COVID-19のパンデミック中、朝起きたときに喉に違和感を覚え、熱があると感じた経験はありますか?それがCOVID-19かどうか判断するには、医師の診察を受け、外部機関に送られたサンプルの結果が分かるまで、少なくとも24時間かかりました。一方で、流行後期に迅速で低コスト、かつ簡単な操作での在宅診断を可能としたのは抗原検査キットです。この抗原検査キットとは何なのでしょうか?多くは、細長い紙上に必要な試薬が予め乾燥した状態で保存されているもので、滴下したサンプルは毛細管現象によって試薬とともに流れ、肉眼で結果を確認できます。 

 抗原検査キットに限らず、臨床診断では「Point-of-care testing」(POCT)という、患者の傍らで行う検査の需要が高まっています。2003年にWHOは、資源とインフラが限られた環境でも実用的で有効な診断法を提供するために、ASSURED基準 - Affordable(手頃な価格), Sensitive (感度), Specific (特異性), User-friendly (使いやすい), Rapid (迅速), Equipment-free (機器不要), Deliverable (ユーザーに提供可能) - を導入しました。

 私たちの研究室では、この基準を満たす紙基板分析デバイス(PADs)の開発に力を入れており、高い感度を持つ使いやすいデバイスの開発を行ってきました。これには、熟練した技術者が専用の実験器具や機器を用いて行う化学的および生化学的診断法を、紙基板上に適用することが求められます。それにより、複雑な多段階の臨床検査を、特殊な機器や試薬を必要とせず、一般の人が利用できるPOCTレベルにまで簡略化することを可能としました。成功の鍵の一つは、適切な試薬を選び、化学的手法によって乾燥状態で安定させることです。時には新しい材料の合成が必要なこともあります。第二の鍵は、マイクロ流路の作製です。毛細管力を利用したマイクロ流体パターンを、二次元平面にとどまらず三次元にまで拡張して設計した紙デバイスを作製することで、時間順次的な多段階反応を実現することができます。このようなアプローチを用いることで、ほとんどの操作ステップを省略し、簡単に使えるデバイスを開発しました。

 また、抗原検査キットの結果が陽性/陰性のみであるのに対して、より定量的な情報が必要な場合もあります。専門的な機器を使わずにわかりやすい検査結果を表示することは難しく、その実現に必要とされるのは革新的な分析アプローチです。以下に、その手法の一部を紹介します。

・距離型PAD:アナログ温度計で温度を読むように、色の変化した流路の長さから、サンプルの濃度を判断することができます(図1a)。

・QRコード型PAD:化学的に応答する試薬をQRコード型に印刷することで、スマートフォンで読み取るだけで、離れた医療従事者に判定結果を届けることができます(図1b)。

・信号機型PAD:判定結果を信号機の形で表すことで、直感的に危険度をユーザーに知らせることが可能となります(図1c)。

・テキスト型PAD:印刷する試薬の組み合わせや形を工夫することで、単なる線の有無ではなく、段階的な判定結果を直接、テキストとして読み取ることができます(図1d)。

このようにPADsを用いることで、判定結果を簡単かつ直感的に提示できる一方で、そのようなシステムの実現と生体サンプルへの応用には多大な努力を伴います。しかしPADsの開発は、研究者にとって挑戦的でありながらも、大きな成果を得られる研究分野であると、私は考えます。

図1 特殊な機器を必要としない直感的な判定結果をもたらすPADs:a)涙中のラクトフェリン測定の「距離型PAD」;b)金属イオンを測定する「QRコード型PAD」;c)尿糖値を示す「信号機型PAD」;d)尿中の酸化ストレスバイオマーカーを測定する「テキスト型PAD」。

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