卒業してから早くも約30年が経ちましたが、社会人になり年月を経るに連れてますます慶應義塾の良さを感じています。これからの新しい時代だからこそ、「つながり」の大切さを実感できることは素晴らしいことです。その礎を、それぞれに築くことができるのが慶應義塾でしょう。
日吉や矢上キャンパスのある横浜・日吉の街は、地方出身の私にとっても、とても落ち着き過ごしやすい空間でした。そこで、マジメに勉強すればよかったのですが、大学1~2年生の頃は、初めての独り暮らしだったこともあり、毎日、麻雀に没頭していました。今では考えられないでしょうが、当時は四畳半一間のアパートも多く、そこにクラスの悪友共が10人以上集まっての徹夜麻雀。そして、酒と音楽。1970年代当時は、ニューミュージックと呼ばれた楽曲が全盛の頃で、今でも活躍している松任谷由美がようやくメジャーになりかけた頃です。30年経った今でも、悪友共が集まると語り草です。
また、サークル活動は、KCS(Keio Computer Society)。「理科系なのだからコンピュータぐらい理解しておこう。」という程度の軽い気持ちで入部したのですが、KCSには、当時としては珍しく小中学校からコンピュータを扱っていたような学生が何人もいて、入部して三日目で研究活動は諦めて路線変更。もっぱら宴会担当に回りました。そして、サークルの機関誌発行や部費の足しにするために、たくさんの企業を回って広告や仕事を貰って来るという広報担当に就任しました。例えば、秋の三田祭への出展のためには多くの費用が必要なので、2ヶ月で100社以上の企業を回って広告を集めていました。当然、授業に出る時間もなく、クラスメートの代理出席とノートのコピーだけが頼りでしたが、何とか単位を落とさないで3年生に進級。
K組同窓会写真
慶應義塾工学部(当時)は、1~2年生の間は専攻ではなく3年生で専攻学科を決めるという仕組みでした。高校までの知識と夢だけではなく、じっくりと自分を発見できる、同じような夢を持った仲間の意見も聞くことができるという非常にいい制度でした。私の場合は、サークルの先輩から、「これからも技術は必要。しかし、技術だけではなく文系的なセンスも理解できる総合科学のようなものが重要になる。」と言われ、管理工学科を専攻しました。 管理工学科に進んだ3年生のときに西野教授の「経済原論」の講義を聞いて、その領域に大いなる興味を抱いたことと、西野先生から学びたい・いい意味での影響を受けたいという思いから、西野研究室に入りました。西野研究室は、オペレーションズリサーチや数理経済学を専門にしており、高度な数学の知識とセンスを求められる非常にハードな研究室でした。自分の人生の中でも、大学4年から修士課程までの3年間は、最も勉強した時代でした。
数理経済学とは、複雑な経済をモデル化・シンプル化して、ある制約条件のもとでの最適解を見出すこと、また、その本質や構造を見極めて次の時代の準備をするという学問です。人間の生活や行動によって動かされるという、まさに生き物である「経済」にも確かな「科学」が存在することを学生時代に探究し続けた結果、社会人になってからも、経営やマーケティングにも確かな科学が存在するという仮説を持って行動してきました。 例えば、制約条件というのは、発想によって、あるいは違った視点を持てば十分に変えることができますし、そのもとで新たな解が存在します。また、それらは刻々とダイナミックに変化していきます。学生時代にこうしたトレーニングを積み重ねた結果、現実の経営や事業における複雑な制約条件と最適解の関係性に対しても、それらをできるだけシンプル化して本質を見出すことで、戸惑いや驚きやリスクをより小さくして意思決定できるようになりました。さらに、変化を楽しむことまでができるようになります。
就職はNECへ。数学の研究そのものが、一般的な企業での仕事に直接的に生かせるとは思ってはいませんでした。ただ、当時からNECは、技術は確かだけれど儲けるのが下手な会社でしたから、自分の総合力と論理に基づく発想力を生かせる可能性があると考えて選択しました。入社後は、本社スタッフとして企画・コンサルティング関係の仕事に10年間従事しました。そして、1990年代になって日本でも商用インターネットがスタート。NECもインターネット事業に参入することになり、その立ち上げに私も参画しまし、以降、このインターネット事業を担当してきました。 1996年7月に総合インターネットプロバイダー「BIGLOBE」を立ち上げ。そして、10年目を迎えた昨年2006年、時代の変化に対してより迅速に事業展開できるようBIGLOBE事業をNECから独立させてNECビッグローブ(株)を立ち上げました。そこで、設立当初から代表取締役として経営全般に従事しています。 そして、会社設立から1年間かけて、今年の7月に当社の企業理念を社員全員参加で策定しました。経営者として、これからの新しい10年という時代を描くためには、われわれの世代だけではなく皆さんのような若い世代の人たちと一緒に描くことが必要だと考えたからです。
BIGLOBE企業理念
「つながる歓び、つなげる喜び」。人と人を、人と企業を、そして人と社会をつなぐことを存在意義とするものです。当たり前だけれど、これからの時代だからこそ大切に思いたいと考えています。ただし、つながることは"群れる"ことではありません。一人ひとり自立し、そして全体の調和へも目を向けられるような本当の強さを持ち続けていたいという思いをこめています。
最後に、私の経営信条で結びます。 「ホロニック・マネジメント」。ホロニックとは、生物学での生体や細胞の持つ本質です。この考え方を漢字で表現すると、「個生共創 個創共生」。読み方は、「個が生きて共に創る、個が創り共に生きる。」ということを意味しています。その根底には、慶應義塾の「独立自尊」があるのかもしれません。 皆さんの前には、これからの未来が輝いています。そのための第一歩、一つ目のステップにするには、慶應義塾は本当に素晴らしい"つながり"を用意してくれています。それを掴み、いかに活用するかは、皆さん一人ひとりの自由です。
佐久間 洋(さくま ひろし)
(広島県立広島観音高等学校 出身)
1979年3月
慶應義塾大学工学部管理工学科 卒業
1981年3月
慶応義塾大学大学院工学研究科管理工学専攻修士課程 修了
1981年4月
日本電気株式会社 入社
1983年7月
同社 経営情報システム本部システムアナリスト
1996年7月
同社 BIGLOBEパーソナルサービス販売推進本部 企画部長
2001年4月
同社 BIGLOBEサービス事業部 事業部長
2006年7月
NECビッグローブ株式会社 代表取締役執行役員専務
現在に至る