このたびは、塾員来往への寄稿の機会をいただき大変光栄です。私が慶應義塾大学理工学部で学んだこと、そしてその学びをどのように社会で生かしてきたかについてお話しします。

なぜ理工学部へ?

私は高校まで湘南白百合学園という自宅近くの私立の女子高に通っていました。数学は得意でしたが、国語が苦手だったため、自然と理工学部に進学したいと思うようになりました。受験を経て、慶應義塾大学理工学部に入学しました。

プログラミングがおもしろい!

慶應義塾大学への通学は、鎌倉市の自宅から片道1時間半ほどかかり、乗り換えも2回必要とかなり大変でしたが、すぐに友達もでき、新しいことをたくさん学べる環境が楽しかったです。授業には全て出席し、ノートもきちんと取っていたため、試験前には多くの友人が私のノートをコピーしていました。私を知らなくても、私の字を知っている人が多かったのは、ちょっとした自慢です(笑)

大学で初めて触れたのが計算機でした。KCS(KEIO Computer Society)というサークルに入り、日吉の計算機センターの大型計算機でプログラムを作成することから始まりました。当時は、パンチカードというカード1枚にプログラムの1行を打ち込み、カードリーダーで読み込ませるという方法でした。先輩が出す課題に、作成したプログラムがエラーなしで動作し、意図した結果が出ることがとても嬉しかった記憶があります。ほかにもクラスの友人とπを算出するプログラムを通して、書籍に載っている値と比較して何桁までいけるかを検証するなど、すべてが面白かったです。

専門は管理工学科

3年次に管理工学科を選択しました。授業としてはIE(Industrial Engineering)、統計、OR(Operations Research)、経営管理・計量経済、コンピュータと多岐にわたる上に、実験と演習が非常に多く、大変忙しい毎日でした。実験は終わるまで帰れないため、自然と仲間との絆が深まりました。また、工場見学ツアーの幹事を務め、学科の有志50人で、東海地方の著名な5社に工場見学させていただきました。林喜男先生や小澤正典先生が引率してくださり、非常に楽しい課外学習となるとともに、生産工学等の管理工学と実際の製造現場との関連を深く理解することができました。1986年の卒業時には、学科首席で慶応工学会賞をいただきました。副賞の時計は今でも私の宝物です。

NTTに入社、その後 MIT留学

1988年に修士課程を修了し、NTTに就職。ソフトウェア研究所に配属となりました。プログラムを作ることは好きでしたが、もっと効率よく作りたい!生産性を上げたい!という思いから、ソフトウェア生産技術の研究に従事しました。

1996年に事業部(国際部)に異動した後、1999年には社費でマサチューセッツ工科大学のMOTプログラムに留学しました。技術系バックグラウンドを持つミッドキャリアのための1年のビジネス修士コースで、英語で新しいことを学ぶのは非常に苦労しました。しかし、慶應の管理工学科で学んだ確率と統計、財務諸表などの会計、経済学がほぼそのまま授業にあり、非常に役立ちました。これらの学びは、ビジネスの中で実際に活用されるものであり、学んだことに無駄はありませんでした。

NTT初の女性取締役

帰国後は、学んできたことを活かし、技術をベースにサービス開発・ビジネス開発に従事しました。2000年はブロードバンド元年と言われ、ADSL、光回線サービスとブロードバンドが大きく増えて、そこで、ネット上で映像サービスを見る という今では当たり前なことが、やっと楽しめるようになった時代でした。NTTコミュニケーションズが提供したOCNシアター(2008年にひかりTVに統合)をはじめ、映像配信ビジネスに従事すること約10年。その後もインターネットを活用したビジネス開発に従事し、その時の活動を後に認めていただき、コロナ下の 2020年度慶應の矢上賞を受賞しました

2019年には、NTT持株(日本電信電話株式会社)の初の女性取締役・技術企画部門長に就任。この技術企画部門長では、グループ全体のDXを推進することがひとつの役目でありました。NTTグループは900社以上の会社から構成され、事業も携帯事業、SIコンサル、地域通信、インフラ事業、都市開発事業等多岐にわたるとともに、各社の既存の業務もあり、なかなか業務やツールの共通化は難しく、簡単には合意の得られない施策も多くありました。が、プロセスを抜本的に見直し、新しい技術やアプリケーション・ツールを用いて効率化を進め、新たな価値を創造する、まさに管理工学科で学んだことの実践だったように思います。

今、代表取締役社長

4年間の日本電信電話株式会社での役員としての責務を担った後、現在はその直下の子会社のひとつNTTテクノクロスで代表取締役社長として約2000人の社員とともに、社会課題をソフトウェアや技術で解決するビジネスを推進しています。

還暦も過ぎましたが、人生100年時代、まだまだ社会のために貢献できることがあると考えています。生成AIほか、新しい技術も次々に登場し、まだまだ学ぶことが多いです。今後も、慶應義塾大学、理工学部管理工学科でのすばらしい学び、人脈なども生かしながら社会に貢献していきたいと思います。

プロフィール

岡 敦子(おか あつこ)
(湘南白百合学園高等学校 出身)

1986年3月
慶應義塾大学理工学部管理工学科 卒業

1988年3月
慶應義塾大学大学院理工学研究科管理工学専攻修士課程 修了

1988年4月
日本電信電話株式会社(ソフトウェア研究所) 入社

2000年6月
マサチューセッツ工科大学 Management of Technology(技術経営)修士課程修了

2015年7月
NTTコミュニケーションズ経営企画部IoT推進室長

2017年7月
NTTレゾナント株式会社 取締役

2019年6月
日本電信電話株式会社取締役技術企画部門長

2022年6月
日本電信電話株式会社常務執行役員研究企画部門長

2023年6月
NTTテクノクロス株式会社代表取締役社長(現職)

現在に至る

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