、研究の魅力に取り憑かれていることでしょう(笑)。
東京理科大学
根岸研究室の一期生との写真
根岸研究室の10周年記念祝賀会
矢上賞授賞式の様子
昨年9月に、慶應義塾大学理工学部/慶應義塾大学大学院理工学研究科より矢上賞を頂きました。その授賞式(写真)と講演会にて、多くの慶應義塾大学の方々と久しぶりに長時間接する機会があり、その時、慶應義塾大学に所属している方々は本当に格好良いなと思いました。何が?と聞かれると自分でも分かりません(笑)。ただ、思い返してみますと、茅先生も、「慶應生たるもの、忘年会は銀座で」とのお考えをお持ちの方でしたし、私も学生時代は、(田舎から出て行ったにも関わらず)世の中の人がイメージする慶大生に少しでも近づきたいと思っていました。慶應関係者のそうした精神が、慶應義塾大学に所属している方々をスマートに、そして上品に見せているのでしょうか。これから受験する高校生にも、もし慶應義塾大学に入学することになりましたら、是非とも、世の中そして我々慶應OBが期待する慶大生であり続けて欲しいと願っています。
根岸 雄一(ねぎし ゆういち)
(埼玉県立熊谷高等学校 出身)
1996年3月
慶應義塾大学理工学部化学科 卒業
1998年3月
慶應義塾大学大学院理工学研究科化学専攻修士課程 修了
2000年7月
慶應義塾大学大学院理工学研究科化学専攻博士課程 中退
2000年4月
慶應義塾大学理工学部化学科 助手
2000年7月
分子科学研究所電子構造研究系 助手(後に助教)
2008年4月
東京理科大学理学部第一部応用化学科 講師
2013年4月
東京理科大学理学部第一部応用化学科 准教授
2017年4月
東京理科大学理学部第一部応用化学科 教授
現在に至る