日本テレビアナウンサーの藤田大介です。
はじめに、塾員来往への寄稿を推薦して下さり、今年退職された情報工学科の萩原将文先生に深く感謝申し上げます。
私は理工学の世界から、言葉で伝えるアナウンサーの世界へと飛び込みました。その根っこには「世の中にまだないものを作り出したい」という変わらない情熱があります。
これから理工学部を目指す皆様にとって、「こんな出会いや夢もあるんだな」と、心が動くきっかけになれば嬉しいです。

『未来は白紙』。文系と理系の壁をこえた挑戦

今年、伝える仕事に就いて丸20年を迎えました。私のエネルギー源は、理系で培った『無いものを面白がって生み出す力』です。これは、大学時代、感性やAI研究の第一線で活躍されていた萩原先生から学んだ、ものづくりの哲学に大きく影響を受けています。

思えば、小学生の頃、映画『バック・トゥ・ザ・フューチャーⅢ』のエンディングで人生を変えた言葉に出会いました。タイムマシンを作ったドク・ブラウン博士のセリフで「君の未来は白紙。未来は君次第だ」という言葉です。
「未来は自分で自由に描いていけるんだ」という信念が、私の人生を形作ってきたように思います。
もともと、詩や俳句作りが好きな文系人間でした。しかし、高校受験で数学という壁にぶつかりました。「人がやらない科目だから極めてみよう」と、数学に真正面から向き合い、得意にした事で慶應義塾高校に合格。数学が一発大逆転を生んでくれました。

高校時代、理工学部の先生が放課後、授業に来てくれました。中でも安西祐一郎先生の講座で「人工知能」を学び、感激したのを覚えています。講義後、先生は「文系の感性を持った君が、理系の論理を極めれば、素晴らしい人になれる」「理系と文系の壁を壊してほしい」と激励して下さり、私の胸は高鳴りました。
「誰もやっていないことに挑戦したい!」 
先生の言葉で理工学部への進学を決意したのです。

研究とは人を知ること。画像解析と情熱の日々

大学では迷わず萩原研究室に入りました。萩原先生は当時「人間の感性をコンピュータに与える感性工学」の分野で知られており、やりたい事がすぐに見えたからです。
私の研究テーマは、「視覚障がい者支援のための画像解析」。街なかのピクトグラムを認識し、歩行支援システムを作るというものでした。研究室では真夜中までパソコンと格闘し、カップ麺を食べながら朝日を見る日々でしたが、楽しい思い出でした。

当時の画像解析は、計算が複雑なフーリエ変換が一般的でした。私は、処理に時間がかかり熱を持つコンピュータを見て、「機械も大変そうだ。もっとシンプルな方法はないか」と感じていました。
「計算が難しいなら計算をさせなければいい」
逆転の発想を思いつきました。画像を描くピクセル一つ一つが、自分の色を宣言することで『エッジ(境界)』を炙り出すというユニークなアルゴリズムを考案し、処理速度は飛躍的に向上!萩原先生も一緒になって喜んで下さった忘れられない思い出です。

深夜プログラミングをする筆者(行き詰まっている様子)

大学4年、萩原研究室での花見、先生と。

「無いものは創る」。発揮できた理工学部での経験

同時に、私が情熱を注いだのは「人」でした。日中、視覚障がいの方々のもとに通い、インタビューに明け暮れました。何に不便を感じ、何があったら便利なのか?楽しい未来を語り合いました。研究者は部屋で本を読み知ったつもりになるのではなく、生の声を集めてこそ、本当に役立つシステム開発になると信じていたからです。

困っている人の為に、熱を込めてモノ創りし、笑顔を生み出したい!聞く事と創り上げる事への興味が、2005年日本テレビへの入社に繋がったと思います。

入社後、私はアナウンサーの仕事に、「理系の自分」を生かす試みを様々してきました。特に、国民的行事である箱根駅伝中継現場で生かせた経験は自分の大きな勲章です。
当時、アナウンサーはレースデータを毎晩徹夜して手打ちで入力し、分厚い中継資料を作るのが慣例でした。1つのミスも許されませんから口に出して何度も確認をします。入力時間を、言葉を生み出す時間にあてられたらどんなに良いだろう・・・。そこで大学で培った「無いものは自分で創る」精神で、数字処理と資料入力を自動化するソフトウェアを、日々の取材の合間に自ら開発し先輩後輩に配布してみました。
すると徹夜での入力作業が無くなり、働き方が変わりました。私が現場を知る伝え手であり、かつプログラミング知識を持っていたからこそ、「アナウンサーに特化したシステム」を設計する事が出来ました。理工学部でのプログラミングは一見何の関連もなさそうなアナウンサーの仕事の上でも大きな武器になったのです。

箱根駅伝実況車内の様子(2007年入社2年目)

私はアンカー。「伝える」言葉を、日々発明

同じ慶應の後輩徳島アナ(2011年 法学部卒)と
ニュース前の打ち合わせ風景

現在もテレビ局でアナウンサーをしながら、日々「言葉の発明」を楽しんでいます。
日々のニュース番組では、政治、経済、国際情勢等、取材した記者から話を聞き、分かりやすく自分の言葉で届けるか、試行錯誤を続けています。また、科学を楽しく伝える「所さんの目がテン!」では、取材からスタジオでの解説まで幅広く関わり、「子供目線で楽しめる言葉」を日々探求しています。

アナウンサーは、画面に出ているのは仕事全体の約1割、9割以上は地道な取材や準備の時間です。
研究者でいえば、プレゼンテーションと、発表に向けての準備・基礎研究と言い換えられるかもしれません。

番組ナレーションブースにて(箱根駅伝)

この仕事への姿勢は、日本テレビの社訓「創意工夫」の精神と深く繋がっています。かつて、箱根駅伝中継の生中継が「技術的に無理」と言われた時代も、先輩たちが独自の伝送技術を発明し、不可能を可能にしました。私も、新人時代「初めての人でもわかりやすく冠言葉を考えるように」と先輩に教わったように、「伝え方」の発明を続けています。専門用語の言いかえ、スポーツ選手を光らせる一言・・・、常に頭はフル回転です。

私にとって、アナウンサーは、伝え手として視聴者に届ける”アンカー”=”最終走者”だと思っています。面白く、分かりやすく伝える為、0から1を日々生み出し続けることに、大きな喜びを感じています。

この考え方の原点は、間違いなく慶應義塾理工学部で学んだ「無いものは創り出そう」という精神です。
これからも、私はメディアという舞台で、人々の生活を豊かにする発明をし続けたいと思います。

萩原先生記念講演時(2025年1月)

プロフィール

藤田 大介(ふじた だいすけ)
(神奈川県私立慶應義塾高等学校 出身)

●経歴
2004年3月
慶應義塾大学 理工学部 情報工学科 卒業

2005年3月
慶應義塾大学 大学院理工学研究科 開放環境科学専攻 修士課程 中退

2005年4月
日本テレビ放送網株式会社 入社
コンテンツ戦略局アナウンス部 主任

担当番組 「NNNストレイトニュース」(月)~(木)
     「所さんの目がテン!」(日)
     「鉄道発見伝 鉄兄ちゃん藤田大介アナが行く」
     「MotoGP世界選手権」「箱根駅伝」「高校サッカー」ほか (2025/11時点)

現在に至る


●著書
「でんしゃでおぼえる!はじめてのプログラミング」(交通新聞社)

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