今回,執筆の機会を頂戴し,改めて慶應義塾での9年間を振り返ってみました。どのような学びを得て,今の自分にどのような影響を与えているのか考えてみました。学問もさることながら,諸先生方・友人・先輩・後輩など多くの人との出会いがありました。また,ゼミ合宿や研究会での発表,遠足を兼ねた学外勉強会や卒業旅行など,数多くの貴重な経験もすることができました。楽しいことばかりではなく,大変な思いも幾度となくしましたが,そのすべてが自分を成長させる材料であったと時間が経った今だからこそ思います。

「管理工学科との出会い」

中学生時代から数学の教員になることだけを目指し,志望学科は数学の教員免許が取得できるところから選び,就職活動も教職のみで一般企業には手を出しませんでした。その中でも管理工学科を選んだのは,『数学そのものの探求よりも,数学を道具として用いることで社会貢献できないか』という自分の知的好奇心を満たしてくれる学科だと確信したからです。

「研究室」

都市のOR(オペレーションズ・リサーチ)を専門とする栗田研究室に所属することができました。院生時代の2年間は私立高校非常勤講師との二足の草鞋を履いていたため,矢上に行けるのは週に2~3日でした。高校での授業担当と修士課程における勉学・研究を両立させることはかなりしんどいことでしたが,栗田先生が力づけて下さったお陰もあり,しっかりとやり通すことができました。また後輩にも教職志望の学生が数人栗田研に配属され,お互いに良い刺激を授受することができました。一時期は学生の話題の中心となる就活ですが,教職の就活は一般的なものと制度が全く異なります。就活に関して同じ話題で話ができるのはとても新鮮で嬉しかったのを覚えています。

大学院の講義も曜日の制約から希望する講義を自由に履修することができず,必要単位数を満たすために領域外の講義もいくつか履修しました。当時は大変でしたが,この時の先生と縁があり,現在もこの経験が役立っています(後述)。

ゼミ合宿(館山)の発表にて

ゼミ合宿(館山)の自由時間にて

学部卒業式の日に研究室のメンバーにて

「卒業後の今」

現在は,学級担任を持ちながら中学生と高校生に数学を教えています。昨今の高大接続改革により,中学・高校の教育方針が少しずつ変化しようとしています。単純に知識・技能を教えるだけではなく,思考力・判断力・表現力の重視やアクティブラーニングの必要性が叫ばれています。理工学部の講義を思い出すと最初からこれらの観点が十分盛り込まれており,自分が授業方針を組立てる上で非常に重宝しています。

また,理系の面白さを普及させるための校内プロジェクトの長も務めており,企画の一つとして毎年夏に希望する生徒を連れて大学のキャンパスを案内しています。その際,栗田先生はもちろんのこと,先に述べた自分にとって他分野の講義を担当して下さった先生にも縁あってご協力を頂いたこともあります。さらにその先生の研究室出身者で現在他大学で准教授をされている塾高時代の私の友人や研究会で出会った他大学の研究者にも様々な形でお世話になっています。多くの人との出会いやご縁が,確実に今の仕事と有益に結びついていることを日々実感しています。

「最後に」

勤務校にて(中学生の授業)

現在の教育現場では『生徒の主体性』という言葉がよく使われています。ただし,この状況は言葉自体が強調して唱えられ始めただけにすぎません。その重要性や必要性は今も昔も何も変わっていません。主体性は他人が強制するのは難しく,だからこそ教育現場は苦労しているのですが,慶應義塾大学理工学部は学生の主体性に重きを置いている環境にあると思います。学生の皆さんには,ぜひ人との出会いを大切にしつつ,自分の主体性を大いに発揮できる学生生活を送って頂きたいと考えています。

プロフィール

北川 真仁(きたがわ まさひと)
(慶應義塾高等学校 出身)

2008年3月
慶應義塾大学理工学部管理工学科 卒業

2008年4月
東海大学付属高輪台高等学校・中等部 非常勤講師

2010年3月
慶應義塾大学大学院理工学研究科開放環境科学専攻修士課程 修了

2010年4月
富士見丘中学高等学校 非常勤講師

2011年4月
学校法人堀井学園横浜翠陵中学・高等学校 教諭

現在に至る

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