塾員来往への寄稿の機会を頂き、大変光栄です。まず、博士まで送ってくださった、藤代一成先生に深く感謝申し上げます。

私は、ダブルディグリープログラムを機に修士課程から慶應義塾大学に留学してきました。 フランス生まれ・フランス育ちで、エコール・サントラール・ド・ナントというグランドゼコールに通い、協定校である慶應義塾大学の理工学研究科に留学させていただきました。博士課程リーディングプログラムに採択されたあと、修士からそのまま博士まで行きました。

そこで、ベンチャーをやるためリーディングプログラムを離脱しましたが、博士だけは諦めませんでした。学生時代は学業と企業を二刀流でやらせていただきました。

初期のベンチャーを複数社経験した後、現在は株式会社ソラコムでエンジニアリングマネージャーを務めています。日本では「木本 真理究」という名前を名乗り、その名前の当て字は藤代先生が考えてくれました。

来日前

フランスのジュラ地方の高校を卒業後、数学が得意だということで、地元の地方都市に出て2年間数学専攻の Classes Préparatoires (クラス・プレパラトワール)に通いました。フランスの高等教育システムにおいて、クラス・プレパラトワールとは、グランドゼコール受験に挑むために基本2年通わなければいけない予備校のことです。受験に合格し、エコール・サントラール・ド・ナントというグランドゼコールに進学しました。

私の今までの人生は、自分で何も決めず、育った場所および成績により定められたところに行くのみでした。これからは違ったのです。

エコール・サントラール・ド・ナントで留学生が多く、それをきっかけに中国語および日本語を勉強し始めました。幸運に恵まれ、日本人男性と学生寮の同じ部屋に住むこととなりました。お陰様で、日本語の学習が更にできて、大変感謝しております。
そこで、飽きていたフランスを離れる決意をし、我が校の協定校である慶應義塾大学に行くことにしました。

ちなみに、エコール・サントラール・ド・ナントで在学中、プログラミングのバイト(ウェブプログラミングおよび腎臓シンチグラフィーの画像診断の分析プログラム)をしていたため、コンピュータサイエンスを更に学び、情報可視化の研究を進めたいと思い、藤代研究室に連絡を取ることにしました。幸いなことに、藤代先生は受け入れてくださいました。

ちなみに、日本を選んだ理由はよく聞かれます。20歳の私は「日本の人は勤勉だ」と聞いていおり、勤勉な文化のほうが私に合うと思っていたためです。

日本での大学生活

博士課程リーディングプログラムに応募し、リサーチアシスタントとして収入が得られることを期待していました。フランスで1週間数ユーロの食費で奨学金のお金を貯めて、留学に行きましたが、当時東京の生活費はフランスの地方の数倍で、貯金があっという間に消えると覚悟していました。リーディングに受かっていなければ、何らかのバイトをする予定でしたが、運良く受かりました。ちなみに、お金がなくなりそうなときに、慶應の事務の方が食料を分けてくれて、手伝ってもらいました。とても感謝しています。

リーディングプログラムのおかげで、安定した収入を得てしばらく学業に専念することができました。研究室の同級生全員と仲良くできて、心配なくキャリアの次のステップに行くことができました。

医療に関心があったため、計算法科学(Computational Forensics)という研究テーマにしました。司法解剖にも同席させていただいて、普段ありえないような体験もできました。

また、学会での出会いを通じて、日本で初めて仕事をいただきました。そこから初期の複数社のIT系ベンチャー企業に関わることができました。その次、サイマックス株式会社という医療系ベンチャーで Internet of Things (IoT) の開発業務をやらせていただいて、ハードウェアの設計・製造・デバイスファームウェアの開発・クラウドソフトウェアのあらゆるレイヤーの技術に触れることができました。大変刺激的で新鮮でした。やっぱり、お客様にとって価値になるものを創るのが何より楽しかったです。

博士時代

そこで、時間が足りず、博士課程リーディングプログラムを離脱することとなりましたが、博士への進学はそのまま進みました。なんとか、仕事の間で研究ができたら良いと思っていました。

そこで、株式会社エピグノという会社の創業チームで最高技術責任者(CTO)として、病院にシステムを提供し、システム開発・顧客ヒアリング・組織の増員・エンジニアの採用を担当しました。

博士課程では、計算法科学から天文学の分光データ可視化にテーマを変更し、AFLAK(アフラーク)という分光データ解析用ビジュアルプログラミング環境を提案し、藤代先生や多くの協力者のおかげで博士号を取得することができました。

そこからもっと長く企業と学業を両立したくて、卒業後2年間訪問研究員をしましたが、企業のほうがどんどん忙しくなり、残念ながら研究の方を離れることとなりました。

現在

現在、IoT プラットフォームを提供している株式会社ソラコムでシニアエンジニアリングマネージャーを務めています。山が好きで、猪苗代町・東京の2拠点生活をしています。医療・インフラ、人間社会に欠かせない基盤となるシステムの開発に貢献できたらいいなと思っております。

プロフィール

木本 真理究(きもと まりく)
Malik Olivier Boussejra (マリク オリヴィエ ブセジュラ)


2016年9月
ダブルディグリープログラム終了
慶應義塾大学 大学院理工学研究科 環境開放科学専攻 修士課程 修了
Master of Generalist Engineering, École Centrale de Nantes

2019年9月
慶應義塾大学 大学院理工学研究科 環境開放科学専攻 博士課程 修了

2015年12月
サイマックス株式会社 リードエンジニア

2018年6月
株式会社エピグノ 最高技術責任者

2023年2月
株式会社ソラコム シニアエンジニアリングマネージャー

現在に至る

ナビゲーションの始まり