現在私はソニー・エリクソン・モバイルコミュニケーションズで携帯電話向けのUser Interface(UI)デザイン部門に在籍しています。縁もあって、2007年の夏にSwedenのLundという開発拠点の一つに赴任し、現在は海外向け携帯電話のUIデザインを担当しています。

ご存じない方もいらっしゃるかと思いますが、ソニー・エリクソンはソニーとエリクソンの折半出資の合弁会社で、2001年10月に発足したまだまだ若い会社です。本社機能はロンドンにあり、開発拠点は日本以外にSweden、US、Chinaなどなど、世界に存在するグローバルカンパニーです。

Sony Ericsson (Sweden) のLundオフィス

携帯電話開発の現場にいると、その業界のスピードには大変驚かされます。業界全体の動向、他社の動向、そして今後さらに主流となるインターネットベースのコミュニケーションの動向などをタイムリーに取り入れて、商品を作って世に出して行くというのはとても容易ではない反面、大変エキサイティングな現場です。

現在私がこのような商品開発に微力ながら貢献できていると感じるのは、システムデザイン工学科長坂研究室で過ごした密度の濃い時間があったからです。この執筆ではその原点である私の研究室時代のことを振り返りたいと思います。

日吉時代

慶応義塾大学理工学部に入学後、最初の分岐点となった2年時の学科選びでシステムデザイン工学科を選択しました。私が学科2期生と、その当時はまだまだ新しい学科だったため、ここで学んで卒業した後の自分の姿は正直描ききれていませんでしたが、何よりその学科理念に感銘を受けたことがその選択理由でした。

様々な物事を有機的に結びつける総合的な視野を養うところに意識が向けられていて、新しい視点で社会を切り開こうとする軸に深く共感したことを覚えています。また、単純に学科名の略称のSD(エスディ)という響きが他の学科名と比べてかっこ良くて好きだったのも理由かもしれません。

創設間もない学科のため、過去問・過去レポがあまり出回らないなどの苦労も確かにありましたが、先生と学生の距離が近いシステムデザイン工学科はとてもエネルギッシュな雰囲気で好きでした。

矢上/研究室時代

4年時から始まった長坂研究室での生活は、私にとってこれまでと全く異なる生活のスタートでした。研究室生活は、これまで受け身だった一方通行の講義形態に慣れ切っていた私にとって、全く新しい脳みその使い方を強いられているようでした。

戸惑いもありましたが、当時それを払拭してくれたのは隣接する長島研も含めた長島・長坂研究室に配属された同学年の仲間の存在、そして長坂先生の人柄から来る研究室内のアットホームな雰囲気でした。そんなホッとできる環境があったおかげか、その後は研究室生活にすんなりと入っていくことができました。

中でも一番の思い出は、田口先輩 (現システムデザイン工学科 田口良広 専任講師) と過ごした学部4年時代の1年間です。田口先輩は私と同一の研究テーマを遂行した直属の先輩で、研究の「いろは」を熱心に教えて下さいました。徹夜での実験や日常のディスカッション、一緒にあさば(矢上キャンパス近くの弁当屋)のお弁当を頬張ったりと、多くの時間を共有する中で、田口先輩から物事を追求する姿勢と目的達成まで継続する粘りの大切さを学びました。

その濃い時間があったからか、田口先輩とは現在もお付き合いさせて頂いている最も心の距離が近い先輩です。

大学院まで含めた3年間の研究は苦労も多々ありましたが、それを完遂できたのは、日頃ご指導下さった長坂先生の建設的なアドバイスがあったおかげ以外の何物でもなく、研究を通して、物事を多角的に捉える能力と、何より一番大切なその際のメンタリティを学ぶことができました。現在の自分の思考・判断のベースがここに帰着されると言っても過言ではありません。

長坂研夏合宿(修士1年時)

長島・長坂研夏合宿 海ほたるにて(修士2年時)

現在〜Swedenでの海外勤務

日本を離れ、Swedenでの生活も約2年半が過ぎようとしています。こちらでの生活もだいぶ慣れて、物事を客観視できる余裕も出てきました。もともとSweden人は生活と仕事のバランスをうまく取る国民性で、余暇をしっかりと楽しむスタイルは日本のそれと大分異なります。もちろんそれを支える社会システムが日本と根本的に異なることも一つの要因だと思いますが、人それぞれ自分の人生を積極的に楽しむ姿勢にはとても共感を覚えます。

生活面において違いがある一方で、仕事の面においては、国や環境が変わっても不思議と日々直面する問題の種類や本質は変わらないことに気付きます。

海外で働く上で言葉の壁はもちろんありますが、これまでシステムデザイン工学科長坂研究室で叩き込まれたメンタリティ、問題解決のアプローチは、日本を離れた海外でも確実に役に立っていると感じます。

今後も魅力的な携帯電話を開発し、人々の生活を豊かにできるようがんばっていきたいと思います。

プロフィール

柴 裕(しば ゆたか)
(茨城県立下妻第一高等学校 出身)

2001年3月
慶應義塾大学理工学部システムデザイン工学科 卒業

2003年3月
慶應義塾大学大学院 理工学研究科総合デザイン工学専攻修士課程 修了

2003年4月
ソニー・エリクソン・モバイルコミュニケーションズ株式会社(日本) 入社

2007年9月
Sony Ericsson Mobile Communications AB (Sweden)へ赴任

現在、UX Creative Design Centerに在籍

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