慶應で学んだ6年間は、よい先生、よい友達に恵まれてとても充実したものでした。その6年間の前後を含めて、高校生の頃から今までを振り返ってみると、コンピュータとその活用がキーワードであったと思います。そこで、このキーワードをもとに、私と慶應義塾大学理工学部の関係をご紹介したいと思います。

高校生:コンピュータとの出会い

私が高校生だった1990年代半ばは、パソコンが徐々に家庭に普及し始めた時期と言っていいでしょう。それ以前は、コンピュータと言えば企業向けが主で、個人向けは一部の限定された人達のものでした。しかし、この時期を境にして、新たな形のOSやインターネットの登場をきっかけに、このような構造が変化し始めました。私は、この時代の流れを見て、コンピュータに興味を持つと共に、新たな可能性を感じていました。そして、独学でプログラミングの勉強を始め、自作のプログラムをパソコンで動かしてみて、コンピュータは大きな可能性を秘めており、その応用範囲は無限であると高校生ながらも確信しました。漠然としながらも、将来、コンピュータを活用することで社会に役立つことをしたいと、この頃から考えるようになりました。

大学への進学を控えていた高校3年生の時、当然のことながら、私は、コンピュータについて詳しく勉強できる大学・学部を探していました。その時、慶應義塾大学理工学部が学科改組することを知りました。そして、その中で新たに組織される物理情報工学科は、コンピュータそのものだけでなく、それを活用する方法も学べそうだとわかりました。私が漠然と考えていたことを実現できる場所が、学科改組によって慶應義塾大学理工学部に準備されようとしていたのです。

大学生:コンピュータの活用方法の勉強
(システム工学)

相吉研の合宿風景

慶應義塾大学に入学後は、志望していた物理情報工学科に進学しました。もちろん、最初は数学や物理など基礎的な科目が多かったものの、学年が進むにつれて徐々に専門性が増していき、自分が関心を抱いていた分野について学ぶことができるようになりました。例えば、この学科では、計算機工学の科目などにおいてコンピュータそのものを深く掘り下げ、さらに、計測工学など他の関連した分野も幅広く学ぶことができました。コンピュータの活用範囲の広さを実感しながら、大学生活を過ごしていました。

そして、4年生の時、相吉英太郎教授が指導する研究室に所属することになり、専門分野としてシステム工学を選びました。この研究室では、様々な現象を入力と出力の情報に注目して、数理モデルで表現することを研究していました。様々な現象についてコンピュータ内で数値シミュレーションを行い、コンピュータを活用して問題を解決することを研究していると言えば、分かりやすいかも知れません。その中で、私は、ニューラルネットワークという、人間の神経細胞を模倣した数理モデルをコンピュータ上に再現し、様々な数値計算を行うことを研究テーマに選びました。この研究結果の一部は、在学中に学会で発表をし、修士課程修了後に学会誌に掲載もされています。今思い返すと、これが、コンピュータを活用して社会に還元することの小さな一歩だったのかも知れません。

ECNで

また、大学院生時には、慶應義塾大学の交換留学制度を利用して、Ecole Centrale de Nantes(ECN)に短期留学もしました。ECNは、フランスのナント市に所在する工科大学です。ここでも、Patrick Chedmail教授、Fouad Bennis教授の2人の先生の指導のもと、引き続きニューラルネットワークを題材としてシステム工学について研究をしました。初めての海外生活で、フランス語も得意ではなかったため、当初はとても苦労をしました。しかし、海外の学会誌に掲載されている研究を先生と議論していく中で、自分の研究分野の理解をより深めることができました。

社会人:コンピュータを活用して社会に役立てる

職場の前で

就職活動も、大学・大学院を通じて学んできたことが活用できそうな企業を中心に訪問しました。そして、縁があって、日本銀行に就職することになりました。銀行というと、理工系とは縁遠い存在と考えられがちですが、そんなことはありません。先ほど、システム工学とは、様々な現象を入力と出力の情報に注目して、数理モデルで表現することと紹介しました。この様々な現象は、物理現象に限るものではありません。世の中の経済現象も同じように捉えることができます。

例えば、日本には、GDPや物価など多くの経済や金融の統計データがあります。これらの統計データを入出力データとして用いれば、コンピュータ上に日本経済を再現することもできます。経済学の分野でも、コンピュータ上に日本経済を再現し、日本経済がどのような構造になっているのか分析しようと研究している方がいらっしゃいます。すなわち、システム工学の知識は、コンピュータを活用して、日本の経済を分析することに役立てることができるのです。

実際、日本銀行に入行した後、統計データの作成や、経済・金融の分析をする仕事をしてきました。これは、正に高校生の時に考え、慶應で学んできたことを実践するものといえます。これからも、慶應で学んできたことを礎としながら、日本経済に貢献していきたいと考えています。

最近の相吉研で

プロフィール

森下 謙太郎(もりした けんたろう)
(早稲田高校 出身)

2000年3月
慶應義塾大学理工学部物理情報工学科 卒業

2002年3月
慶應義塾大学大学院 理工学研究科基礎理工学専攻修士課程 修了

2002年4月
日本銀行 入行

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