この度は塾員来往の執筆の機会をいただき感謝いたします。学生生活で学んだことが今に活きつつあることが少しでも伝われば幸いです。

大学入学まで ~原点は「身近な人の助けになる」・「一家に一台の家事手伝いロボット」~

小学生の頃、人型ロボットが少しずつメディアで注目され始めていました。身近な人を助けることに心地よさを感じていた私は、「一家に一台の家事手伝いロボット」の時代を夢見ていました。この夢は、機械工学が専門の父、電子工学が専門の祖父が特に応援してくれました。ロボットには幅広い知識の組み合わせが必要だと助言してくれたことに今でも感謝しています。この当時の夢は変わらず、大学では自然と理工学部を志望しました。

⼤学・大学院時代 ~「広さ」と「調和」を追い求める~

学科分けでは、ロボットに必要な専門知識を幅広く学ぶため「システムデザイン工学科」に選択しました。そして、研究室は、学生の自主性を重んじる風土、先生が研究を楽しそうに語る姿から桂研究室を志願し、人のように器用なロボットを研究テーマにしました。例えば、人がモノを「つかむ」「運ぶ」作業に関して、動きや力加減のデータを分析して、相対的な関係性から特徴を見出しました。これを、状況変化に依らず決められた場所に向かう「かたい」位置制御、状況変化に柔軟に倣う「やわらかい」力制御、「座標変換」や「モード」といった数学や工学上の概念に対応付けながら議論をまとめました。

サークルは慶應義塾マンドリンクラブというオーケストラサークルに所属していました。イタリアの弦楽器であるマンドリンを中心とした構成で、私はクラシックギターを演奏しました。演奏会ではクラシック音楽を、合宿では有志や学年ごとに様々な曲を演奏しました。ギターは未経験だったため、始めは苦労しましたが、合宿でソロ演奏をしたり、仲間と息を合わせてコンサートホールで音楽を創ったりする楽しさは良い思い出です。

演奏会のリハーサル

合宿でのソロ演奏

大学院時代の転機は博士課程教育リーディングプログラムへの参加でした。企業や官公庁等で活躍する博士人材を育てるコンセプトに魅力を感じて志願しました。専門性を広げるために2つの修士号と1つの博士号を目指すことが研究面での特徴でした。私は理工学研究科の修士課程修了後、経済学研究科で修士号を取得しました。中妻教授の指導の下、経済データが持つ時間・空間的な特徴を考慮した景気指標の推計を行いました。この時の経験から、博士課程では物理現象だけでなく広く現象の時空間的な構造を扱うこととなりました。

日々の活動では、毎週学生や企業から参加いただくメンターが集まり、“超成熟社会”という共通テーマに向けた政策提言について討議しました。多様な参加者と共通認識を広げながら議論を積み重ねる経験は、今でも活かされています。

リーディングプログラムの同期

修士課程での海外活動として、タイの幼稚園でボランティア活動を行いました。言葉が通じない難しさがありましたが、遊びを通じて少しずつ距離を縮めていきました。ホームステイ先では日本の食事、教育などの話をしました。自身の経験を伝えたところ、日本ではそうなのか、と国を代表した意見となることに驚いたのをよく覚えています。

タイの幼稚園で図形遊びを教える

博士課程における海外活動では、米国のカリフォルニア工科大学に留学しました。留学先では、ロボットが効率的に目的地に移動するための最適化問題を扱いました。難しいテーマでしたが、学生や教授と議論を重ねながら、無事にプログラムが動いたときには達成感がありました。研究室では、日本での研究や文化なども話しましたが、ここでも、日本ではそうなのか、と国を越えれば発言が国を代表することを再認識しました。振り返ると、これらは自身のキャリアにおいて国を意識する原体験になっていました。

留学先の研究室

キャンパス

そして、この留学生活は塾員に支えられて乗り切ることができました。不慣れな土地を案内いただき、精神的にも支えていただきました。やり取りの中で、留学期間の終盤にロサンゼルスマラソンがあるから記念に出ないか、との提案がありました。マラソンは未経験でしたが一念発起で挑戦して、何とか完走できました。ロサンゼルスの街並みを楽しみながら、何より大きな達成感が得られました。

マラソン完走

経済産業省での職務 ~学んだ「知識」、積んだ「経験」、鍛えた「視座」を活かし、また学ぶ~

仕事は、原点となる2つの想いを、より長期的視野で実現すべく経済産業省を志しました。入省後は、政府統計、ロボット政策、調査分析を担当し、現在は業務改革に携わっています。業務の簡素化、標準化、効率化等を通じて、「身近な人の助けになる」仕事をしています。最近は、AIの進化が目覚ましく、作業はAIが担い、人は最適なAIのオーケストレーションへと役割が変化しつつあります。こうした取組や環境変化は、研修講師として職員に伝えることで、組織が持続的に進化できるよう努めています。

研修講師

業務改革は大きな変化を伴うため、賛否両論となりやすいです。その際には、相手の主張を受容しつつ、ある面では意志を強く持ち合意形成することが求められます。これは「座標変換」で見方を変え、相手に倣う「力制御」と、状況変化に屈しない「位置制御」を組み合わせることに類似しており、興味深い構造を持つ仕事です。

学ぶ、そして、みんなで前に進む

情報が溢れ、AIが急速に進化する時代だからこそ、それを好機として学び続けています。最近では、微細な世界の量子科学や、広大な世界の気象学、様々な視座を直接学べる哲学を学んでいます。

現代社会は課題が複雑化していると言われますが、この状態は捉え方次第では、同じ課題を別の断面から見ている状態であり、みんなで協力しながら進めうる状況とも言えると思います。そのような中で、理工学部の環境は、課題を構造化し、本質を捉え、解決手段を具現化するために、知識を身に着け、経験を積み、視座を鍛えられます。私も一歩ずつ前に進んでいきます。一緒に前に進んでいきませんか。

プロフィール

永嶋 弘樹(ながしま ひろき)
(埼玉県立川越高等学校 出身)

2012年3月
慶應義塾大学 理工学部 システムデザイン工学科 卒業

2014年3月
慶應義塾大学大学院 理工学研究科 総合デザイン工学専攻 修士課程 修了

2015年3月
慶應義塾大学大学院 経済学研究科 経済学専攻 修士課程 修了

2017年4月
経済産業省 入省
大臣官房 調査統計グループ 総合調整室に配属

2021年3月
慶應義塾大学大学院 理工学研究科 総合デザイン工学専攻 後期博士課程 修了(博士(工学))

2023年7月
経済産業省 大臣官房 業務改革課 課長補佐

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