無我夢中で仕事に打ち込む喜びを強く感じている最近の私です。命懸けでリスク高い研究開発に挑戦して、その夢が果たせたときの熱いものが体中に駆け巡る思いは、本当に言葉では言い表せないものです。その中のひとつが、今まで焼却処理や埋め立てた廃棄物を利用して、可燃物は可燃性ガス化して燃料に、不燃物は溶融無害化して原材料として再利用する技術の開発でした。

中村氏在学当時の矢上校舎

今、本開発の成果を核とした発電施設の立ち上げ引渡しの技術指導のために広島県へ行く新幹線の中でこの思いを書いています。そう、この新型廃棄物処理プロセスの開発に参加したのは、英国留学中の私に帰国命令が出てプロジェクトに加わった今から12年前のことです。12年間には、失敗と成功の繰り返し、何度となく挫折があり中止も覚悟しました。商品として世の中に受け入れられるかという不安、それは性能だけでなく安全性やコストについてもユーザーが納得できるものでないと実用には届かないことも充分に考慮すべきことでした。色々なことありましたが、本施設は4月から本格的操業に入り、一日300トンのごみを処理しつつ2万キロワットの電力を供給する予定です。

さて、今私が直面している研究開発には、世の中に価値ある新しい技術を自ら創出しようとするパワーが必要です。世界中にアンテナを張り、欲しているものを的確に見つけ、何を研究開発すべきか、即ち”What”がまず重要です。今の技術者の最も欠けていることはそれができないことでしょうか。トップダウンで「これをしろ!」と言われるとできるが、「自分で何をすべきかみつけろ!」はできない。NHK“プロジェクトX”が好評を博している原因もそこでしょうか?まず‘What’あり次に‘Why’そして‘How’、熱く燃え世の中に受け入れられるには、研究開発者個人が自ら夢を語りそれを現実に仕上げてこそ、初めて燃え尽きることができるのではと思っています。

慶應義塾で多くの先生方からご教授頂戴した学生時代は、私の人生にとって最も重要な毎日だったと最近思っています。最近になって多くのことを気づいてきたかもしれません。在学中は今日に熱中し明日を思う日々で、本当の将来ターゲットを十分理解していなかった様です。塾を旅立ち21年、ちょっと外から塾を見たり当時を思い出す度に、ご指導いただいた非常に貴重なお言葉や体を張ったご指導が理解でき始めた感がします。慶應義塾には伝統があります。時代は変わりつつも、福澤諭吉先生の建学の精神は大きな柱として塾の教育の中に生き続けていると思います。21世紀となり益々時代を動かす人材が重要となっています。私のような一塾員であっても、ご教授いただいた多くの先生方から叩き込まれた熱い血は、研究開発者として生きており、大切な宝となっています。自分は何をすべきか、何故それをするのか、どの様にするとゴールを勝ち取れるか。そんな自問自答に絶えうる精神力と行動力は、塾で学んだ中から生まれてきたと、信じています。

もうすぐ、福山駅へ到着です。東京から広島まで4時間弱で行ける日帰りの業務となりました。時代の進歩は早く、それに追い越されないように人間の頭脳を研きや判断をすることが求められています。人生は一度、そこで何を求め、どう行動するか、それは一人一人が考えることなのです。それを正しく導いて頂いているのが、塾の諸先輩方の熱い血のような気がします。ですから私も、後輩や子孫が益々の反映をできるよう、素晴らしき地球を維持できるよう、塾の諸先生方の教えを大切にして今後も頑張る所存です。熱く燃える開拓者として直進します。

プロフィール

中村 直(なかむら すなお)

1977年3月
慶応義塾大学工学部機械工学科 卒業

1983年3月
慶応義塾大学大学院工学研究科博士課程 修了

1983年4月
慶応義塾大学 非常勤講師

1983年9月
工学博士

1984年4月
日本鋼管株式会社 入社

1991年9月
英国インペリアルカレッジ アカデミックビジター

1992年9月
日本鋼管株式会社技術開発本部 主任研究員

2003年4月
JFEエンジニアリング株式会社(日本鋼管と川崎製鉄が統合)
エンジニアリング研究所 環境システム研究部長

2004年
JFEエンジニアリング株式会社 技術総括部長

現在に至る

受賞
日本機械学会技術賞(2003年)他、多数

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