このコラムを執筆するにあたり、自分が学生時代に取り組んでいたことを振り返ってみました。昔の論文やノートに発表資料、さらには研究室で撮った写真などを見ていると当時の思い出が蘇ってきます。論文など、今読み返してみると懐かしいと思うと同時に、修正したいと思うところも沢山目につき恥ずかしくなる部分もあります。一方で、学生だった頃の自分の方が視野も広く志も高かったのではないかと感心する反面、視野が業務の範囲に限定されがちな今の自分に反省したりもします。改めて現在の基礎が慶應義塾で過ごした10年間に形成されたのだと気付かされました。

私の仕事

私は今、キヤノンの生産技術研究所というところで働いています。ここで主にレンズをつくる技術の向上を目指し、研究開発を行っています。主な担当業務は、レンズをつくるための装置開発です。

デジタルカメラに代表される光学機器の高性能化を実現するため、レンズに求められる精度も飛躍的に高くなってきています。さらには、これまでにない光学性能を実現するために、表面にとても微細な形状(小さな溝や凸凹など)を持ったレンズや、特殊なコーティングが施されたレンズなどが登場し、レンズをつくる技術に求められるハードルもどんどん高くなってきています。したがって、装置開発担当といっても専門の機械工学の範疇に入る課題ばかりでなく、光学や化学など専門以外の課題にも向き合っていく必要があります。得意でないことに取り組むのは大変ですが、逆に言えば、専門外のことに触れる機会が多く、日々好奇心を刺激されながらものづくり装置の開発に取り組んでいます。

慶應での思い出

思い返せば、小さな頃から何かを作るということが好きでした。また、身の回りのいろいろなものを分解しては、中がどうなっているのかを見るのが好きでした。ですから、機械工学科を選択するということに特に理由はありませんでした。

理系の学部ではどこでも変わらないと思いますが、1年生から3年生までは、実験レポートや期末試験の勉強でとても大変でした。レポートが大変なときや期末試験の勉強などでは、仲の良い仲間が集まってノートや過去問を持ち寄り、お互いに教えあったりしながら勉強していました。みんなでわいわいやっていましたし、何かの合宿のようで、大変でしたが今では楽しい思い出です。

学部4年生から博士課程を修了するまで、私は生産加工を研究していた青山藤詞郎研究室でお世話になりました。生産加工の知能化というキーワードと研究室の雰囲気の明るさに惹かれました。ここで、私は、工作物フィクスチュアリングの自動化をテーマに研究を行っていました。工作物フィクスチュアリングというのは、機械などで材料を削ったりして加工するときに位置を決め固定する工程を言います。このテーマでは、フィクスチュアリングを行う作業の自動化というよりは、どのようにフィクスチュアリングするのかを考える部分の自動化を目的として研究を行っていました。そしてこの研究の先にあるのは生産システムの知能化そしてその結果としての自動化、効率化を進めることです。

この研究では、生産システムの知能化を研究する国際共同研究プロジェクトの中の一つのグループに参加させていただき、そこで、他大学の先生方や企業で研究をされている方々と生産システムの将来の形について議論をする機会を得ました。ここで議論していたのは、つくるモノの種類や量の変化に柔軟な生産システムの一形態であるホロニック生産システムというものでした。ホロニック生産システムとは、異なった特徴を持つ自律的なシステムが集まって協調することで、より大きなシステムを構成するという考え方を生産システムに適用したものです。この様な考え方を取り込んだ生産システムをどうやって具現化させるのかということにチャレンジしていました。会議などでは、ただの学生が生意気なことを言っていたのではないかと今にして思えば冷や汗モノですが、若気の至りということで大目に見て頂いていたと思います。非常に貴重な経験をさせていただきました。最近、キヤノンでも将来のモノづくりに関する議論に参加しましたが、意見を述べる際には、やはり学生時代の経験がベースにあったことは間違いありません。改めて、私の基礎は、慶應時代に形成されたのだと思います。

ご指導下さった青山藤詞郎教授、青山英樹教授に深く感謝いたします。

学会発表の様子(LEM21)(2003年11月撮影)

私の趣味の一つは海外旅行です。修士までは、特に海外に興味もなく行きたいとも思っていませんでした。しかし、研究室にいる間にアメリカでの国際会議やインドでの学術研修、ドイツへの短期留学などを経験させてもらい、普段とはまるで違う環境に触れることの魅力にすっかり取り憑かれてしまいました。今では、年に2~3回は有給休暇を取って海外旅行に出かけています。このコラムを書いている今も、次の旅行先であるボロブドゥール遺跡(インドネシア)のことで頭がいっぱいです。

友人の新居にて(2012月11月撮影)

プロフィール

財津 育浩(ざいつ いくひろ)
(岡山高等学校 出身)

1998年3月
慶應義塾大学理工学部機械工学科 卒業

2000年3月
慶應義塾大学大学院理工学研究科機械工学専攻修士課程 修了

2004年3月
慶應義塾大学大学院理工学研究科総合デザイン工学専攻後期博士課程 修了

2004年4月
キヤノン株式会社 入社

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