物理学における統一理論の候補として、【超弦理論】が挙げられて久しい。超弦理論はすべてが「弦(ひも)」で書ける、重力を含む力と物質の理論である。このような理論を使うのは「宇宙すべてを簡単に考えたいから」だが、この欲深い気持ちを以下で説明したい。

 自然界の微視的現象のほとんどは、【素粒子標準模型】により説明できる。この模型は、物質を構成する電子や、電磁気力を媒介する光子など『数十種類』の素粒子と、それらの質量と力の大きさなどを表すパラメータ『数十個』を含む。説明能力の高さ故に生じる模型の複雑さにウンザリして「もっと簡単な模型が欲しい」と考える人は多い。

 またこの模型は、宇宙全体の5%程度しか説明できていない不満がある。宇宙の95%は正体不明で、【暗黒物質】と【暗黒エネルギー】の言葉を聞いたことがあるかもしれない。暗黒物質は星々を含む銀河やその集まりの銀河団を形作る重力源と思われている。また今の宇宙の体積は時間とともに加速膨張している事が知られているが、万有引力である重力と比較し、暗黒エネルギーは膨張を加速させるために宇宙全体を押す『万有斥力』と言っても良い。宇宙(と人間に)大事なこれらを正体不明にしているのは、微弱な重力を通じ、これらを観測している故と思われる。(例えば、電子同士に働く重力と電磁気力を比較すると、1040以上も大きさが違う。)重力は、巨視的には一般相対論が正しいと思われるが、膨張する宇宙を時間とともに遡ると初期の宇宙は極小だったと思われる。宇宙すべてを知りたいなら重力の微視的な性質を探る必要があるが、微弱ゆえに良くわかっていない。つまり初期宇宙に既知の素粒子だけがあったのか、今のように空間が3次元だったのかも分からない。しかし『暗黒』があるのなら、宇宙は多数の未知の自由度を含むだろう。既知の多数の素粒子、重力、そして正体不明の(多数の)『暗黒』を含む宇宙は複雑なので「理解可能でシンプルな宇宙の原理が欲しい」と欲深く思う人も多い。

 上記の観測と無関係に、超弦理論という「宇宙に含まれ得るすべてを弦として理解できるかもしれない理論」があるので、それに飛びつくのは人情かもしれない。超弦理論では、素粒子=小さな弦であり、重力や素粒子間の区別は、弦の巻き付きや振動の違いで生じる。つまり既知の素粒子と同じように、重力や『暗黒』の候補も扱えるので万事解決…と思いきや、高い自由度からのせいで理論の基底状態が無数に現れてしまう。語弊を恐れず言うと、無数の平行宇宙が現れて、我々の宇宙がどれか、宇宙は1つなのか分からない。これは(解決が不可能に見える程)複雑な運動方程式が解けていない故の問題と思われる。

 欲深くて魅力的な統一理論は、シンプルゆえに、幅広く物事を含み過ぎて複雑になっているのが現状である。研究の手法や方向性をどう再考するか、統一理論を検証できるか、今後の課題だろう。

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