かつて半導体の集積度はムーアの法則に従い、18カ月で倍になりました。この集積度を活用して、コンピュータの性能は指数関数的に向上し、今やノートPC、スマフォ、タブレットなどに使われる汎用コンピュータの性能は、実用上不満のないレベルに達しています。一方、半導体の集積度の向上は、そろそろ先が見えてきて、このままブレークスルーがなければ、数年後には、集積度が全く向上しない「ポストムーア時代」がやってきます。では、この時代にコンピュータの進歩は止まっていいのか、というと決してそんなことはなく、深層学習やビッグデータ処理技術の発展により、自動運転、ドローン、ロボット、工場の自動制御、対話処理など特定の処理に対して非常に高い処理能力を要するコンピュータが必要になってきています。ポストムーア時代は、今までのように汎用コンピュータが何でもやってしまうのではなく、特定分野に限定した処理を、桁違いの能力と低消費エネルギーでやってのける特定用途向けアーキテクチャ(Domain Specific Architecture:DSA)の時代になるでしょう。

DSAは特定の分野に限って性能を実現すれば良いですし、クラウドコンピューティングの発達で、特殊で高額なシステムも多人数で共有することで商業的に成功することができます。このため、シストリックアレイ、ロジックインメモリ、アナログニューロなど今まで研究レベルでしか使われなかったアイディアが次々に実際のチップとなって使われています。Google, Amazonなどの巨大クラウド企業は、深層学習用の新しいコンピュータを自ら開発してクラウドで利用し、エッジ分野では、野心に燃えた起業家が新しい発想のチップを作ってどんどん市場に投入しています。プログラム格納型コンピュータ誕生以来70年を経て、我々はようやくコンピュータアーキテクチャ多様性爆発の時代を迎えようとしているのです。天野研究室は、超並列処理と再構成可能なハードウェアというアプローチで、この時代を切り開いています。図1は我々の開発したCMA(Cool Mega Array)という新しいアーキテクチャの構成図とチップです。競争は激烈ですが、対象分野も広がっており、誰にでも成功のチャンスはあるのです。

図1 省電力プロセッサCMAの構成図とチップ写真

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