学問を志す上で最も大切なこと・・・などと真面目な顔をしてこたえられる器ではない。ただひとつだけ、学問・・・研究も勉強も『知的好奇心』を持つことが大切だと考えている。知的好奇心を持てば、自然に何故だろう、どうしてだろうと考えるようになる。何事に対しても『考える』という行為は極めて重要である。スポーツの世界も同じかもしれない。ただやみくもに体を動かすだけでは得るものは少ない。いま自分が何をすべきかを常に考えて行動する必要がある。

私が興味を持っている材料工学や材料強度学の分野では、『表面』が極めて重要と言われている。それは何故だろうか?なぜ表面が大切なのか?その理由は、材料の表面は常に最も過酷な環境に晒されているからである。身近な機械や構造物を思い浮かべてみる。残念ながら機械は使用中にただ刻々と消耗する。我々人間の場合には、日々成長する・・・こともある。(個人的にとっくに止まっているが)しかし人工物は、そのようなわけにはいかない。

金属は我々の身の回りでも沢山使われており、様々な機械部品の素材として利用されている。機械を構成する部材としての金属を考えたとき、それが損傷して劣化する原因は腐食や摩耗、疲労などである。これらの『材料が損傷する三大要因』(勝手に呼び名をつけてみた)の間には負の相乗効果がある。例えば、使っているうちに表面が擦れて摩耗すると、その部分は腐食しやすくなる。ひとたび腐食が進行すると孔食と呼ばれる小さな穴が形成される。その穴(腐食ピット)の縁には応力が集中し、そこから疲労き裂が発生しやすくなる。発生した疲労き裂は使っている間に次第に進展し、やがてその機械は壊れることになる。

金属疲労を原因とする破壊事故は時には多くの人命を損なうことになる。例えば1985年に発生した日航機の墜落事故は『金属疲労』が原因と結論づけられている。このような悲惨な事故を世界中から消滅させることを究極の目的として、日々、『金属の表面改質に関わる研究』に従事している。

金属は表面が良ければそれでいい。でも人間はそれとは違う。人間の場合には、表面だけを良く装うと『あいつは上っ面だけだ。中身のない奴だ...』と陰口を叩かれることもある。中身を豊かにするためには知的好奇心が重要である。これを読んでいる若い人たちには、是非とも知的好奇心を大切にして何事にも取り組んでもらいたい。

余談 添付した図(絵)は研究室のマスコットである。今も共同研究を続けている理化学研究所の方が描いてくれた。なぜかメガネをかけたニワトリが卵を抱えている絵である。こもトリが卵を孵化してひな(学生)を育てることをイメージして描いてくれたらしい。残念ながら『学生を育てる』などとはおこがましくて言えない。でもすごく気に入ってあちこちで使っている。実はこれを粘土で3Dにしてくれた人が居て...研究室にはそれも飾ってある。

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