学生時代

私は学部生、前期博士課程、後期博士課程を慶應大学で過ごし、数学を学びました。小さな頃から将棋やパズルといった論理的な思考を用いる遊びが好きで、中学生・高校生の頃から数学が得意でした。そのため、大学でも数学を学ぼうと思い、理工学部の学門2に入学し、数理科学科に進みました。学部生の頃は、折角数学を学ぶ環境を選んだのであるから、真剣に数学を学ぼうと思い、数学の授業だけは毎回予習復習をしていました。数理科学科には同じように数学を真剣に学んでいる人達がいて、自然と先輩後輩を含めそのような人たちと知り合い、一緒に数学を学ぶようになりました。当時のことを振り返ってみると、私は仲間に恵まれたおかげで、難しいこともあまり苦労を感じることなく学ぶことができたと思います。
研究室分けの際にはどの研究室に入ろうか少々悩んだ末、田村要造先生の研究室で確率論を研究することにしました。田村先生は私に他の学生とは別にセミナーの時間を設け、抽象的で広い枠組みでの確率論を学ぶ機会を与えて下さりました。このセミナーの内容は難しかったため、セミナーの準備にとても時間がかかり、更に他の同期の学生とのセミナーにも参加していたため、研究室に所属してからはほとんど全ての時間を数学に費やす様になりました。セミナーで使用していた本にある定理の証明がどうしても理解できなかったために、同じ定理の証明が書いてある本を図書室で探し、1回のセミナー発表のために2週間程費やしたことは、今となっては良い思い出となっています。

そして折角真剣に数学を学んできたのであるから、出来る限り数学の道を進もうと思い、前期博士課程、後期博士課程に進学しました。このようにただ数学を学びたいという思いだけで進路を決めたため、進路について悩むことはありませんでした。大学院進学後は、卒業後に数学者として生きていくことを目指し、学生の内に必要な経験や体験が出来る様に意識をしながら学生生活を送りました。その中でも特に世界に目を向けることを意識し、後期博士課程の時は毎年少なくとも1回は海外の研究集会に参加し、外国人数学者と交流を持つようにしました。最初は英語で会話が出来ず、海外出張をしても数学を学ぶというよりは外国での生活を体験する程度のことしかできませんでしたが、努力の甲斐もあり少しずつ数学者として成長していたように思います。2010年には半年間ドイツのボン大学に滞在し、その際に英語で生活をすること、そして英語で数学をすることに慣れることが出来ました。2010年のボン滞在中にヨーロッパにおいて出張を行い、色々なところで研究発表を行いました。下の写真はドイツのドレスデンでの研究集会に参加した際の、慶應大学の大学院で同期だった佐久間君と撮ったものです。

数理科学科の同期との卒業旅行での写真

大学院で同期の佐久間君との写真

数学者としての生活

大学での研究職への就職はとても競争が激しいですが、学位を取得し慶應大学を離れた後、幸運なことに京都大学でのポスドク、東北大学での助教を経て、現在は岡山大学で准教授の身分で数学者として働いています。今は自分の研究室もあり、学部生だけでなく大学院生の指導も行っています。普段は授業やその準備、学生とのセミナー、大学運営の仕事を主に行っていて、その他の時間は研究を行っています。

授業の様子

慶應確率論ワークショップでの講演の写真

研究分野はずっと変わらずに確率論ですが、その中でも特に確率解析とその他分野への応用の研究を行っています。大学教員の仕事は学生の頃に思っていたよりもずっと忙しく、その中でも研究は成果が得られるまでどの程度時間がかかるかが分からないため、常に研究の時間に追われているような感覚があります。一方で、研究をしたくて数学者になったため、研究は仕事の中で最も楽しい時間でもあります。学期の境目である夏休みや春休みには海外出張をし、研究発表を行ったり、外国人数学者と共同研究を行ったりしています。最近では海外からの講演依頼も沢山来ていて、益々忙しい毎日を送っています。

数学の中でも細かく分野で別れているため、研究分野が離れている人とは会う機会が少ないですが、慶應大学出身の数学者にも会う機会があります。特に学年が近く、同じ時期に慶應大学で学生をしていた数学者とは仲間意識があり、学生時代の昔話で盛り上がったりしています。分野が近い人とは仕事上の付き合いもあり、共著論文を書いたり、協力して研究集会やセミナーを開催したりしています。最近では指導教員であった田村要造先生の退職に合わせ、卒業生で慶應確率論ワークショップを開催しました。その際には企業に就職した研究室の同窓生とも会い、お互いの近況について話しました。皆卒業してから10年ほどが経ち、それぞれの道で活躍していることが分かりました。これからもこの学生時代の繋がりを大切にしながら、数学の世界で精進していきたいと思います。

プロフィール

楠岡 誠一郎 (くすおか せいいちろう)
(奈良学園高等学校 出身)

2006年3月
慶應義塾大学理工学部数理科学科 卒業

2008年3月
慶應義塾大学大学院理工学研究科基礎理工学専攻前期博士課程 修了

2010年9月
慶應義塾大学大学院理工学研究科基礎理工学専攻後期博士課程 修了

2010年10月
日本学術振興会 特別研究員PD(慶應義塾大学大学院理工学研究科)

2011年4月
日本学術振興会 特別研究員PD(京都大学大学院理学研究科)

2012年10月
東北大学大学院理学研究科 助教

2015年10月
岡山大学大学院自然科学研究科 准教授

2016年4月
岡山大学異分野基礎科学研究所 准教授

現在に至る


受賞歴

2017年9月
日本数学会賞建部賢弘特別賞

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