この度は、慶應義塾大学理工学部の「塾員来往」に寄稿する機会をいただき、誠に光栄に思います。未来を担う学生の皆さん、そして慶應義塾を目指す方々にとって、私の経験が少しでも皆さんのキャリアや学びのヒントになれば幸いです。

慶應義塾での学びとエンジニアリングの基礎

私は起業家であり、ソフトウェアエンジニアとして、これまでのキャリアを築いてきました。慶應義塾での学びは、その強固な基盤となりました。特に、複雑な問題を論理的に分析し、解決策を導き出す思考力は、その後の起業家としての道のりや、技術者としてのキャリアにおいて不可欠なものでした。

私は常に最新の技術動向にアンテナを張り、自ら手を動かして学ぶことの重要性を感じています。この探求心と実践的な学びの姿勢は、慶應義塾での経験によって培われたものだと確信しています。他の塾員の方々の寄稿にもあるように、大学での知的好奇心と自ら行動する経験が、その後のキャリアの重要な礎となることは少なくありません。

学生起業からはじまったキャリア

多くの同級生と同じように、新卒で大企業に入社するという選択肢がありましたが、私は慶應義塾在学中にConnehito株式会社を創業しました。主な理由の1つは、そちらの方がオーナーシップを持って仕事ができるため、自分自身が成長できると感じたからです。

もちろん、簡単な道のりではありませんでした。創業者として、2年間は無給でしたし、サービスをつくっては壊すといったことを繰り返していました。幸い、家族向けサービスである「ママリ」が事業として立ち上がり、創業して4年後にM&Aを経験しました。その後はKDDIの子会社取締役として引き続き事業開発に携わり、合計約8年間、事業の成長に尽力いたしました。

博士課程を通じて得られた、研究者としての目線

M&Aの後、引き続きConnehito株式会社で取締役を務めていた際に、社会人学生として博士課程に戻り、仕事をしながら2018年に博士(工学)を取得しました。

このとき、現場のデータを用いて研究を行うことはとても良い経験となりました。現場は研究的な視点が欠けており、研究者は実際に意味のあるデータを持ち合わせていないことが多いという現実にも気づくことができました。

実務をしながらの研究活動でしたが、テクノロジーの現場を統括しており、かつ柔軟に動けるスタートアップだからこその目線と、研究者としての目線は相互に良い影響を与えることができたのではと感じています。そういった活動からデジタルプラクティスという論文誌にも寄稿することができ、成果を国際学会で発表することもできました。

デジタルプラクティスへの寄稿

国際学会での発表

世界一周を通して、次の挑戦領域を決める

その後、日本では特定の領域でNo.1をとることができたので、次は世界を目指したいと考え、次の挑戦のテーマを決めるために世界一周を実行しました。

ケニアのスラム街を案内してくれた方から「寄生獣という漫画を知っているか?」と聞かれたときは驚き、日本文化のポテンシャルを肌で感じました。「日本人として勝負できる領域はここしかない」という強い確信を得て、アニメ・マンガといった日本の誇る文化をベースとして世界へ向けて事業を創出することに決めました。

約40カ国、60都市を1年以内に回るというハードな旅程でしたが、(旅を通じて3kg痩せました)とても充実した期間でした。

ケニアのスラム街にて。写真の中央にいるのが私です。

2度目の売却、そして3度目の挑戦へ

帰国後、Virtual Character IP事業で2度目の起業をしました。そして2022年にSonyに売却するという貴重な2度目のExitを経験いたしました。

現在は、3度目の起業としてAnotherBall Pte. Ltd.を創業し、最高技術責任者を務めています。

特に力を入れているのが、誰でも1分でVTuberになれるアプリ「Avvy」の開発です。このアプリはすでに世界中で利用されており、プロモーションを一切行わずに体験版がわずか10日間で20万ユーザーを獲得し、TikTokやXで3万件ものUGC(User Generated Content)を生み出すなど、大きな反響を呼んでいます。

学生時代に創業した1社目と変わらず、日々新しいチャレンジを楽しみながら、これまでの経験を活かし、1度目・2度目よりも大きなスケールでの成功を目指して、愚直に事業に取り組んでいます。

誰でも1分でVTuberになれるアプリ「Avvy」

最後に / 後輩へのメッセージ

慶應義塾での時間は、皆さんの未来を形作る貴重な期間です。学業はもちろんのこと、サークル活動、友人との交流、そして時には海外へ目を向けることなど、あらゆる経験が皆さんの財産となります。

自分の興味や情熱がどこにあるのかを探し、それを深掘りしてください。そして自分なりに「自分の人生の時間をかけても良い」と思えるものに出会い、恐れずに新しい挑戦をしてください。AIを筆頭とした技術進化により、世界の情勢は加速度的に変化しています。変化を恐れるのではなく、変化を楽しみ、進化を続けることはどんな道に進んだとしても、今後大事な要素になるでしょう。

皆さんの輝かしい未来を心から応援しています。

プロフィール

島田 達朗(しまだ たつろう)
(千葉市立千葉高等学校 出身)

2011年3月
慶應義塾大学 理工学部 管理工学科 卒業

2013年3月
慶應義塾大学 大学院理工学研究科 開放環境科学専攻 修士課程 修了

2018年9月
慶應義塾大学 大学院理工学研究科 開放環境科学専攻 博士課程 修了


Connehito株式会社 共同創業者 元最高技術責任者
AnotherBall Pte. Ltd. 共同創業者 最高技術責任者

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